博士課程というマラソンを走り抜くために、自分のペースを守ろう!
博士課程は期間が長く、その道のりは不安に支配されています。挫折感や閉塞感を伴うことも多く、心身に無理を強いるケースもあります。途中での見返りがほとんどない上に、ゴールが果てしなく遠く感じられるということも、モチベーションの維持をさらに難しくさせます。博士課程の最大の困難は、期間が長いことです。分野によって異なりますが、自然科学分野では5~6年であるのに対し、社会科学・人文科学・教育分野ではより長くなる傾向にあり、修了までの平均期間は、7.3年に及びます。
基本的に、最初の2~3年はコースワークに費やされ、その後に、研究プロポーザルの作成と、”Comps (Comprehensive Exams)”という総合試験の受験を求められます。このフェーズ中は、ティーチングアシスタント(TA)やリサーチアシスタント(RA)として活動することがよくあり、この活動にも一定の時間と労力が割かれることになります。研究と博士論文執筆のプロセスは、Comps合格後にスタートします。このプロセスは、研究デザインやデータ分析の複雑さにもよりますが、少なくとも2~3年を要します。加えて、心理学や教育などの一部の分野では、インターンシップを実施することも修了要件とされています。どう考えても、これらすべてのタスクを短期間で完了するのは、至難の業と言わざるを得ません。さらに、個人的な問題や厳しい指導教官の存在がそこに加わろうものなら、ゴールのないマラソンに参加しているような気持ちになることでしょう。ここで重要になってくるのが、自分のペースを守るということです。ペースを守っていればこそ、心身の健康を保ちながら、モチベーションも維持し、迫り来るハードルを乗り越えて、無事に博士号を取得することができるでしょう。
前もって準備しておく
博士課程を無事修了するためには、持久力トレーニングと同様、何よりもまず準備を怠らないことです。準備するということは、受け入れるということです。博士課程は楽ではないという事実を受け入れつつ、最大限の努力をすることを心に誓いましょう。博士課程がスタートする前に、自分自身に対してだけでなく、家族や友人に対する準備もしておきましょう。多くの学生にとって、博士課程は、個人的な責任への配慮も求められるようになる時期です。しかし、博士課程在籍中はほとんどの時間を研究活動に注ぐことになるので、家族や友人と共に過ごす時間をそれまでと同じように持つことは難しくなります。このことを、あらかじめ伝えておきましょう。家族の保育や介護が必要な場合は、自分が対応できないときに頼ることのできる支援体制を整えておきましょう。
そして、健康的で規則正しい生活を送る心構えをしましょう。修士課程からそのまま博士課程に進学する場合は、インスタントの食事や夜更かしが当たり前になっている人もいるかもしれませんが、博士課程に備えて、食事・睡眠・運動に気を配ったバランスの良い健康的な生活に切り替え、より健康な状態で臨めるようにしましょう。
早い段階からスキルを伸ばす努力をする
博士課程は研究だけしていればいいと考えている人もいるかもしれませんが、実際は多くの場合、コースワークが用意されています。コースワークによって、研究分野に関する知識が増えるだけでなく、研究と論文執筆を進める上で必要なスキルが身に付きます。この期間を有効に活用できれば、実際に研究を始めたときに、おおいに役立つはずです。たとえば、ナターシャ・クテナ(Natascha Chtena)氏は、洞察に満ちた自身の記事「PhD Coursework: Advice to My Younger Self(PhDの課題:過去の私へのアドバイス)」の中で、博士課程の早いうちに速読術を身に付けておくことを勧めており、「著者や議論に慣れ親しみ、広い文脈での位置付けができるようになれば、毎週500ページ以上の論文をじっくり読み込む必要がなくなります」と述べています。また、最初の学期の開始と同時に文献管理ツールを活用し始めることも推奨しています。こうすれば、研究開始までに、役立つメモや注釈付きのPDFを集めておくことができるからです。
すべてのタスクを研究目標に結び付ける
コースワーク中は、研究を意識した活動に力を入れれば入れるほど、より豊かな経験が得られるでしょう。コースワーク中に与えられる課題はすべて、博士論文を執筆しているつもりで臨みましょう。このような訓練を十分に積んでおけば、実際の博士論文の執筆も、自信を持って始められるはずです。
また、選べる場合は、TAではなくRAを希望しましょう。RAの方が実際の研究に触れる機会が多く、自分の研究を始める際にその経験を役立てることができるからです。一方のTAは、「学ぶ」という意味では、得られるものはそう多くありません。タイムズ・ハイアー・エデュケーション(Times Higher Education、THE)誌で公開された、「The pragmatic road to a PhD(博士号につながる現実的な道)」という記事の中で、著者のティム・マーラー(Tim Marler)氏とディーン・ヤング(Dean Young)氏は、博士課程の学生に対し、指導業務を最小限に抑えるようアドバイスした上で、次のように述べています:「高等教育機関でのキャリアを志望している場合であっても、大学院在学中の指導業務は、時間の無駄になる場合があります。(中略)教える能力は、学術界で成功する上で優先度の高い能力ではなく、産業界での成功においては、ほとんど必要のないものです」。
自分のペースを見つける
何であれ、自分より優れた人はどこにでもいるものです。そのような人は、本当に賢かったり、非常に積極的であったり、あるいは単に幸運なだけであったりするのですが、まるで、すべての物事がその人のためにあるように思えてしまうこともあるでしょう。自分とその人の進み具合をうっかり比較してしまって、落ち込んだり罪悪感を感じたりすることもあるかもしれません。しかし、他者との比較は控え、自分のことを認めてあげましょう。あなたはあなたのペースで進めば良いのです。タスクを完了し、着実に学んで成長している限り、何の問題もありません。もちろん、それぞれのタスクに短期的な目標と明確な期日を設けた確かなプランを用意しておく必要はありますが、たとえ自分より多くの成果をあげている人がいたとしても、マイペースを崩す必要はありません。人は皆違っており、仕事へのアプローチも人それぞれです。自分の個性を受け入れた上で、自分のスタイルとペースに合ったプランを練り上げていきましょう。
ハードワークは無理のない範囲で
博士課程の要求はきわめて高く、常に自分の限界を押し広げ続けることが求められます。そのためにはハードワークをするほかありませんが、このような生活を何年も続けるためには、セルフケアが同じくらい重要であることを忘れないようにしましょう。長期に渡るオーバーワークは、心身の健康を害する可能性があり、燃え尽き症候群にもつながります。このような状況は、博士号取得の最終段階で起こりやすいものです。なぜなら、山積みのタスク、実験の失敗、論文の大幅修正要求、指導教官からのプレッシャーなどが顕著になってくるからです。ストレスが手に負えなくなるような状況を避けるには、セルフケアを行うことが大切です。実験で不測の事態が発生しても、締め切りに追われた生活をしていても、サーカディアン(概日)・リズムが崩れないように、少なくとも週に1、2回は、健康的な食事と7~8時間の睡眠を確保するようにしましょう。また、たった15分間のジョギングでもいいので、できれば屋外で身体を動かす時間を1日のスケジュールに組み込み、肺に新鮮な空気を送ってリフレッシュするようにしましょう。
博士課程の心得
どんなときも目標を見失わないようにしましょう。重要なのは、決してあきらめないことです。必要に応じて、個人的な問題に割く時間と余力を確保しましょう。健康や私生活を優先しなければならない状況では、ペースを少し落とす必要が生じるかもしれませんが、これは、あなたがより強くなって前に進み続けるための試練なのです。そして、大小を問わず、何かを達成したときはそれを祝い、研究への情熱の火を絶やさないようにしましょう。どれほど険しい道であっても、最後に博士号を手にすることができれば、それまでの時間と労力は必ず報われるはずです!
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