日本版プレプリントサーバーは研究結果の普及に変化をもたらすか
科学技術振興機構(JST)は今年3月、日本で初めての本格的なプレプリントサーバー「ジェイカイブ(Jxiv)」1の運用を開始しました。
学術ジャーナルの通常の論文出版プロセスには、投稿から出版までに数か月~数年という長い時間がかかるという課題があります。その点、研究結果をプレプリント(未発表の査読前論文)としていち早く公開できるプレプリントサーバーは、速報性という点で優れています。
COVID-19のパンデミックでは研究結果の迅速な共有が求められ、世界的にプレプリントの公開が急増しました。しかし、日本にはこれまで本格的なプレプリントサーバーがありませんでした。日本の論文出版点数は世界的に見ても多い方ですが、プレプリントの公開はあまり活発に行われていません。この現状を変えるための施策として打ち出されたのがJxivです。
Jxivの特徴
Jxivは、自然科学分野だけでなく、人文学や社会科学を含むすべての分野を対象としています。日本語または英語での投稿が可能で、閲覧も投稿も無料で行うことができます。投稿されたプレプリントは、JSTによるスクリーニングが行われますが、専門家による査読は行われません。スクリーニングを通過すると数日以内に公開され、国際的識別子DOIが付与されたオープンアクセスコンテンツとして公開されます。なお、投稿は国内外から可能ですが、投稿にはresearchmapまたはORCIDのIDが必要です。また、査読付きジャーナルでの出版後も、プレプリントバージョンはJxiv上で公開され続け、ジャーナル出版されたバージョンへのリンクを掲載することができます2。
Jxivへの期待と懸念
研究結果をより迅速かつ幅広く発信することを目指して起ち上げられたJxiv ですが、3月の運用開始以降、6月初めまでにアップロードされた論文は40本未満です3。編集・校正や査読なしで公開されるプレプリントには、論文の質が玉石混交だという批判が以前からあります。
マサチューセッツ大学と東北大学で活動するポリマー科学者のトーマス・ラッセル氏は、研究を迅速に広めるためにプレプリントサーバーは必ずしも必要ないと考えています。「優れた研究であれば、査読プロセスを経て迅速に世に出て行くでしょう」。同氏は、日本の研究者にプレプリントサーバーの使用を奨励しても、オンラインで十分な精査は行われないのではないかと懸念しています。その理由について、「日本人は欧米人と違って公の場で批判することを遠慮してしまいそうだから」と述べています3。
他方、Jxivの利用が増えていくと見ている研究者もいます。熊本大学の発生学者Guojun Sheng氏は、将来的に資金提供機関が研究者にJxivの使用を求め始める可能性もあると考えています。「政府がバックアップしているなら、いずれ定着していくでしょう」3。
参考資料
1. https://jxiv.jst.go.jp/index.php/jxiv
2. https://www.jst.go.jp/pr/info/info1551/index.html
3. https://www.nature.com/articles/d41586-022-01359-x
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