博士課程で得られる応用可能なスキル
研究者にとって、最近は学術界以外でのキャリアの機会が増えています。以前なら、博士号取得後の選択肢は、大学や研究機関でのポジションか企業での研究開発職に限られていました。しかし今では、科学行政、研究管理、科学コミュニケーション、科学政策、研究広報、学術出版など、さまざまなオプションが存在します。さらに、地域の科学技術集団や科学館/博物館、インキュベーション施設も、研究者や博士号取得者にとって魅力的でやりがいのある職場です。
とはいえ、多彩なオプションの中からどれを選ぶかは、簡単なことではありません。というのも、博士課程にいる段階では、これらの仕事で求められるスキルを自分が持っているかどうか確信が持てないからです。実際には、博士号を取得する過程で、さまざまなキャリアで成功するために欠かせない基本的なスキルが身に付いています。そのスキルは、学術界の外でも十分に応用が可能なスキルです。
自分がすでにそのようなスキルを持っていることに気づいて、驚き戸惑う方もいるかもしれません。思い切って、実験室とは異なる環境でそれらのスキルを応用してみるのも悪くありません。そのために、まずは応用可能なスキルについて詳しく見ていきましょう。
1. 批判的思考と論理的推論: これらは、博士課程で常に実践してきたことではないでしょうか。多くの企業では、従業員に批判的思考と問題解決能力を身に付けさせるために、多額のお金をかけて外部のトレーナーを雇っています。博士号取得者なら、問題の特定と解決にすでに習熟しているため、これらのスキルが求められる仕事に就く準備ができています。
2. コミュニケーションスキル: 優れたコミュニケーション能力は高く評価される重要なスキルであり、推薦状に記載されることも多い特性の1つです。博士課程では、このスキルを学び、実践する場面が多くあります。会議、セミナー、ウェビナー、パネルディスカッション、ポスター発表、論文審査などに参加することで、口頭でのコミュニケーション能力が鍛えられます。研究論文、レビュー論文、進捗報告書、博士論文の執筆では、書面によるコミュニケーションの要諦、つまり正確さを維持しつつ平易な言葉で簡潔明瞭に伝えるための方法が学べます。これらのスキルは、訓練したからといって身に付くとは限らないものですが、博士号取得者はこのスキルに秀でていることが多いようです。
3. プロジェクト管理能力: プロジェクト管理は多くの場合、組織における中心的な活動であり、高度な手腕が求められます。明確な目的を見据えつつ、達成可能で測定可能な成果を目指す博士課程は、一つのプロジェクトと言えます。研究プロジェクトを実行するためには、効率良く進めるためのデザイン思考、アイデア、意思決定が必要です。研究の方法論を決める際は、最初から最後までのステップを慎重に検討し、リサーチクエスチョンに答えるための最適なデータが生成される方法を選択します。つまり、博士号の取得は、プロジェクト管理の経験と同等とみなすことができるのです。
4. 学習の速さ: 雇い主は新規採用者に、できるだけ早く戦力になってくれることを望むでしょう。新しい職場に慣れて新しい仕事をこなすためには、学ぶことがたくさんあります。多くの人は、その職場ならではの知識やプロセスを苦労しながら少しずつ理解し、徐々に覚えていきます。博士号を取得する過程では、新たな知識を習得するだけでなく、点と点を結び付けて適切な文脈に適用することを学びます。したがって、博士号取得者は学ぶのが速く、知識の習得やプロセスの理解が他の人よりも得意です。
5. 協力関係の構築: 利害関係者を上手に巻き込んで共通の目標を達成することも、多くの職場で求められるスキルです。現代の研究プロジェクトは、広範なコラボレーションを必要とするグローバル企業の様相を呈しています。研究者同士でパートナーシップを育んで、期待を上回るような成果を上げることも珍しくありません。これは、求人市場における強みです。
6. プランニングと時間管理: 研究プロジェクトの実施には、綿密な計画、課題の予測とそれに対する準備、そしてもっとも重要なこととして、時間管理が必須です。これらは、多くの人にとって習得が難しいスキルです。博士課程では、数年単位で複数のマイルストーンを進めていく方法を学びます(例 研究プロポーザルの作成、博士課程諮問委員会との複数回の面談、博士論文の準備など)。これらは、短期的であれ長期的であれ、プロジェクト管理に欠かせない力です。
課題に着手し、完了させ、別の目標に進み、成果が得られなければ目標を修正するプロセスを繰り返す博士課程では、ここに挙げたスキル以外に、適応力としなやかな回復力も身に付きます。説明力もまた、博士課程で得られ、職場で求められる能力です。研究では、行う実験、使用する機器、パートナーを組む共同研究者、公開する論文に対して、すべて説明責任を負うことを学ぶからです。つまり博士号は、応用可能な多くのスキル、貴重な能力、そしてどのような仕事にも素早く適応して成功する力を持っていることの証なのです。
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