論文のアブストラクトとイントロダクションはどう違うのか
社会が発展するにつれて幅広い分野で研究活動が盛んになり、活発な学術コミュニケーションが繰り広げられています。研究結果を伝えるための代表的手段である論文は、研究者がアイデアを発表し、伝達する上で大変重要なものです。研究をスムーズに伝達しようとするなら、統一された基準に則って正確に書くことが大切です。
若手研究者の中には、アブストラクトやイントロダクションをどう書けばよいか分からないと感じている方もいるかもしれません。誰かに論文をレビューしてもらうと、決まってアブストラクトとイントロダクションの書き直しを提案されるというケースも聞かれます。このことは、アブストラクトとイントロダクションの重要性と同時に、これらを適切にまとめるのがいかに難しいかを示しています。では、論文の重要な要素であるアブストラクトとイントロダクションの共通点と違いとは、一体何でしょうか。
端的に言えば、アブストラクトとは論文全体の要約です。したがって、読み手の興味を引くために、研究の核心部分である結論に触れる必要があります。そのためには、研究の内容と結果について明確に述べる必要がありますし、十分な情報を簡潔に伝えることで、論文全体を読まなくても研究の本質が分かるものでなければなりません。一般的にアブストラクトでは、研究の背景、テーマ、方法、結果、結論の5つについて述べます。
一方のイントロダクションは、結論を述べないという点でアブストラクトとは異なります。ただし、研究の背景(仮説、調査対象、リサーチクエスチョン等)について詳細に述べます。また、文献レビューで研究の必要性と新規性を強調します。多くのジャーナルは、イントロダクションに語数制限を設けていません。
つまり、アブストラクトは論文で何について述べているのかを紹介するものであり、イントロダクションはなぜその研究を行なったのかという理由を説明するものです。両者の違いは、概ね以下のようにまとめることができます。
1. 内容の違い:1)アブストラクトでは、論文本体にも書かれている結果と結論を述べますが、イントロダクションでは結果と結論に言及しません。 2)アブストラクトでは、研究の背景については1~2文で簡単に触れるにとどめ、詳細は述べません。対照的にイントロダクションでは、研究の文脈について詳細に述べ、研究を行うに至った背景を紹介します。3)文献の引用は、アブストラクトでは行いませんが、イントロダクションでは必ず行います。
2. 使用する語彙の違い:アブストラクトを書く際は、専門用語や略語をなるべく避け、その分野に詳しくない人でも研究の内容を理解できるように書かなければなりません。イントロダクションでは、研究内容をより正確に示すために、分野の知識がないと理解できないような専門用語や略語を使用しても構いません。
3. 単語数の違い:ほとんどのジャーナルは、アブストラクトに単語数の上限(200〜300語等)を設けています[1]。一方、たいていの場合イントロダクションには語数制限が設けられていません。オーストラリア国立大学の指針[2]によると、イントロダクションの長さは通常、本文の10%が目安です。
4. 論文本体との関係の違い:アブストラクトは、論文の内容を簡素化したものです。つまり、アブストラクトが削除されても本文の理解に影響を与えないよう、論文本体から独立したものでなければなりません。一方、イントロダクションは分野の現状を説明し、行なった研究の必要性と新規性をまとめた論文の一セクションであり、論文と切り離すことはできません。
アブストラクトやイントロダクションを書くのは簡単な作業ではありませんが、ちょっとしたコツもあります。アブストラクトもイントロダクションも論文の冒頭に置かれるものですが、本文を仕上げた後に書けば、内容を微調整しながら書けるので、執筆がはかどりやすくなるでしょう。
参考文献:
- Andrade, Chittaranjan. "How to write a good abstract for a scientific paper or conference presentation." Indian journal of psychiatry 53, no. 2 (2011): 172.
- Student Learning and Development. (2020). The length of introductions. https://www.anu.edu.au/students/academic-skills/research-writing/introductions/length
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