よくいる査読者9タイプ
この記事では、よくいる査読者を9つのタイプにまとめたインフォグラフィックを紹介します。どうぞ、気楽にお読みください!
1. しゃくし定規型
「各緩衝剤、トリス塩酸、PIPES-NaOHなどの対イオンを含めるのを忘れないようにしましょう」
(+) どんな些細なミスも見逃さない、間違い探しのプロ。
(-) 木を見て森を見ず。重大な科学的誤りを見落とすことがある。
このタイプは間違いなく有能ですが、あらゆるミスを指摘した1000ワード超の査読報告書を提出してくるため、著者のみならず編集者にとっても手強い存在です。ただ、ときに、論文の査読ではなく、校正に終わってしまうことがあります。また、些細なミスに執着するあまり、対照群の抜けや解釈の誤りなど、より大きな問題を見落としてしまうことも。しゃくし定規型は比較的若い場合が多く、その細かさは、普段から現場で頑張っていることの表れでもあります。
2. 心の赴くまま型
「ここでの著者の主張には、少し驚かされました」
(+) 迅速かつ印象的なフィードバック。
(-) 非体系的で、誤字が散見される。
このタイプは、ほとんどリアルタイムで意見を返してくれます。許されるなら、査読結果を文章ではなく動画ブログで作成してくるでしょう。句読点の使い方を見れば、その表情を想像することができます。興奮すると、誤字だらけになります。同じことを繰り返したり、矛盾したことを述べたりする頻度が高く、こうなると著者にとっては悪夢です。「8. 土壇場型」の親戚のような存在です。
3. ビッグシンカー型
「この研究結果は、分野に変革を起こす可能性を秘めています」
(+) 著者が気付かなかった価値を見出してくれることがある。
(-) 専門的なフィードバックや掘り下げたフィードバックは皆無。
このタイプはベテランの科学者に多く見られ、「しゃくし定規型」とは対照的に、詳細に踏み込むことはありません。その理由としては、(a)面倒だから、(b)長く現場から離れているために専門的な話を理解していないから、の2つが挙げられます。それでも、些細な問題を指摘しない代わりに、論理や解釈に注目して批評してくれる貴重な存在です。
4. ハイジャック型
「主張を適切に示すには、…をしなければなりません」
(+) 論文のストーリーを完全に理解して批評できる。
(-) 自分が著者の立場なら行うであろう実験を、すべて行うよう求めてくる。
このタイプは非常に多く、担当した論文を自分の研究のように扱い、自分なら実施したであろう実験をすべて行うよう著者に求めます。とは言え、このタイプからは貴重な専門的アドバイスが得られます。指摘の内容も、基本的には建設的であり、些細な内容であれば反論しやすいものです。
5. 刺客型
「この論文はまだ、出版に値するものではありません」
(+) 静かに、そして確実に、あなたの競合相手の論文を葬り去ってくれる。
(-) 静かに、そして確実に、あなたの論文を葬り去ってしまう。
恐るべき存在。このタイプは、バイアスや悪意の存在を一切感じさせることなく(それが真意とは限りませんが)、静かにナイフを突き刺し、論文を葬り去ることができます。表面上は悪意を見せず、慎重に計算された要求を出してきます。このタイプは、論文を完全に葬り去るか、時間をかけて無力化することで、出版プロセスを著しく遅延させます。
6. ごますり型
「この研究グループが出すデータは、おしなべて質の高いものです」
(+) 寛容なフィードバック、もしくは寛容すぎるフィードバックを提供する。
(-) 恩を着せられているような気持ちになる。
ありがたい存在ではありますが、このタイプからのフィードバックを受けると、やや後味の悪い気持ちになることがあります。親切かつ協力的で、誠実でもあるのですが、批評が不十分なだけではないかという不安が付きまといます(論文を本当に理解してくれているのかどうか、心配になります)。利他的精神の表れなのか、単なるごますりなのかは不明ですが、その包容力をそのまま受け入れるのは難しいこともあるでしょう。
7. ビターレモン型
「ここで示されている図は、きわめて質の低いものです。また、ここでも定量化がされていません」
(+) 悲惨な体験談として、話のネタができる。
(-) 論文への批評ではなく、個人的な苛立ちをぶつけてくる。
もっとも出会いたくないタイプの査読者です。ビターレモンと呼ぼうと、毒殺者またはあおり運転者と呼ぼうと、その行動は同じです。匿名であるのをいいことに、苛立ちのはけ口として、あなたの論文を破壊しにかかってきます。どんなものでも、本気で粗探しをすれば何らかの欠陥が見つかるものですが、このタイプは、論文の実際の質に関わらず、それを無価値化することに全力を注ぎ、意地悪で非専門的で無慈悲と言える査読を行います。あなたもいつかはこのタイプに当たってしまうかもしれません。気をつけましょう!
8. 土壇場型
「指摘すべき点はほとんどありません」
(+) コメントが短く、対応が容易。
(-) 論文を適切に評価できるだけの時間を費やしていない。
「2. 心の赴くまま型」に似たタイプですが、土壇場型は雑なわけではなく、働きすぎと言えるでしょう。コメントはほかのタイプよりも短いものの、結果的には、体系的で有益な査読である場合が多いです。「3. ビッグシンカー型」と同様、論文を正しく理解しているときは核心に切り込む傾向がありますが、読み込みが甘いと感じられることもあります。
9. ユニコーン型
「いくつか提言をいたしますので、参考にして頂ければと思います」
(+) 分別があり穏やか。建設的な批評とバランスの取れた評価を提供する。
(-) 滅多に出会えない。
すべての査読者が目指すべき存在です。私情を挟むことなく、甘すぎず厳しすぎないトーンで、公平で建設的な批評を提供してくれます。論文を批判する場合も、優しく丁寧な言葉遣いで、論文の技術面と解釈面の両方に知的貢献を果たします。
どのタイプの査読者にも欠点があるのは事実ですが、(「ビターレモン型」を除いて)これらのタイプが組み合わさることで相乗効果が生まれ、論文の質が改善されます。優秀な編集者なら、著者がフィードバックの波に溺れてしまわないように、最大の査読効果が得られるよう配慮して、査読者をうまく組み合わせることができます(たとえば、3人の査読者がすべて「しゃくし定規型」だったら、関係者全員が疲弊してしまうでしょう)。理想的なのは、ゼネラリストとスペシャリストの組み合わせです。研究者たちは、個々の査読に際して異なる役割を演じる能力を持っているはずなので、場合によっては「ビターレモン型」が「ハイジャッカー型」や「ビッグシンカー型」になる可能性もあるでしょう。
謝辞:
90年代にNIHが出版したDent cartoonsは、TIRが大きな影響を受けた作品であり、TIRの根幹を成していると言っても過言ではない作品です。この記事は、博士課程の学生、ポスドク、主任研究員を取り上げたDent cartoonsによる「9タイプ三部作」に心からの敬意を表して執筆したものです。(「9タイプ三部作」も併せてご覧ください。)
Total Internal Reflection(TIR)は、科学の人間的側面に着目したブログで、文章はブルック・モリスウッド(Brooke Morriswood、独ヴュルツブルク大学、ジュニアグループリーダー)氏、イラストはオリバー・ヘーラー(Oliver Hoeller、フリーランスサイエンスイラストレーター)氏が担当しています。このインフォグラフィックは、TIRに掲載されたものを、許可を得てここに再掲載したものです(元記事はこちらからご覧頂けます)。
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