セルフ・アーカイブを通じて、より多くの読者を獲得しよう!

セルフ・アーカイブを通じて、より多くの読者を獲得しよう!

さて、研究論文がとうとう完成し、希望したジャーナルに論文が掲載されました。次は研究の影響力を高めるために、自分の論文を科学コミュニティー内外の多くの読者に読んでほしいですよね。自分の研究論文をより多くの人に届ける方法の一つに、セルフ・アーカイブがあります。


セルフ・アーカイブとは?

セルフ・アーカイブとは、科学文献のデジタル版をオンライン上に置くことです。研究論文をセルフ・アーカイブした場合、誰もが自由にあなたの論文をインターネット上で閲覧できることになります。他の言葉で言いかえれば、セルフ・アーカイブによって、あなたの研究は“認識されやすく、収集されやすく、検索されやすく、使用されやすい”ものになり、結果として、より多くの人に読まれ、影響を与え、引用されることになるのです。 



セルフ・アーカイブは通常の投稿プロセスのどこに当てはまるか?



下記のとおり、自分の研究論文の様々なバージョンをセルフ・アーカイブできます。査読前のバージョンはプレ・プリント(pre-print)と呼ばれ、査読が済んで出版に向け採択されたバージョンは査読済みポスト・プリント(refereed post-print)と呼ばれます。また、オンラインで入手可能な論文はすべて、電子版プリント(e-prints)と呼ばれています。

原稿がセルフ・アーカイブされる諸段階(適用後5 )

 

どこでセルフ・アーカイブできるか?

研究論文は、電子アーカイブであるリポジトリか、個人サーバ上にセルフ・アーカイブできます。

  • 所属機関のリポジトリ  多くの大学や研究機関では、所属する研究者が自分の研究論文を保存できるリポジトリを用意しています。これにより、所属内でお互いの研究論文を自由に閲覧することができ、その大学(研究機関)で行われている研究全体の俯瞰が可能になります。
     
  • 研究分野に基づいたリポジトリ アーカイブの中には、特定の研究分野に特化し、その分野で大変、有名になっているものがあります。たとえば、生物医学分野のPubMed 、経済学分野の RePEc 、 物理学や数学、コンピューター科学の分野有名な arXivがそうした挙げられます。
     
  • 個人サーバやプロフィール・ページ 研究者は自分たちの研究を各自のウェブページでアップすることも可能です。さらに、ResearchGate のような研究者向けのソーシャル・ネットワーク・サイトには、アップロードされた出版物用のページがあります。



セルフ・アーカイブに関連した著作権問題

プレ・プリントt版の論文をセルフ・アーカイブすることは、出版社に投稿する前に行うのですから、当然、著作権上の問題はありません。したがって、法律の問題ではありません。非常にまれですが、ジャーナルが著作権の問題ではなく、ジャーナルのポリシーの問題として、プレ・プリント版のセルフ・アーカイブを認めないことがあります。自然科学(物理学、コンピューター科学など)においてセルフ・アーカイブは一般的になっていますが、、生物医学分野ではそれほどでもなく、それぞれの学問分野によって傾向は異なります。一方、査読済みポスト・プリント版の著作権は多くの場合、ジャーナルに帰属し、もしジャーナルのポリシーに従わなければ、セルフ・アーカイブは法律違反に問われます。ジャーナル(出版社)はポスト・プリント版のセルフ・アーカイブに関して、異なる著作権ポリシーを取っています。

下の表は、セルフ・アーカイブに関する各出版社のポリシーを示したものです。7 多くの出版社がセルフ・アーカイブに関してなんらかの許可をしていますが、セルフ・アーカイブをおこなう前に、ジャーナル(出版社)のポリシーを確認しておきましょう。

 

なぜセルフ・アーカイブは広くおこなわれていないのか?

セルフ・アーカイブがこのように利益をもたらすのなら、なぜ広く普及していないのでしょうか? いくつかの理由と、それに対するセルフ・アーカイブの特徴に触れたいと思います。8 

 

  1. セルフ・アーカイブする利点に対する無知
    大多数の研究者が、セルフ・アーカイビングの利点に気づいていません(それ以前に、セルフ・アーカイブ自体を知らない)。したがって、自らの所属先にリポジトリがあったとしても、所属先からの指示がない限り、わざわざセルフ・アーカイブすることはないのです。
     
  2. セルフ・アーカイブされた論文のクオリティに対する不信
    コンピューター科学など分野においては、プレ・プリント版はポスト・プリント版より多く、アーカイブされています。プレ・プリント版をセルフ・アーカイブすることで、その論文は実際の査読プロセスが始まる以前に、その分野の科学者のコミュニティで精査されることになります。もっと言えば、すべてのリポジトリにおいて、プレ・プリント版はそういうものとして認識されています。ポスト・プリント版に関して言えば、その論文の質はあまり問題視されることはありません。というのも、ポスト・プリント版は査読を経てジャーナルに出版されたもののコピーにすぎないのです。
     
  3. ジャーナルの著作権ポリシーに違反するおそれ
    ほとんどのジャーナルが、その投稿規程において、セルフ・アーカイブに関する著作権ポリシーを明確にしています。これらの投稿規程を熟読し、理解しさえしていれば、著作権を違反するようなことはないでしょう。
     
  4. セルフ・アーカイビングは時間がかかり、面倒くさいという認識
    こうした認識とは反対に、初めて論文をセルフ・アーカイブする際のプロフィールやアカウント設定にかかる時間は、10分くらいしかかかりません。こうした手続きを「極めて難解」と感じる人は、ごくごく少数です。8 2回目以降のプロセスは、より簡単で早くなります。
     
  5. 既存の学術出版モデルの崩壊に対するおそれ
    研究機関のなかには、セルフ・アーカイブがジャーナルに取って代わるもの見なされる懸念から、リポジトリの作成を思いとどまるところもあるかもしれません。しかしながら、過去の研究8でも、the American Physical Society (APS) とthe Institute of Physics Publishing Ltd(IOPP)という、物理学分野で著名な大手出版社二社が、プレ・プリント・サーバのaxXivは彼らのビジネスモデルを脅かすものではないとしています。つまり、出版社とセルフ・アーカイブ・サーバの平和的共存は可能なのです。

 

 

オープン・アクセスにおけるセルフ・アーカイブの役割

セルフ・アーカイブは、オープン・アクセスへ至る「グリーン・ルート」とよばれるものを構成しています。つまり、著者は無料で自分の研究論文を多くの人に入手可能な状態にし、読者は無料でそれらの論文にアクセスできるということを意味します。これは、PLOSのようなオープン・アクセス・ジャーナルでの出版、つまり著者が出版費用をジャーナルに支払い、その後、出版された論文が無償で公開される「ゴールド・ルート」と呼ばれるモデルとは異なります。Public Library of Science (PLOS) publicationsのようなオープン・アクセスジャーナルの出版とは違います。セルフ・アーカイブは「学術ジャーナルでの出版の代替」にはなりません。そうではなく、選んだジャーナルで論文を出版し、単にそのコピーをセルフ・アーカイブするという、補足的な活動と理解しておくことが重要です。

 

論文へのアクセスの将来

購読ジャーナルで論文を出版した場合、そのジャーナルを購読する図書館にアクセスのある研究者にしか、その論文は読まれることがありません。ジャーナルを多く購読できない小規模研究機関の研究者は、それらの論文にアクセスすることができないのです。さらにいえば、関連性の低い分野の専門家や一般の読者も、そうした論文にアクセスすることはできないでしょう。

今日の世界は、研究コミュニティの発信する知的成果が世界中に自由に拡散していく方向へ向けて動き出しています。投稿プロセスにかかる費用を著者に請求するゴールド・ルートを採用するジャーナルが現れ、購読料モデルを採用する伝統的出版社でさえ、オープン・アクセス誌を出版し始めています。研究資金を助成する団体は研究者に対して、出版された論文への自由アクセスという考えを推奨しています。たとえば、イギリス研究評議会(Research Councils UK (RCUK)) は、2013年4月より、RCUKと提携する奨学金団体より助成を受けた科学論文は、出版後6ヶ月以内に自由に公開されなければならないとするポリシーを発表しました。10 また、アメリカ国立衛生研究所(National Institutes of Health(NIH))のような公共の研究機関は、NIHの助成を受けた論文はすべて、採択に当たってはPubMedにアーカイブされるとしています。NIHのアクセスポリシーはまた、NIHから助成を受けた研究論文はすべて、出版後12ヶ月以内に、その最終稿がPubMed Centralにおいて公開されなければならないと規定しています。11 オープン・アクセスに関しては、さらなる新しいモデルが模索されています。 


 

結論

セルフ・アーカイブは無料で、簡単にできて、有益です。そのうえ、科学のグローバルな発展のため、研究成果を広く自由に公表するという新しいトレンドに合致しています。みなさんも是非、挑戦してみてください。セルフ・アーカイブは、科学の進歩に貢献するとともに、アクセスを容易にすることで自分の研究のインパクトも高めることができる有用な選択だと考えてみてください。

 

 

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