外国語での研究 vs. 母語での研究

外国語での研究 vs. 母語での研究

[注:この記事は、アン・ヒギョン(Ahn Hee-Kyung

)氏が韓国語で執筆して自身のブログ「Life in Green」に公開した内容の翻訳版を、許可を得てここに掲載したものです。]
 



私はJ氏の研究グループでポスドクをしています。J氏はユーモア好きなのですが、英語で話すため、私には理解できないことがよくあります。何か面白いことを言ったということは分かるのですが、それがなぜ面白いのかが理解できないのです。

サッカーワールドカップ2018の準々決勝、イングランド対スウェーデン戦の前夜に、研究室の親睦会がありました。J氏は私の隣に座り、「前にスウェーデンと戦ったときは21で負けたんだ。翌日の新聞には“Swedes 2 Turnips 1”という見出しが出たんだけど、明日の見出しも似たようなものになると思うよ、“Swedes to Turnips 2”ってね!(笑)」と言いました。

Swede」と「Turnip」は共にカブの一種のようなのですが、私はどちらも食べたことがなく、その違いが分かりません。「Swede」はスウェーデン人の呼称でもあるので、それを掛け言葉として使っていることは想像できるのですが、イングランド人がなぜ「Turnip」になるのかが分かりませんでした。「Turnip」を「Parsnip(ニンジンに似た根菜)」に置き換えても、このジョークは成立するのでしょうか?そもそも、このジョークの何が面白いのでしょうか?

このような隠喩的表現は、ユーモア好きなJ氏の得意技です。J氏との最初のミーティングのとき、私が行う予定だった実験についての仮説を披露してくれたのですが、その中で「daisy chain(訳注:一般に、複数の電子機器を数珠つなぎにする、あるいはまとめて1つの輪にするような接続方法のことを言う)」という表現が出てきました。手をぐるぐる回す仕草から、それが丸い形をした何かなのだと漠然と理解することしかできませんでした。「花の“daisy(キク科の花)”と関係があるのだろうか?」などと考えているうちにミーティングは終わってしまいました。1ヶ月後、同僚の1人が、私が想像する「daisy chain」(daisyの花冠)を実際に作ってきてくれました。

모국어로 과학을 한다는 것 - 데이지 체인

[画像提供] Ahn Hee-Kyung


留学生活を開始した当初は、英語でのコミュニケーション能力に自信を持っていました。でも最近では、言葉を発する前に考えたり言葉を組み立てたりするのに時間がかかるようになってしまい、自分の英語力の限界を思い知らされました。ただ、言葉を探している間の沈黙に耐えられないので、最初に浮かんだ言葉をついつい発してしまいます。現地の人々との会話が日に日に難しくなっているように感じられ、当初よりも海外での生活が苦痛になってきています。


自分の研究を英語で説明する


先日薬局に「fever reducer(解熱剤)」を買いに行ったのですが、この単語が浮かばなかったので、単に「熱を下げる薬をください」と言いました。まだ出会っていない言葉もあると思いますが、語彙力は、新たな言葉に出会うたびに高まっていくでしょう。それより大変なのは、研究や実験について自分の意見や考えを述べなければならないときです。通常、予想される実験結果は1つだけではありません。これらの可能性を英語で説明しようとすると、言い忘れがあったり、説明が不十分だったりします。これを避けるために、私のプレゼンテーション用スライドは、言葉で一杯になってしまいます。

ある日、私が所属する研究室に以前在籍していたことがある韓国人の教授が訪ねてきました。その教授はこの研究室の出身者として伝説的な人物だったため、その人にまつわる話を同僚から聞いていました。私は、自分の研究をプレゼンさせてもらえるようお願いしました。実験結果は思わしくなく、エビデンスも弱いものでしたが、自分が取り組んでいる研究を知ってもらい、いろいろなことを教えてもらいたいと思ったのです。

ミーティングはあっという間に終わってしまったため、上手くいったかどうかもあまり覚えていません。恐る恐る始めた韓国語でのプレゼンですが、気づくとアドリブでの補足説明も交えながら、自分の研究を流暢に説明できていました。予想外の実験結果からでも、さまざまな結論や新たな仮説を導き出せたことは、素晴らしい成果だったと思います。それまで抱えていたモヤモヤが、一気に晴れた気分でした。


不公平さを感じることも


新たな科学的知見を迅速にシェアするための共通言語は、必要だと思います。プレプリントサーバーをはじめとする各種媒体を通してリアルタイムで研究結果が共有される世界では、共通言語の重要性は一層高まります。研究結果をより多くの人に届けることでしか科学は進歩しないので、研究結果を迅速に共有できるシステムは不可欠です。それを踏まえると、非英語圏の研究者は不利な状況に立たされていると言えます。一方、英語圏の研究者は別の言語に変換することなく迅速に情報にアクセスできる分、有利な立場に立っていると言えるでしょう。

私は若くして海外で経験を積み、英語を習得しました。でも、英語のスキルは当時からあまり向上していないので、さまざまな可能性が考えられる実験結果について複雑な説明をする英語力はいまだにありません。同僚とは良好な関係を築けており、世間話をすることもよくあるのですが、話していると、自分の語彙力の限界を思い知らされます。ちょうど昨日、出産した時の不安感を伝えようとしたのですが、それを適切に表現する英単語が浮かびませんでした。

また、研究を進める上で感じていた無力感は、単に英語力の不足だけによるものではないことにも気付きました。韓国人教授とのミーティングで、「私はこの研究で最終的に何を明らかにしたいんだろう?」と考えるようになりました。この疑問は今も頭の中にこびりついています。足りないものは何か?これこそ、私が探求しなければならない問題なのでしょう。

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