研究者としての口頭コミュニケーション力を高めるには
研究者としての生活は、新たな発見や探求に満ちた素晴らしいものです。新米研究者でも、すでに論文出版経験のある研究者でも、研究者なら皆、自分の知識や研究成果を誰かに伝える喜びがいかに大きなものであるかを知っています。
また、研究者であれば、キャリアのどの段階にいようと、書き物だけではない適切なコミュニケーションの重要性にも気付いていることでしょう。そう、口頭でのコミュニケーション(議論、情報交換、雑談、プレゼンテーションなど)の重要性です。指導教官や同僚、学会の聴衆、科学ジャーナリストなどを相手に話すことは、研究者の活動の大きな部分を占めています。口頭コミュニケーションは、文書によるコミュニケーションを補い、分野における自分の存在を認識してもらうためのものです。言うまでもなく、研究者としての生活をできるだけ充実したものにするためには、高い口頭コミュニケーション力が欠かせません。
この記事では、研究活動における口頭コミュニケーションの役割についてお伝えします。
口頭コミュニケーション力が果たす役割
中には、「研究者にとって重要なのは文書によるコミュニケーション(論文やメール)なので、口頭コミュニケーションを気にする必要はない」と考えている人もいるかもしれません。でも、その考えは誤りです。口頭コミュニケーションは、以下のようなさまざまな活動に欠かせない能力なのです:
- 研究のための情報やデータの収集
- 現地調査
- 被験者へのインタビュー
- 地域密着型のプロジェクト
- 同僚・先輩・指導教官とのコミュニケーション
- 指導教官やPIとの信頼関係の構築
- 同僚や研究室のメンバーとのコミュニケーション
- 共同研究者とのコミュニケーション
- 人脈作り
- パネルセッションでの発言
- サイエンストークへの参加
- 学会発表
- ポスター発表
- 学会でほかの研究者に自分の研究をアピールする
- 政策立案者や起業家とのディスカッション
- キャリア開発
- 採用責任者や人事担当者との対話
- 採用面接
- 博士論文の公聴会
これらの活動は、研究生活だけでなく、キャリア全体に大きな影響を及ぼし得るものです。だからこそ、口頭コミュニケーション力を磨くことは、すべての研究者にとって重要なことなのです。
効果的な口頭コミュニケーションのためのヒント
研究生活の中でよくあるシチュエーション(研究の実施、指導教官とのコミュニケーション、人脈作りなど)のための、効果的な口頭コミュニケーションのヒントを紹介します。
1. 被験者とのコミュニケーション
たとえば、被験者にインタビューをする質的研究を行うとしましょう。多くの研究者は、インタビューを実施し、質的研究におけるバイアスを排除しようとする過程で、多くのことを学びます。データ収集だけでなく、効果的な口頭コミュニケーションの能力も磨くことができるのです。
まずは、インタビュー内容を慎重に練り、被験者への質問をスムーズに進められるように、自分用の手引きを作成しておくとよいでしょう。インタビューの実施に不安があれば指導教官に相談し、より明確な目的意識と自信を持って臨めるようにするための助言をもらいましょう。
また、インタビューの準備をする際は、文化的な違いを考慮し、質問の内容が被験者にとって適切かどうかを確認しておきましょう。
インタビュー中は、被験者への関心を示して信頼関係を築けるように努め、オープンかつプロフェッショナルな姿勢を保ちましょう。
好例:「Could you please tell me about your experience at the hospital?(病院で体験したことについて教えて頂けますか?)」
悪例:「Identify the rules you had to follow during your hospitalization.(入院中に守らなければならなかったルールについて述べてください。)」
2. 指導教官とのコミュニケーション
無事に博士号を取得するためには、正式なミーティングや雑談中の議論も含め、指導教官と何度も顔を突き合わせて話し合わなければなりません。指導教官が多忙な場合は、こちらが望む頻度では会えないかもしれないので、十分に準備しておく必要があります。指導教官と話せる貴重な機会は、最大限に活かすようにしましょう。
生産的で無駄のないミーティングにするための口頭コミュニケーションテクニックは、次の通りです:
- 指導教官には、感情や推測ではなく事実だけを述べる。TopWritersReviewのプロジェクトマネージャー、ナタリー・ブランソン(Nathalie Branson)氏は、「プロジェクトの進捗に、個人的な問題や感情を持ち込まないこと」を推奨しています。重要なのは、自分の感情を吐露することではなく、抱えている問題や議論の質にフォーカスすることです。
- 問題があれば正直に言う。指導教官の言うことが必ずしも正しいとは限りません。ときには、相対するアイデアや意見を述べなければならないこともあるはずです。そんなときは、礼儀正しく、落ち着いて論理的に話しましょう。学位論文に不安がある、プロジェクトの完了に時間がかかりすぎる、想定通りに研究が進んでいない、研究が予算内に収まりそうにない、コミュニケーションがうまくとれない相手がいる…などの懸念があるなら、すぐにそれを伝えましょう。ただし、自分の意見をはっきりと伝えることで、不和や誤解が生じる可能性があります。指導教官には必ずフィードバックを求め、会話は、何らかの結論や次のステップを明確にして終わらせるようにしましょう。議論が長引いた場合はとくに気を付けましょう。
ミーティングの最初は、進捗についての朗報で始めるとよいでしょう。
3. 学会の聴衆とのコミュニケーション
学会に出席することや学会で発表することは、自信を持って適切に対応できれば、研究生活の中でもっともエキサイティングな瞬間となります。
学会こそ、口頭コミュニケーション力が輝く場であり、自信を持って議論できる研究者であることを周囲に知らしめる絶好の機会です。以下は、この機会を活かすための口頭コミュニケーションテクニックです。
学会出席中
- 積極的に交流し、自分を知ってもらう。セミナーやセッションに出席するときは、面識のない人の隣に座って、自己紹介をしましょう。これがきっかけとなって、共同研究などの機会が得られるかもしれません。
- ほかの研究者の研究について聞く。これは、熱心な研究者との会話のきっかけとして最高のネタになります。研究者は、自分の研究について話すのが大好きなのです。この技を使って、たくさんの研究者と知り合いましょう。
- エレベーターピッチを用意しておく。自分自身や自分の研究について1分半程度で話せる、簡潔でおもしろい自己紹介を用意しておきましょう。この「エレベーターピッチ」を最後まで聞いてもらうことができれば、その後もまた話す機会が得られるでしょう。
研究発表中
- 要点にフォーカスする。最初は大まかなテーマで話し始めても構いませんが、要点を理解してもらうためには、詳細にフォーカスする必要があります。研究や実験、そして論文の執筆にどれだけの時間を割いたかをアピールしたくなる気持ちは理解できますが、そのような情報は聴衆を疲れさせ、要点を聞き逃させてしまうリスクを生むだけです。シンプルな文章で話すこと、できるだけ多くの例を挙げること、適切な間をとることも心掛けましょう。
- 話すスピードを調整する。コミュニケーションのスペシャリストで、『It’s The Way You Say It(物は言いよう)』の著者であるキャロル・A・フレミング(Carol A. Fleming)氏によると、160ワードを話すのに最適な時間は1分です。このペースを身に付ける簡単な方法は、160ワードの文章を読み上げるのにかかる時間を、ストップウォッチで計ってみることです。
- 発表後は質問を受け付ける。質問を受ける時間を設け、できる限り真摯に回答しましょう。その場で答えられない場合は、そのことを丁寧に伝え、後日改めて確認した上で議論したい旨を伝えましょう。
まとめ
多くの人は、「研究者とは白衣を着てほとんどの時間を研究室で過ごしている人」だと思っています。しかし、現実はかなり違っています。研究者たちは、さまざまな学会に積極的に参加し、ワークショップを主催し、インタビューを実施し、YouTube向けの動画を撮影し、中にはサイエンス系のポッドキャストを配信している人もいます。いずれの場合も、口頭コミュニケーション力は必須のスキルです。研究者として積まなければならない訓練の内容は、昔から大きくは変わっていませんが、口頭コミュニケーション力は、現代の学術界で成功を収めるために、きわめて重要な要素になりつつあると言えるでしょう。
研究生活の中で、口頭コミュニケーション力が重要な役割を果たす場面は、ほかにどのようなものがありますか?研究者向けの口頭コミュニケーションテクニックは、ほかにどのようなものがありますか?皆さんからのご意見をお待ちしています!
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