プレプリントの成長は査読への信頼を揺るがしているのか?
公開サーバーにアップロードされるプレプリント(査読前論文)は、誰でも自由に閲覧したりコメントしたりすることができます。しかし、査読プロセスを経ていないため、品質や信頼性が低いケースが多いことも事実です。一方、専門家のフィードバックが得られる機会でもあるため、プレプリントは著者にとってメリットがあります。この記事では、プレプリントの利点と課題を確認した上で、その人気の高まりが査読への信頼を損なっていないかを考えます。
プレプリント出版の利点
好ましい出版形態としてプレプリントが急速に人気を集めている理由は、次の通りです。
- 研究成果の発表を迅速化し、優先権を確保する
査読付きジャーナルに原稿を投稿すると、複数回のチェック、レビュー、修正依頼を経て、アクセプトまたはリジェクトの判定が下されます。このプロセスには数か月かかることも珍しくありません。ただ、判定結果を待つ間に他の人が同じアイデアで論文を発表し、自分の研究が新鮮さを失ってしまうことも考えられます。この問題が、プレプリントへの移行を促しています。プレプリントは研究成果を迅速に発信し、アイデアや発見の優先権を確保するのに役立つのです。プレプリントを公開するには、論文をプレプリントサーバーにアップロードし、基本的なチェックに通るのを待つだけです。数日以内にDOIが割り当てられ、論文が公表されます。プレプリント論文が世界中から認知され引用されれば、重要な研究が滞りなく共有され、相応の信頼が得られるでしょう。
プレプリントへの移行は、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のワクチン開発に向けた時間との闘いが繰り広げられている今、より明白になっています。新たな知見を迅速に得る上で、従来の出版モデルでは十分に機能していません。例えば、The New England Journal of Medicine(NEJM)ではレビューサイクルを速めるためにスタッフの配置などの体制を強化していますが、そのアクセプト率は、1か月間に投稿される約2,000本のCOVID-19関連論文の2%にとどまっています。一方、主要なプレプリントサーバーである bioRxivと medRxivでは、COVID-19関連の3,000本以上の論文が公開されています。[i]
- 論文にアクセスしやすくしてインパクトを高める
科学は足し算であり、過去の研究を土台として築かれるものです。進歩と成長が確保できるかどうかは、論文が悪名高いペイウォール(有料の壁)を乗り越えられるかどうかにかかっています。あるデータによると、世界中でもっとも多く引用されている論文100本のうち、65%が依然としてペイウォールの背後に閉じ込められています。これは、世界でもっとも重要な論文に一般人はアクセスできないということです[ii]。また、アクセスできない研究者の論文が、新規性を求める一流誌から、「新たな知見がない」、「再現研究にすぎない」との理由でリジェクトされるケースもあります。
このような状況に対し、幅広い論文にアクセスできるプレプリントがシンプルなソリューションとなっています。プレプリントはオンラインで無料公開されるため、非政府組織、独立研究者、教育者、メディアなど、幅広い読者層が最新の研究に自由にアクセスできます。プレプリントは引用も可能で、簡単にシェアできるので、ジャーナルで正式に発表される前でも、論文に注目を集めることができます。
- 論文の認知度を上げてコラボレーションを促す
研究資金獲得のために助成機関にアプローチしたり、求職のために人事委員会に接触したりする際は、自分の研究に関するエビデンスを用意する必要があります。そんなとき、プレプリントは自分の研究をアピールするための便利な方法です。また、プレプリントサーバーに論文を掲載することで、会議やセミナーでの発表の機会が得られることもありますし、共同研究を見据えて同じ分野の研究者とつながるチャンスも得られます。
- 査読前に公開レビューを受けられる
プレプリントは無料で閲覧できるため、自分の研究を同じ分野の専門家に見てもらうことが可能です。専門家からの貴重なフィードバックが、研究を前進させる助けになるかもしれません。カリフォルニア大学サンフランシスコ校(UCSF)のジェームズ・フレイザー(James Fraser)准教授は、より良い科学のためにプレプリント出版を推奨しています。「プレプリントを公開することで、徹底的な評価を受ける機会が得られます。これは、とくに若い研究者にとって有益です」と述べています[iii]。
このことは、bioRxivユーザーの71%がプレプリントへのフィードバックを受けたことを示すデータによって裏付けられています[iv]。プレプリントリポジトリに原稿をアップロードすると、研究の重大な欠陥を特定するためのフィードバックを即座に受け取ることができます。そのため、ジャーナルに投稿する前に論文の質を向上させることができます。フィードバックは、サーバー上にある著者の連絡先情報を利用して、ソーシャルメディア、学会、電子メールなどを通じて共有されることもあります。例えば、Twitterアカウントを通じてChemRxivでプレプリントを公開することで、新しい研究が広まってさらなる議論につながることもあります。
プレプリント出版の課題
プレプリントには大きな利点がありますが、リアルタイムで科学にアクセスすることへの代償もあります。プレプリントサーバーに投稿された査読前の論文は、査読プロセスの根拠である科学的整合性を危険にさらすリスクがあると見なされているのです。bioRxivの諮問委員であるエリック・トポル(Eric Topol)氏はニューヨークタイムズ紙の最近の記事で、「プレプリントを読む人々は盲目的にそれを受け入れてしまい」、自分の世界観に合った情報だけを「良いとこ取り」していると警告しました。
COVID-19のような未知の脅威と戦うための情報が十分でない状況は、プレプリントの思わぬ副作用を助長します。データの海の中で目立つように、速く広く遠くまで拡散するような、人目を引く派手な研究結果になりがちなのです。ある研究者グループが、新型SARS-COV-2はHIVに似ていると主張する論文をプレプリントサーバーにアップロードしましたが、その論文はニュースサイトやソーシャルメディアサイトで燎原の火のごとく広がり、珍説や陰謀論にも油を注ぎました。
プレプリントサーバーに掲載される論文は非常に多いため、重要で質の高い研究を見つけることが困難になっています。また、有意義な真の科学的知見をフェイクニュースと区別することも難しくなっています。これは、専門知識を持たないジャーナリストや一般市民にとってはなおさら大変なことです。それでは、プレプリントの問題を解決しながら査読のペースを上げる方法はあるのでしょうか?
質の高い科学を確実に普及させる
誤情報が広がる可能性を認識しているプレプリントリポジトリは、「掲載されている内容は査読を受けていないため未検証である」ということを積極的に発信しています。また、掲載されている内容の性質を明記して、閲覧者に対して慎重にデータを使用するよう忠告しています。透明性を高めるために、主要サーバーでは論文の最新版を読者に提示し、撤回された論文については具体的な理由を明記しています。
bioRxivとmedRxivは、新たにアップロードされた原稿に対し、科学的価値や剽窃等に関する広範なチェックを行っています。bioRxivでは、主に治験責任医師(PI)がチェックを行なっています。medRxivでは、トップレベルの医療従事者が倫理委員会の承認、臨床試験登録、インフォームド・コンセント、利益相反について原稿をスクリーニングし、より重層的なチェックを行なっています。medRxivはまた、単独のケースレポート、サンプル数の少ない論文、計算モデルに基づいた論文をリジェクトしていますが、重要な知見を含む可能性のある論文は査読に回しています。
ソーシャルメディアやプレプリントサーバー上で、科学者たちは、新たにアップロードされたプレプリントへのフィードバックを慎重かつ惜しみなく共有しています。しかし、もっとも重要な最初のチェックは、投稿ボタンを押す著者自身が行うべきものです。科学者は、自分の研究に対する責任があります。学術界では評判が重要なので、投稿論文はクリーンでミスのないものでなければなりません。では、最善を尽くしてジャーナルや出版社を納得させるにはどうすればいいのでしょうか?ここで役立つのが、AIベースの原稿チェック機能、R Pubsureです。
R Pubsureはプレプリントにどう活用できるか
R Pubsureは、AI を搭載した正確で安全かつ包括的な原稿チェック機能で、リジェクトにつながる重大なエラーを発見するのに役立ちます。言語、構成、参考文献などを主な投稿規定に沿って詳細にチェックすることで、プレプリントサーバーに投稿する前に原稿の準備状態を確認できます。論文の評価を受け(数分で完了します)、アドバイスに基づいて論文を改善し、投稿時に添付できるR Pubsure証明書(画像を参照)を取得して、投稿準備を万全に整えましょう。さらに、論文にふさわしいジャーナルを推薦する機能を使えば、アクセプトの可能性を高めることができます。
<R Pubsure証明書>
一流のプレプリントリポジトリが行なっているチェックと対策は、公開される論文のレベル向上に役立っていると同時に、研究の質の確保に欠かせない査読への依存度を下げています。プレプリントにはいくつもの利点がありますが、この出版形態が、信頼できる科学研究の主要ソースとして査読誌に取って代わることは、近い将来には考えにくいでしょう。そのときがやって来るまでは、ジャーナルでの出版かプレプリントとしての公開かを問わず、あなたの研究を最高の状態で世界に発信するためのベストエフォートとして、R Pubsureを利用することをお勧めします。
参考資料:
1. I. Syed- The role of preprints in aiding the speedy dissemination of COVID-19 research, 2020. Retrieved from https://www.editage.com/insights/the-role-of-preprints-in-aiding-the-speedy-dissemination-of-covid-19-research
2. J. Nicholson, A. Pepe- 65 out of the 100 most cited papers are paywalled. Retrieved from https://www.authorea.com/users/8850/articles/125400-65-out-of-the-100-most-cited-papers-are-paywalled
3. Socholastica, Authorea- Open Access + Preprints: Journals and scholars take action, 2016. Retrieved from
https://lp.scholasticahq.com/open-access-publishing-preprints/
4. F. Coudert- The rise of preprints in chemistry, 2020. Retrieved from https://www.nature.com/articles/s41557-020-0477-5
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