持続可能な未来へ:エネルギー変換効率を測定する新技術

持続可能な未来へ:エネルギー変換効率を測定する新技術

エネルギーとは、使用・変容・再利用という一定の普遍的なサイクルです。このサイクルでは、ある形態で受け取ったエネルギーが別の形態に変換されたり、非エネルギーの形態に変換されたりします。光合成は、まさにその好例です。光合成とは、周知の通り、太陽エネルギーを太陽光という形で受け取った葉が、さまざまな反応を通して、別の形態の蓄積エネルギーに変換するプロセスを指します。


ところで、このエネルギー変換の効率は、どの程度のものなのでしょうか?エネルギー変換効率とは、簡単に言うと、植物などのエネルギー変換システムが最初に受け取った総エネルギー量と、その有効出力との比率です。この値は、エネルギー効率の良さが求められる太陽電池のような装置を設計するときに、とくに重要になります。しかし、理屈は単純ですが、光エネルギー変換効率を決定する要素(総エネルギー量や生成された総電力量など)を正確に測定する方法は、まだ確立されていないのが現状です。


この問題を解決するために研究が進められている技術の1つが、光ではなく熱を測定する方法です。エネルギーを吸収するものはすべて、熱という形でそのエネルギーを放出します。この熱の放出量は、エネルギー吸収直後ほど大きく、時間の経過と共に減少します。これは、エネルギーを吸収してしばらく経ってから発光を始める「光」や夜光性素材とは対照的です。したがって、励起光波長(専門用語で言うところの“photothermal excitation spectrum (PTES)”)に応じて熱放出を測定することは、エネルギー変換効率を測るための現実的な手法となり得ます。光熱偏向分光法は、PTESの直接的な利用のための方法の1つですが、光の放射だけに注目してPTESを調べた研究はほとんどありません。


東京理科大学の研究者たちは、この知識のギャップを埋めることを決めました。徳永英司教授率いる研究チームは以前、既存技術の効率を大幅に向上させたSagnac干渉計光熱偏向分光法(SIPDS)を開発しました。光熱分光法は、放射された光をサンプルが吸収したときの発熱を検知するため、透過光が測定できない「散乱体」を含め、サンプルの吸収スペクトルを、形状や特性に関係なく測定することができます。


徳永教授は、「我々は、干渉計を用いた光熱偏向分光法の感度向上に2010年頃から取り組んでいます。学生も含めた全員の努力によって、それまでほとんど分析されていなかった空気中のサンプルの分析が可能となり、すべての可視光における吸収スペクトルを測定することができるようになりました」と述べ、その重要性について、「この向上した技術によって、発光や化学エネルギー変換の量子効率が評価できるようになりました」と説明しています。

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この技術をさらに前進させるため、研究チームは、国立研究開発法人物質・材料研究機構(NIMS)サイアロングループの高橋向星博士および廣崎尚登博士と共に、SIPDSに、「平衡検出(balanced detection)」という、本来はわずかな差異を測定するための技術を取り入れました。この画期的技術では、エネルギー源として白色光を使用し、空気中の物質のPTESを測定することができます。研究者たちは、発熱がないという点に着目しました。発熱がないということは、光エネルギーが有効エネルギーに変換されていることを示しているので、吸収スペクトルの差異を測定することで、光エネルギーの変換効率が分かるのです。


研究チームは、この技術によって、白色LEDNIMS製)の高効率発光性赤色蛍光体の熱スペクトラム(PTES)の測定に成功。そして、光ルミネセンス励起スペクトラム(PLES)との比較を行った結果、励起光の波長に応じて蛍光体から発せられた光の量が示されました(図を参照)。また、この比較により、物質がどれだけ光を発することができるかの指標となる、蛍光体の正確な光ルミネセンスの効率値も示されました。徳永教授は、「この技術を使えば、50 µW/cm2という弱励磁の限界における可視域全体で、物質の熱緩和スペクトルを測定できるようになります。これはまさにブレイクスルーです」と述べています。つまり、これまでは、変換された有効エネルギー(発光エネルギー、電気エネルギー、化学エネルギー)の測定には、蛍光物質や太陽電池や光合成といった高価な各種装置が必要でしたが、それが、一元化されたシンプルな手法で測定できるようになったのです。


この技術の展望は明るく、さらに発展すれば、「生きている」葉っぱの光合成のエネルギー変換効率も測定できるようになるでしょう。今回の結果が、物質の変換効率向上に関する研究を促し、エネルギー変換効率の高い社会の実現に寄与することが期待されます。


参考

原著論文タイトル:Thermal Relaxation Spectra for evaluating luminescence quantum efficiency of CASN:Eu2+ measured by Balanced-Detection Sagnac-Interferometer Photothermal Deflection Spectroscopy

ジャーナル:Applied Sciences

DOI: 10.3390/app10031008


東京理科大学TUS

科学に特化した日本最大の名門私立大学で、東京に4キャンパス、北海道に1キャンパスがある。1881年の創立以来、研究者・技術者・教育者の科学への情熱を育みながら、日本の科学の発展に貢献し続けている。

「自然・人間・社会とこれらの調和的発展のための科学と技術の創造」という理念のもと、基礎研究から応用研究まで幅広い研究を行なっており、研究に学際的なアプローチを導入して、現代の最重要分野の研究に集中的に取り組んでいる。最高の科学が認められ育まれる実力主義の大学であり、自然科学分野のノーベル賞受賞者を輩出した日本唯一の私立大学であるとともに、自然科学分野のノーベル賞受賞者を輩出したアジア唯一の大学。


徳永英司教授

東京理科大学理学部第一部物理学科教授。東京大学で学部課程、修士課程、博士課程を修了。第一線で活躍するベテラン研究者として、これまで82本以上の論文を出版。研究チームとともに、光学分光学および凝縮系物理学の研究に取り組む。これらの分野における約30年のキャリアの中で、物質の光学特性に関連する複数の新しい概念を導入した。研究の詳細はこちら


研究助成情報

この研究の一部は、市村清新技術財団の助成を受けて実施されました。


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