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ポスドク研究者のためのサバイバル戦略10選
ポスドク研究員という立場は、博士課程修了後に学術界でキャリアを積もうとする人にとって、見習いや訓練の機会となります。先端的な研究を行い、専門分野の知識を増やしながら、さらに給付金ももらえます。また、大学教員としての義務(例: メンターとなること、研究助成金を獲得すること、研究室の日常的な管理・運営業務、他研究機関とのネットワーク構築など)についての実践的な知識を得ることができ、テニュア・トラックの教員職に就くための足がかりとみなされることもよくあります。
しかし、ポスドクには特有の困難も伴います。ポスドクに応募する博士号取得者の多くは、必ずしもそのことを分かっていないようです。本記事では、ポスドクの直面する困難にどのようなものがあるのかを確認した上で、どうしたらそれらを避けられるかを考えてみたいと思います。博士号取得後にポスドク研究員になろうと考えている方は、ぜひお読みください。
ポスドク研究者が必ず直面する6つの課題
1. 競争が激しい
ほとんどの国で政府の研究助成金は減少しており、大学でも非常勤教員の数を増やしているため、テニュア・トラックの職は減少しています。このため、年々増加し続ける多くのポスドク研究者は、熾烈な競争の中での悪戦苦闘を強いられています。非常勤の教員職でさえ得ることは難しく、安定した仕事を得るまでポスドクからポスドクへと渡り歩かなければならない人が大勢います。
2. 期間が限定されている
ポスドクは短期契約が普通です(最長2年)。たいていの場合、最初の半年間は環境を整えていろいろなことに慣れるための期間となります。ですから、まだ研究が終了しないうちに次のポスドクの職を探すことになるかもしれません。これでは生産性が低下してしまい、専門家としての評価に影響を及ぼす可能性があります。これが理由で学術界を去る研究者も多くいます。
3. 財政管理が困難
ポスドクの給与はささやかなものですから、何年もの間それだけで生活を維持していくのは大変です。家族を持つこと、家の購入、高齢の両親の世話、引退後の計画、教育ローンの返済などがポスドクの間の人生計画に含まれているなら、困難が予想されるかもしれません。
4. 仕事とプライベートのバランス(ワーク・ライフ バランス)の維持が困難
ときには慌ただしい出張スケジュールも入ることもある長時間の不規則な仕事は、特に家族を持つポスドクには厳しいものです。小さい子どもがいたり、配偶者も同じように大変な仕事をしている場合、仕事とプライベートのバランスをとることは難しいかもしれません。
5. 引っ越しのストレスがたまる。
最初のポスドク終了後に教員職が得られなかったときは、他の国や地域でポスドクを続けることを考えることになるかもしれません。既婚の研究者の場合は、転居先で配偶者に適した職をみつける必要が生じるかもしれませんし、そうでなければ単身赴任で遠距離の関係を維持することになる可能性もあります。
6. 大学や研究機関からの確実な支援が得られないかもしれない。
ポスドク支援のためのシステムやネットワークが組織されている学術機関はそう多くありません。助成金支給機関には、ポスドクのためのプログラムを強調しているところが多いのですが、必ずしも実行を伴っていません。また多くの場合ポスドクには、他の職員に与えられているような福利厚生がありません。
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当然ながら、これ以外にも様々な日々の課題に対処することはかなりのストレスになります。ポスドクの経験を最大限に活かし、安定した職にたどり着く確率を高めるためのサバイバル戦略とアドバイスを、以下にご紹介します。
あなたのポスドク生活を助けるサバイバル戦略10選
1. 何事も現実に即した方法で行うようにする。
ポスドクは充実した経験となりますが、困難を伴うものだと考えましょう。最初のポスドク終了後にテニュア・トラックの職を得ることができない場合を考え、次のポスドクの職を探して心の準備をしておきましょう。
2. 研究には熱心に取り組むべきだが、頑張りすぎない。
研究には最善を尽くすべきですが、頑張りすぎないようにしましょう。早い段階で燃え尽きてしまうと、憂鬱になったり挫折感を味わったりするかもしれません。週末は休息を取るようにするとよいでしょう。
3.短期目標を設定する。
短期的な目標をたて、少しずつ優れた出版論文を蓄積して行くようにしましょう。自分が第一著者の論文を少なくとも1、2本、インパクトファクターの高いジャーナルから出しましょう。目標としては、今度開催される主要な学会で発表すること、その分野の先端を行く学術機関との共同研究などが考えられます。定期的に進捗状況を見直すようにしましょう。
4. 積極的にネットワークを広げる努力をする。
ネットワーク作りをした人(名刺交換をした人)全員が、いつかきっと何かの助けになってくれるはずだということを忘れないようにしましょう。信頼の置ける研究仲間、同僚、上級研究者など、求人に応募するときに喜んで推薦状を書いてくれるような人々とのネットワークを構築しましょう。資金やリソースが足りない時期などにも、彼らの協力やネットワークが役立つことがあるかもしれません。また、あなたもネットワークの一部として、他の人が困っていたら手を差し伸べましょう。
5.ソーシャルメディアを積極的に活用する。
新しい時代の科学者として、ソーシャルメディア上の学術的な議論には積極的に参加すべきです。自分の論文もソーシャルメディアで宣伝しましょう。学会に参加するときにはソーシャルメディア上の連絡先も意識し、自分の連絡先に含めるようにしましょう。
6. 職に応募する時期を見極める。
インパクトファクターの高いジャーナルに論文が掲載されたり、あるいは論文がソーシャルメディアで取り上げられたりしたら、間髪入れずに求人先に応募書類を送りましょう。時機をとらえてうまく自分の成果を利用しないと、向上心に欠けるという印象を与えかねません。
7. できるだけ積極的に求職活動を行う。
できるだけ多くの求人に応募するようにしましょう。そうすれば、面接(インタビュー)に呼ばれる確率がそれだけ高くなります。強いインパクトのある履歴書(CV)を作成し、CVとカバーレターは同じものを使いまわすのではなく、それぞれの求人に合わせて調整し、加工しましょう。
8. 面接(インタビュー)に備える。
学術機関の面接は、一般企業の面接とは形式が異なることを知り、十分な準備を整えましょう。研究に関する講演の準備をし、プレゼンテーションの練習をしましょう。面接は疲れるものですが、価値ある学びの機会でもあります。次の面接により良い備えができ、徐々に自信もついていくでしょう。
9. 自分に与えられた選択肢についてよく考える。
最初のポスドク終了後、すぐにテニュア・トラックの職を得ることはできないかもしれませんが、その事実を受け入れましょう。非常勤の教員職では、テニュア・トラックのような保障は得られないかもしれませんが、妥当な給与をもらって科学の世界にとどまり、かつ自分の研究室を管理する責任を負わなくてもよいという自由を得ることができます。もし小さい子どもを育てているなどの個人的事情があるなら、このような職も合っているかもしれません。やがてここから、長期的な雇用につながる機会が得られるかもしれません。
10. 偏見にとらわれない広い心を持つ。
大学教員職の他にも、民間企業や非政府系機関での研究職jなど、学術界の外で職を得る選択肢はいくつもあります。こちらのインフォグラフィックでは、博士号取得者とポスドク研究者に適した、興味深い15通りのキャリアを紹介しています。
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ポスドク研究者が個人的な困難や職業上の壁をいくつも乗り越えなければならないことは、紛れもない事実です。しかし、しっかりとした心構えで情熱をもって研究を追求するのであれば、苦労するだけの価値はあります。ポスドク研究員になろうとしている博士号取得者の皆さんは、過度な期待をせず、十分な準備をした上でその道を進むようにしましょう。
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