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ジャーナルエディターの義務「学術的記録の健全性を確保すること」
学術出版において30年を超える経験をお持ちのアイリーン・ヘイムス氏(Dr.Irene Hames)は、いずれの機関にも所属していない、研究‐出版と査読に関する専門家です。
現在は、Sense About Science やInternational Society of Managing and Technical Editorsといった数多くの団体において、アドバイザー的役割を担っています。博士は、細胞物理学のPhDを取得しており、生物学会のフェロー(称号)を与えられています。
また、生物学会では、研究普及委員会(Research Dissemination Committee)の一員です。(博士の詳しい経歴につきましては、インタビューシリーズの 第一部 にまとめました)
前2回のインタビューで博士は、学術出版における倫理的問題、出版倫理委員会の仕事、長年にわたりジャーナルの編集プロセスがいかに変化してきたか、また学術コミュニティが査読に何を期待できるかについて議論されました。
シリーズの最終回では、ジャーナルエディターは研究の瑕疵をどのように扱うべきか、自分と何千もの他の研究者が科学に対する一般的理解を促進にいかに努めているか、などについてお話してくれます。
研究に重大な欠陥があることを査読によって発見できない場合、ジャーナルの内部では、通常どのようにその問題を処理するのですか?
自身のシステムとスタッフ・査読者の活動に対処し、それらを改善するためのジャーナル側のアプローチは、どのくらい厳しく迅速に行われていますか?
ジャーナルが出版した、あるいは出版を考えている研究に欠陥があり、ジャーナルがそれに気づいた場合は常に、そのジャーナルには詳しく調査する義務があります。それを気づかせたのが、読者、査読者、エディター、匿名の告発者など、誰であってもです。査読プロセスから生じた問題ならば、対処し、必要があればプロセスを修正しなければなりません。人的ミスによるものならば、研修が必要になります。スタッフとエディターの教育・研修プログラムをすべてのジャーナルが持つべきでしょう。しかしながら、ジャーナルがあらゆるケースを把握できるようことを期待するのは、現実的ではありません。たとえば、研究者が意図的に結果を捏造・改ざんしようとする場合もあります。
エディターには、学術的記録を健全に保ち、自身のジャーナルに掲載した論文に欠陥があることや、それらが不健全であることがわかった場合は、理由が何であれ訂正する義務があります。COPEの撤回ガイドライン は、こういう場合どうするか、訂正、撤回、表明をいつ行うべきか、について指針を与えてくれます。研究者による不正行為や倫理違反の可能性が心配される場合は、エディターがその研究者の所属機関に連絡を取り、その機関に調査を依頼する必要があります;ジャーナルの責任にはなりません。
ジャーナルがすべきなのは、常に敏速に行動すること、ただし公正であるべきで、敏速さのあまり完璧さを犠牲にしてはいけません。物語のあらゆる側面に耳を向けることが大切です。私自身の経験から言えることですが、表面的には不正行為のように見えることが、実は注意力不足、知識のなさ、ミスコミュニケーションの結果である、というのはよくあることです。
2010年4月、ロンドンのチャールズ・ダーウィンの家にて開催されたThe Plant Journalの年次編集会議– ヘイムス氏(前列、右から2人目、白いTシャツに紺のジャケット) 、編集委員会、編集スタッフ。
「Sense about Science」 (イギリス)では諮問委員会のメンバーになってらっしゃいますね。5,000人の研究者(ノーベル賞受賞者、博士号取得研究者、博士課程の学生)によって、科学の一般的理解の促進がどのように行われているか、またそれはなぜか、教えていただけますか?
若手研究者の声ネットワーク(Voice of Young Science network)とはどういうものですか、また、若手研究者はそれへ加入することでどのような利益が得られますか?世界中の人々がどのようにしたら関わることができるのですか?
科学の一般的理解は、個人的な観点、社会的観点、両方の観点から重要です。前者は、人が自分の人生について情報にもとづき意思決定できるという意味で重要であり、後者はテクノロジーの世界になりつつある中で各自の生活に影響を与える、より広い技術的・科学的問題に巻き込まれる可能性があるという意味で重要なのです。
新聞に医学・科学の記事が掲載されると、センセーショナルに書かれている場合は特に、専門的知識のない一般の人には、何を信じるべきで、何を懐疑的な眼で見るべきか知るのが、非常に難しい可能性があります。新しいがん治療法に関する記事は、証拠にもとづいているでしょうか、それともエセ科学をもとにしているのでしょうか?
「Sense About Science」は一般の人が、査読や、科学的研究と出版のプロセスにおける査読の位置づけを理解できるよう支援しています。また、データベースに載っている科学者の協力を得て、複雑な問題を一般の人が理解できるような出版物を作っています。たとえばMaking Senseシリーズには、化学物質についての物語、放射線、天候と気候、統計学、スクリーニング検査についての冊子が含まれています。一般向けガイドの翻訳もいくつか出版され、その中には査読についての一般向けガイドの翻訳(中国語)や I’ve got nothing to lose by trying itの翻訳(イタリア語、クロアチア語、スペイン語)もあります。
VoYS(若手研究者の声ネットワーク;Voice of Young Science)は、Sense About Scienceの国際版ネットワークで、イギリス、南アフリカ、スロベニア、ポルトガル、イタリア、アイルランド、アメリカで開催されたワークショップを通じ、約1500人の若手研究者によって設立されました。若手研究者は、科学に関する公の場での論議において、積極的な役割を果たすよう推奨され、VoYS は(たとえばメディアや査読についての)ワークショップを開催したりリソースを提供したりして、若手研究者がそうした役割を果たせるよう支援します。私は、査読に関するかなりの数のワークショップに参加しましたが、彼らは非常に評判が良く、若手研究者が査読や研究発表についてより広く理解するのに、大いに役立っていることがわかります。VoYSはまた、「神話の崩壊 (‘myth-busting’)」や evidence-hunting キャンペーン(contesting false or misleading product claims)にも関わっています。これらのキャンペーンに参加するためイギリスを本拠地にする必要はありません。キャンペーンの中には、マスコミで広く取り上げられているものもあり、国際的に大きな影響力を持つものもあります。たとえば2009年、VoYS はアフリカで働く医学生、研究者に加わり、重病に対するホメオパシーの促進を強く非難するようWHOに要請しました。
Sense About Science や VoYSに励まされた世界中の人々が、それらのネットワークに参加し、ワークショップに出席し、そして専門家のデータベースに入ってくれています。もっと詳しくお知りになりたい方は、こちらのサイトをご覧ください。
最後になりますが、仕事が忙しくないときや、活動やツイートを通じて関心が高まったときには、何をするのが好きですか?
3年前、ジャーナルを辞めた後にと計画していた「セミリタイヤ」や本の執筆は、どうやら実現しなかったようです。面白いプロジェクトやお誘いがあまりにたくさんやって来たものですから!
夫と私は散歩が好きで、イギリスに住んでいるのですが、すばらしい田園地方、丘、湖、砂浜へのアクセスが良いのは本当に幸運でした。ですから、可能なときは、ウォーキング・ブーツを履いてそういうところへと脱出し、何マイルも歩きます。料理も好きですよ。それから、いくつかタペストリー製作で忙しくしています。いつか、仕上げる日が来るでしょう。家族と友人もまた、とても大切です。少しでもみんなで集まる機会を持つようにしています。
ヘイムス博士、ありがとうございました!
このインタビューシリーズは アラジ・パテルが行ったものです。
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