アルコール依存症の治療薬、マクロファージを標的としたがん治療にも有効か

アルコール依存症の治療薬、マクロファージを標的としたがん治療にも有効か

がんと闘うための治療法の開発は、医学研究においてもっとも難しい課題の1つです。がん細胞は、宿主自身の免疫系を利用して成長・拡散し、最終的には宿主を死に至らしめる厄介な存在です。通常は正常な細胞を保護するために戦っているマクロファージのような免疫細胞も、悪性のがん細胞に乗っ取られ、腫瘍周辺を浸潤する腫瘍随伴マクロファージ(tumor-associated macrophage, TAM)となってしまいます。実際、免疫療法がうまくいかなかった患者のがん組織には、多量のマクロファージが存在しており、TAMががんに密接に関与していることが分かっています。このTAMが、ケモカインなどのシグナル伝達型タンパク質を生成して、免疫抑制性腫瘍環境を作り出す抑制性の免疫チェックポイントの解放を引き起こし、がん細胞の保護と加速度的な成長を促します。近年、がん細胞の拡散を促すこのTAMを制御する治療戦略に、注目が集まっています。


東京理科大学の寺島裕也氏率いる研究グループは、これを新たな抗がん剤開発の機会と捉え、

2005年にNature Immunology誌で、TAMの制御や挙動に関与している新たな標的タンパク質「FROUNT」を発見したと報告。この研究により、TAMの集積と移動に不可欠な細胞伝達プロセスの一種であるケモカインのシグナル伝達をFROUNTが増幅し、TAMの制御に直接的に関与していることが明らかになりました。

 

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研究チームは、この知見をふまえた治療戦略を検討するための研究を続け、その結果をNature Communications誌で発表しました。動物実験を通して明らかになったのは、TAMにおけるFROUNTの発現を制御することで、がんの成長を抑制できるということでした。


また、副作用を軽減するため、ケモカインのシグナル伝達に対するFROUNTの効果を抑制する方法を、両者の相互作用を阻害するという方法によって開発しました。研究チームは、131200種類の化合物をスクリーニングした上で、アルコール依存症の治療薬として使われていて抗がん剤としての可能性を持つことで知られるジスルフィラムに着目。すると、この薬がFROUNTに直接結び付き、FROUNTがケモカインのシグナル伝達を行う成分との相互作用を阻害することが分かりました。寺島氏はこの結果を受け、「マウス実験では、ジスルフィラムがマクロファージの動きを阻害し、がん細胞の成長を抑制しました。したがって我々の発見は、免疫チェックポイントにジスルフィラムを組み合わせて使用することによって、応答しにくいがん細胞の成長を抑制できる新たながんの治療法となり得るものです」と説明しています。


研究チームは現在、研究をさらに深めるために、国立がん研究センター東病院で臨床研究をスタートさせています。寺島氏は今後の展望について、「マクロファージはさまざまな疾患で問題となっているため、FROUNT阻害剤は幅広い疾患に適用できるのではないかと考えています」と述べています。チームは、この研究がTAMを制御する初めての治療戦略となることを目指しており、標的タンパク質FROUNTTAMの阻害の相関関係についての理解が進み、将来有望な治療法となることを期待しています。

 

参考

原著論文タイトル:

Targeting FROUNT with Disulfiram Suppresses Macrophage Accumulation and its Tumor Promoting Properties

ジャーナル:

Nature Communications

DOI:

10.1038/s41467-020-14338-5

 


東京理科大学TUS

科学に特化した日本最大の名門私立大学で、東京に4キャンパス、北海道に1キャンパスがある。1881年の創立以来、研究者・技術者・教育者の科学への情熱を育みながら、日本の科学の発展に貢献し続けている。

「自然・人間・社会とこれらの調和的発展のための科学と技術の創造」という理念のもと、基礎研究から応用研究まで幅広い研究を行なっており、研究に学際的なアプローチを導入して、現代の最重要分野の研究に集中的に取り組んでいる。最高の科学が認められ育まれる実力主義の大学であり、自然科学分野のノーベル賞受賞者を輩出した日本唯一の私立大学であるとともに、自然科学分野のノーベル賞受賞者を輩出したアジア唯一の大学。


寺島裕也博士

東京理科大学生命医学研究科講師。ケモカイン受容体に直接結び付き、ケモカインのシグナル伝達を制御するFROUNTを発見。その機能的阻害による治療への応用を目指し、ケモカイン受容体ファミリーの会合分子の研究に取り組む。研究チームとともに、炎症、免疫、創薬の観点からの生体の分子メカニズムの解明を目指している。


研究助成情報

この研究は、日本医療研究開発機構(AMED)および日本学術振興会科学研究費助成事業の助成のもと、革新的がん医療実用化研究事業(JP19ck0106422)および、次世代がん医療創生研究事業(P-CREATE, JP19cm0106204)の一環として実施されたものです。


問合せ窓口(東京理科大学)

清水勉: mediaoffice@admin.tus.ac.jp

 

 

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