アカデミック・ライティング関連の書籍&リソース10選
20世紀の作家サマセット・モームは、文学を論じたエッセイ『世界の十大小説』について、「あなたにとっての小説ベスト10を挙げてほしいと出版社から依頼を受けた」と振り返っています。そして、「当然ながら、私のリストは主観的なものです。私が10の小説を選んだように、誰もが自分なりの方法で選び、選んだもっともな理由を述べられるはずです」と述べています1。
アカデミック・ライティングに関する書籍やリソースを10点選ぼうとしていた私は、その言葉を思い出して少し安心しました。ただ、今回選ぶのはより実用的なものなので、モームが「私が選んだもののほとんどは、他の人も選んでいるだろう」と考えたように、私が選んだものが他の人にも選ばれるものであることを期待しています。
選ぶ際に意識したのは、優れた著作物とはどのようなもので、上手く書けるようになるためには何が必要なのかが述べられていて、書くことが少しずつ上達する方法が紹介されているかどうかです。書籍ではないリソースを3点挙げましたが、これらはスタイルガイドのような参考資料として利用できます。今回は、すでに有名なスタイルガイドは除外し、もっと広く知られてもいいはずの、まだあまり知られていないものを選びました。
それでは、私なりの、研究者のための書籍&リソース10選をご覧ください。
1. Stylish Academic Writing (Helen Sword)
本書の著者ほどアカデミック・ライティングに注目して調査を行なった人はほとんどいないでしょう。その精査の末に導き出された結果は、誰にとっても役立つヒントとしてまとめられました。著者はまず、各分野の70人以上の研究者に、分野における“stylish academic writing”の特徴を説明するよう依頼しました。次に、同じ分野の研究者から推薦を受けた100人以上の著者の書籍と論文を分析し、10分野のトップジャーナルから採集した論文1000本のコーパスを詳細に分析しました。著者は、自分の文章を評価することができる無料テストも公開しています。
2. Words of Science, and the History Behind Them. (Isaac Asimov)
Words of Scienceには、姉妹編More Words of Scienceもあります。どちらも出版されてから年月が経っていますが(それぞれ1959年と1972年)、あらゆる書き手に、折に触れてじっくり読むことを勧めたい書籍です。著者は、「科学用語は、私たちがその土地に足を踏み入れるための橋であり、私たちを締め出すための壁ではない」と述べています。内容はアルファベット順で構成され、各章が1つの単語に関する短いエッセイになっています。単語の意味だけでなく、それがどのように派生し、どのように使われ、場合によってはどのように発音されるかについても説明しています。これは研究者向けの内容だろうか、と疑問を持つ人もいるかもしれませんが、言葉があらゆる執筆の構成要素であることを考えれば、無関係ということはないでしょう。
3. How to Write a Lot (Paul J. Silvia)
書く時間を見つけることが難しい人、スランプに陥っている人のための優れたアドバイスが紹介されています。150ページに満たないボリュームながら、実践的なアドバイスが満載で、「生産的に書くこと」は学ぶことのできるスキルであることが示されています。
4. On Writing Well: The Classic Guide to Writing Nonfiction (William Knowlton Zinsser)
副題の通り、すでに古典となっており、第6版は2001年に発行されています。1976年の初版は、ほとんどが手書きかタイプライターで執筆されました。著者は、「ワープロは良い作家をより良く、悪い作家をより悪くした」と述べていますが、本書は「温かな筆致で明快に書く技能」を説く、簡潔で読みやすいガイドです。
5. The Sense of Style: The Thinking Person’s Guide to Writing in the 21st Century (Steven Pinker)
著者は、認知心理学の研究者であると同時に、The Language InstinctやWords and Rulesなどのベストセラー作家でもあります。良い文章と悪い文章の具体例が示された本書は、「書く方法をすでに知っている、よりよく書きたい人」のための比較的新しい本です。
6. Academic Writing for Graduate Students: Essential Tasks and Skills (John M. Swales, Christine B. Freak)
2人の著者が、English Language Institute(ミシガン州)での執筆インストラクターとしての豊富な経験を利用して、さまざまなタイプの執筆への取り組み方を紹介しています。実体験に基づく内容が、本書の有益性を高めています。
7. Simple & Direct: A Rhetoric for Writers (Jacques Barzun)
著者は、研究者向けの優れた書籍を複数出版しており、その中でもっとも広く知られているのがThe Modern Researcherです。著者は奨学金を重視しており、とくに奨学金の成果をシンプルかつ明確に表現することにもこだわりました。本書は、正しい単語を選択し、選択した単語で明快な構文を組み立てることだけでなく、適切なトーンと校正の必要性についても触れています。
8. The Editor’s Manual
ここまでに紹介した本は、アカデミック・ライティングの技術を習得するための読みものでしたが、The Editor’s Manualは、実際の執筆や校正中に具体的なアドバイスを探るためのウェブサイトです。用法、句読点、スタイル、文法の4カテゴリに分類されていて、個別の問題を解決するための関連情報を見つけやすくなっています。
9. The Academic Phrasebank
手軽なライティングツールであるAcademic Phrasebankは、参考文献の文言をそのままコピーするのではなく、自分の言葉で言い換えたいとき(同時に、盗用を検知する「類似性チェック」をパスしたいとき)に便利です。アカデミック・ライティングでよく使われるフレーズが、論文の一般的なセクション(イントロダクションセクション、方法、結果など)ごとにグループ化され、それぞれのセクションでよく使われるフレーズが確認できます。
10. Oxford Learner’s Dictionary of Academic English
この辞書は、学術研究のために英語を学んでいる人向けに設計されており、実際の学術文書から抽出された例文で各単語の意味を説明しています。この辞書は以前にもレビューしたことがありますが2、今回10点のリソースを選ぶにあたって最初に頭に浮かんだものがこれでした。印刷版には実践的なWriting Tutorのセクションが収録されており、CD-ROMも付属しています。
参考資料:
1. William Somerset Maugham. Ten Novels and Their Authors. (Heinemann, 1954).
2. 英語論文を書くのに役立つ辞書
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