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若手研究者の視点: パンデミックの渦中で
オーストラリアのクイーンズランド大学で研究助手を務めていた私は、獣医看護の仕事に就いて2年目に入っていました。母国インドからクリスマス休暇を終えて戻ってきたところで、これからさらにスキルを高め、できれば研究室でより安定したポジションを得たいと意気込んでいました。
当時、臨時の技官として携わっていた仕事は、主に家畜から採取した診断用検体の処理と、抗菌薬耐性を検出するための分子アッセイの開発です。上司や同僚にも恵まれ、申し分のないワークライフを送っていました。物事は正しい方向に進んでいるように見え、キャリアを積んでいくことが楽しみでした。
そんな日々の喜びや夢は、新型コロナのニュースが広まるにつれて薄れていきました。職場では、パンデミックが大学での研究に与える影響について日々議論が交わされていましたが、わずか1か月でオーストラリアも全世界も行き詰まることになりました。
勤務先の大学では、中核スタッフだけが出勤することになりました。スーパーバイザーと学生のほとんどは在宅ワークに移行するということです。ときどき大学に出てくる学生の面倒は私が見ることになりました。この仕事に就いて1年が経ち、実験室の基本的な準備や実験は一人でできるようになっていました。とはいえ、今や、研究室、在庫、試薬の管理、培地の調製のほか、学生たちの指導とトレーニングまで一人で担わなくてはなりません。スーパーバイザーも先輩も周りにいない状態で、これほど多くの役割を新たに担うことを考えると、気が遠くなりそうでした。
パンデミックは、仕事や社交のみならず、精神面や感情面にも大きな影響を及ぼしました。毎日何十人もの人々と交流していた生活から、人との交わりがほとんどない生活に変わったのです。(当時同じ研究室で修士課程のプロジェクトに取り組んでいたパートナーが、唯一の交流相手でした。)まるでゴーストタウンで働いているような気分でした。研究室の定期ミーティングもオンラインに移行し、そのミーティングが1週間分の社交となりました。
生活必需品が手に入らなくなり、多くの人々が職を失う中、本能的な恐怖から、世界中がパラノイアに陥っていました。私は、個人的に別の不安と向き合っていました。研究室の資金が限られていることから、私の雇用を維持することの是非が何度も問題提起されていました。この危機の中で解雇されるかもしれないという可能性は、恐怖でしかありませんでした。自分をどう保っていたのか分かりません。家賃は払っていけるだろうか?家族にはどう伝えよう?でも、私の働きぶりと研究室運営への貢献度を上司が評価してくれたため、解雇の恐れはなくなりました。そのことは今でも毎日感謝しています。
状況は悲観的でしたが、翌年よりはましでした。ほとんどの学生は2020年に学位を取得し、研究室を去っていきました。国境閉鎖のため、残念ながら新入生は来ませんでした。ラボは一層静かになり、交流する相手がさらに少なくなりました。毎日が同じでした。人気のないバス停まで歩いて行き、バスを待っては、乗り遅れました。運転手が、通勤者がいないものと仮定して運転しているからです。運が良ければ、なんとかバスに追いつき、時間通りに出勤することができました。ワクチン接種が始まったにもかかわらず、人々が戻り、研究室が学生たちで賑わい、同僚たちと冗談を交わせるようになるまでには長い時間がかかりました。
あれから2年が経った今、当時のことは遠い昔のようです。恐怖、ストレス、悲しみ、不安のうちに過ぎていった2年間でした。学校を卒業して社会に出たばかりの人にとって、世界は無限のチャンスに満ちているように感じられるかもしれません。もう、立ち止まることを求められ、不安に包まれ、答えのない問いを大人たちに投げかける必要はないからです。
パンデミックは私をどん底に突き落としましたが、それでも乗り越えていけるということに気づかせてくれました。この2年間が、博士号を取得する勇気を与えてくれました。以前は、自分にそのような可能性があるとは思っていませんでしたが、自分が研究者として社会の重要な一員であると実感でき、自然と嬉しさがこみ上げてきたのです。
パンデミックからはさまざまな影響を受けましたが、そのせいで私の思考回路は鍛えられました。より現実的になったと思います。さらに言えば、ややシニカルになったかもしれません。ただ、困難に立ち向かい、限界を押し広げるための心構えもできました。私は自信家タイプではなく、自分のスキルや能力をいつも疑っていました。でも、今では力を得たように感じられ、考えや意見を臆することなく表明できます。気付いたのは、人生は変化球を投げてくる可能性があり、それを学びや成長の機会として捉えなければならないということです。人は、何かのきっかけで本当の自分に気づけるのかもしれません。
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