数千人の研究者が失職の瀬戸際に
国公立大学や公的機関で働く有期雇用の研究者3000~4500人が、2023年3月を前に職を失う懸念が出ています。この問題は、研究力の低下や博士号取得者の減少など、日本の研究界が直面している状況に新たな課題を投げかけています。
失職が懸念される背景
2013年4月に施行された労働契約法の特例で、有期契約の研究者は同じ勤務先で10年間働くと無期契約に転換できる権利が得られると定められました。しかし、実際は全員が無期雇用に転換されるわけではありません。特例の適用から10年になる2023年3月を前に、経営状況が厳しい研究機関が契約期間を満了させて雇用関係を終了させる「雇止め」の措置を取る恐れがあるのです1。
日本では、研究開発費が急増した1990年代と2000年代に多くの研究者が有期契約で雇用されるようになりました。無期契約に比べて報酬や待遇が劣る有期雇用の増加により、研究機関側は柔軟な経営が可能になりましたが、契約更新が約束されていない有期雇用の研究者たちは不安定な状況に置かれることになりました。
研究者たちの反応
雇止めを回避しようと、研究者側も動いています。自然科学の総合研究所である理化学研究所(理研)では、約600人の雇い止めが懸念されています。研究者たちは約3万人分の署名を文部科学省に提出して理研への指導を求め、雇止めの撤回を訴えています4。
理研での契約期間が満了する予定の、ある上級研究員は匿名で次のように語っています。「新しいポジションを見つけるのはきわめて難しいでしょう。中国、韓国、台湾に仕事があれば、行きます。日本では研究者は魅力的な職業とは言えません」2。
研究者をサポートする動きも
参議院議員の田村智子氏は5月の参院内閣委員会で研究者の雇止めの問題に触れ、「日本における研究開発に深刻な長期的影響を与える可能性がある」と述べました2。文部科学省はウェブサイト上で「無期契約への転換を避けるための雇止めは、労働契約法の趣旨に照らして望ましいものではない」3と、雇止めを牽制してはいるものの、国として特別な対策は打っていないのが現状です1。
一方、産業技術総合研究所は、「テニュアトラック型(博士型)任期付研究員」を廃止し5、無期契約への転換を希望した有期雇用契約者245名全員を無期契約に転換しました2。また、三菱電機のように、大学などの研究機関で働くことを目指す人のキャリア形成を支援するために、博士号を取得した若手研究者を任期付きで採用する制度を始めた民間企業もあります6。
研究という仕事自体に魅力を感じている人は多くいることでしょう。しかし、生活の基盤を安定させることができなければ、研究職を続けることは現実的に難しくなり、研究者を目指す人も減ってしまいます。労働条件の改善を図って研究職の魅力を高めなければ、人材の海外流出にもつながり、日本の研究界はこの先ますます先細りしてしまうかもしれません。
参考資料
1. https://www.tokyo-np.co.jp/article/179934/1
2. https://www.science.org/content/article/mass-layoff-looms-japanese-researchers
3. https://www.mext.go.jp/a_menu/koutou/shinkou/1410626.htm
4. https://www.fnn.jp/articles/-/337148
5. https://www.aist.go.jp/aist_j/humanres/02kenkyu/
6. https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUC26A240W2A120C2000000/
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