ジャーナル編集者が文献レビューに求めていること
先行文献を選んでレビューを行い、残されているリサーチギャップを埋める仮説を展開することによって、科学のフロンティアが開かれます。論文の結果は、先行研究へのフォーカスの仕方によって導き出されるものです。先行研究の分析が不十分だと、論文でいくら重要性を主張しても、説得力が生まれません。ジャーナル編集者である私は、著者に対し、常に次のことを働きかけています。盤石な基礎の上に自らの研究を組み立てること、すなわち、新たに研究を始めるときは、先行研究や類似研究の体系的で透明性のあるレビューを提示するということです。これは、「エビデンスベースの研究」を行うための第一歩だからです。
ちょっとした驚きかもしれませんが、ジャーナル編集者は分野を問わず、投稿される論文の文献レビューの質に、懸念や期待や要求を持っているものです。この記事では、編集者が求めていること(これはあらゆる出版物に通じることだと思いますが)を、大きく2つに分けて説明したいと思います。前半では、しっかりとした文献レビューの妥当性と根拠について説明し、後半では、ジャーナル編集者が科学的正当性を認めやすい文献レビューの組み立て方を簡潔に述べます。
徹底した文献レビューが必要な理由
まずは、文献レビューのセクションが論文全体のどこに位置するかを確認しておきましょう。論文の各セクションの構成順は次の通りです:タイトル、アブストラクト、イントロダクション、文献レビュー、方法、結果、考察、課題、結論および応用。ここでは、文献レビューがいかに重要な位置にあるかを理解しましょう。文献レビューは、研究の正当性を主張するセクションと、研究計画と仮説を述べるセクションをつなぐ役割を果たしています。これは、適切な課題を見据えた文献レビューを行わないと、その後の内容の価値が著しく損なわれるということを意味します。したがって、文献レビューで引用する文献は、以下の特徴を備えていなければなりません:(1) 説得力(課題に対して最適である)、(2) 新規性(研究対象に対してあらゆる説明が尽くされている)、(3) 適時性(最新のエビデンスを参照しながら、現象に関する研究の歴史を体系的にレビューしている)、(4) 正確性(結果を明確かつ正確に示している)。
編集者や指導教官が確認したいのは、文献に十分な説得力、新規性、適時性、正確性があることです。これらが1つでも不十分だと、構成が不適切であると見なされる可能性があります。たとえば、不完全な参考文献が引用されていた場合に、編集者がほかの部分にもミスがあると思うのは、合理的な推測と言えるでしょう。
文献レビューの妥当性と完全性は、決して些細な問題ではありません。編集者は、研究に新規性があると思える根拠を著者が示すことで、自分たちの関心が引き寄せられることを期待しているのです。それができない著者は、読者に対しても不明瞭な説明しかできないと判断されます。論文の要点の正当性を示すことに失敗し、編集者に議論の文脈をつかんでもらえなければ、研究の基礎が不十分というシンプルな理由で、論文はふるい落とされてしまうでしょう。
フィリッパ・J・ベンソン(Philippa J. Benson)氏とスーザン・C(Susan C)氏は、著書『What Editors Want(編集者が求めていること)』(2012)の中で、「編集者は、ジャーナルのすべての対象分野の専門家にはなり得ないので、(中略)まずは編集者、続いて査読者や読者に研究の妥当性について納得させるのは、著者の仕事である」と述べています。
ジャーナルの編集者と査読者は、著者がどのような文献を選んだかを、慎重に評価します。なぜなら文献選びは、広い学術的ランドスケープの中で、研究がどこに、どのように位置し、どのリサーチギャップを埋めようとしているのかを浮き彫りにするものだからです。
研究者として信頼に値するかどうかは、適切な文献レビューを構成する能力があるかどうかが1つの指標となります。文献レビューには、次の3つの目的があります: (1) 関連研究を把握できていることを示す、(2) 先行研究における最重要のアイデアや発見を見極め、それについて議論するスキルがあることを示す、(3) 先行研究について、「誰」が「何」を「いつ」「なぜ」「どのように」行なったかを示す。
文献レビューとは、先行研究で何が明らかにされているのかを説明し、自分の研究でどのような知見が追加されるかを述べるための背景を設定し、過去と現状を把握していることを示した上で、科学的ランドスケープのどこに自分の研究が位置するかを示すためのものです。ただし、包括的なレビューとは、単に先行研究をすべて引用したものではないということを理解しておきましょう。徹底したレビューとは、体系的なレビューです。すなわち、レビューとは、きわめて選択的で具体的なものであり、展開する主張に直接関連する文献のみを引用しなければならないということです。範囲の広すぎる文献レビューでは、せっかくのアイデアを埋もれさせてしまいかねません。要点を簡潔に示せなければ、読者は興味を失ってしまいます。逆に言えば、先行文献の選び方によって、読者の関心を瞬時に引き付けられるということです。
優れた文献レビューには、以下の特徴があります:
- 課題を明確に定義している
- 先行研究を要約することで、読み手に研究の現状を伝えている
- 関係性、矛盾点、ギャップを特定している
- 次のステップを示している
このように、文献レビューとは、読み手に対して「過去がどうであったか」、「現在はどうなっているか」、「今後どの方向に進む必要があるか」を伝えるためのものなのです。
アクションプラン
ここからは、冒頭に述べた、「盤石な基礎の上に自らの研究を組み立てる」必要があるということについて説明しましょう。これはつまり、先行研究や類似研究の体系的で透明性のあるレビューを示すということです。それでは、完全に透明な体系的レビューとは、どのように行えばよいのでしょうか?
3ステップのプロセス
以下の3つのステップに従って行いましょう:
ステップ1
はじめに、参考文献にしようとする文献を表すキーワードのリストを作成します。それらのキーワードは、論文のキーワードと同じである場合もあるでしょう。この作業によって、研究の焦点となるエリアを簡潔に網羅するキーワードやキーフレーズをまとめることができます。
ステップ2
次に、リストアップしたキーワード/フレーズを、適切な検索エンジンを使って1つずつ検索しましょう。検索で集めた文献は、レビューすべき文献の「生データ」となります。この時点では、想定していたよりも多くの文献が集まるはずです。中には、キーワード設定の曖昧さによって、本来の研究の焦点とは関連性の低いものもあるかもしれません。その場合は、キーワード/フレーズを吟味し直す必要があるということです。研究テーマにぴったりの文献群が見つかるまで、この検索プロセスを何度か繰り返す必要があるかもしれません。
レビューする文献の「質」を選別するための基準を設けることもできます。たとえば、実験で得られたデータを示している文献(オピニオン論文ではないもの)、効果量を示している文献、自分が理解できる言語で書かれている文献、自分のサンプルと一致したデータを示している文献などに限定して文献を選別することが考えられます。重要なのは、すべての段階で、先行文献を選ぶ過程でどのような基準を設けたのかを記録しておくことです。こうすることで、レビューしようとしている文献をどう選んだかについての透明性を確保することができます。
また、データ群(レビューを行おうとしている文献)をさらに絞り込むことで、文献数を妥当な数にしても構いません。私自身、主張の簡潔性を維持するために、論文に含める文献は最大30件までと決めています。
ステップ3
第3段階では、検索して集めた文献を、分析・批評・評価します。集めた文献の文脈やテーマを見極め、レビューが単なる文献のリスト化と要約になっていないことを確認しつつ、特定したリサーチギャップをどのように埋めるかを示しましょう。
文献の選別プロセスを説明する
どのようなプロセスに従って文献を選んだかを説明することも、文献レビューの重要な要素の1つです。この説明は、文献の選別プロセスに透明性を持たせるためのものです。レビューする文献を、どのような基準で選んだかを述べましょう。そのためには、キーワードや除外基準をはじめ、文献を選別するために行なったフィルタリングプロセスをすべて公開する必要があります。
論文の前置きとして、たとえば以下のように書きましょう:
“The cited studies were reviewed using the keywords ‘nail-biting’ and ‘adolesc*’ in Google Scholar, PubMed, Ovid, Sage, Springer, Science Direct, & Cochrane Library databases. The inclusion criteria were determined as follows: Published in the last decade, having the publication language of English, access to the full text, and grey literature was not included. Twenty-two studies met the inclusion criteria, listed in Appendix within the Supplemental Materials to this article.”(本論文で引用した文献は、キーワード“nail-biting”、”adolesc*”を用いて、Google Scholar、PubMed、Ovid, Sage、Springer、Science DirectおよびCochrane Libraryのデータベースで検索した結果を基にレビューしたものである。引用文献の選別基準は、過去10年以内に出版されたもの、英語で出版されたもの、フルテキストにアクセス可能なものとし、灰色文献は除外した。基準を満たした計22件の文献を、論文の補足資料内の付録にて一覧表として記載した。)
引用文献として採用するかどうかの判断プロセスを簡潔に説明することによって、文献の選定における透明性や公正性を示せるだけでなく、再現性を与えることもできます。これらの基準はすべて、エビデンスベースの研究の基礎となるものです。
今回の記事で目指したのは、科学的知見に新たに加えられる論文の意義を正当化する際に、その軸となる文献レビューの重要性を強調することでした。この目的をふまえて、論文が「影響力の高い著名な国際誌の基準を満たしている」と評価されやすくなるためのメカニズムを紹介しました。
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