博士課程に進む前に知っておきたかったこと・考えておくべきだったこと

博士課程に進む前に知っておきたかったこと・考えておくべきだったこと

研究に励む仲間たちへ

 

博士課程に進む前に考えておくべきことについては、多様な背景を持つ人が、それぞれの視点からさまざまな記事を書いています。博士号取得に向けて邁進中の人もいれば、すでに取得した人、または博士課程を去った人もいます。

 

私は今、博士論文執筆の真っ最中です。これは、博士号を目指す過程でもっともピリピリした苦しい時期であると同時に、「過酷なマラソンの最終区間」を前に、これまでの経験を振り返る時期でもあります。きっと多くの学生が、博士課程に入る前に知りたかったことについて思いを巡らせていることでしょう。ここからは、私自身の経験を振り返ってみたいと思います。

 

モチベーション

 

私は、具体的な目標があって博士号の取得を目指したわけではありません。明確な研究対象はなく、これという動機もありませんでした。単に修士号や博士号が、キャリアパスにおける次の順当なステップだと信じていたのです。高校も大学も、試験ではいつも合格してきました。学部は次席で卒業しましたが、基幹産業の下級職や経営管理の道は、研究職に比べて魅力を感じられず、知的要求も高いようには見えませんでした。そこで、時間をかけて経験を積むうちに次のステップが見えてくることを期待して、もっとも興味を引かれる研究職を目指すことに決めて修士課程に進み、十分な成績を収めたので、そのまま博士課程に進みました。

 

同期の多くの学生たちと同じように、私は自分で課題を設定することはほとんどせず、指導教授がすでに取り組んでいたプロジェクトに着手しました。唯一の目標は、自分にできることは何でも学ぶことでした。そんな調子だったので、満足のいく結果が得られなかった場合のプランBは持っていませんでした。すると、状況はまさにそのような方向に進んでいきました。(マーフィーの法則!)状況を好転させようとした私は、時間的な見通しや、将来の目標にどうつながるのかについては何も考えないまま、ただ根気強く取り組み続けました。そして、実験で壁に直面しては、何度もやる気を失っていました。

 

そうこうするうちに、短期目標と長期目標の両方を設定し、それを意識し続けることが欠かせないと気づきました。短期目標はタスクの優先順位付けに必要で、長期目標は落ち込んで意欲を失っているときに必要なのです。

 

進捗と時間との闘い

 

教育課程では、スケジュールが決められています。授業、ミニテスト、試験、プロジェクトには、教育機関が定めた期限があります。準備状況に関係なく、決められた日に、評価を受けるために出向かなければなりません。多くの生徒は、もっと準備をすればよかったと思いながら当日に臨んでいることでしょう。

 

一方の博士課程は、進捗状況の報告もレポートの締め切りも、決めるのは自分という点で独特な環境でした。私は、結果も進捗も十分だと感じられたことが一度もなく、期限までにプログラムを完了しなければならないというプレッシャーもなく、少々完璧主義だったこともあって、博士号取得の期限を先延ばしにしました。アドバイザーもいなかったので状況はさらに悪化し、悪循環に陥りました。時間が経つにつれ、作業の進行状況はさして重要ではないと考えるようになり、それがさらなる先延ばしにつながりました。

 

何かを提示することは、何も提示しないよりも優れていると理解するまでに、だいぶ時間がかかりました。考えてみてください。企業が完璧な状態でしか製品をリリースしなかったら、市場に製品はないでしょう。一歩ずつしか進まないことは過小評価されがちですが、それが真のイノベーションへの唯一の道です。博士号は、独立して研究を行うためのライセンスにすぎないのです。完璧を追い求めて時間を費やすより、それなりに満足のいく成果を出してすぐに卒業し、次のプロジェクトでより良い成果を出す方がよいでしょう(実現は難しいですが)。だから、手元にあるレポートを提出し、プレゼンテーションを行い、研究論文を書き、公開することにしました。このような試みの中で得たフィードバックは、より良い成果を出すためのモチベーションや、それまでには思いつかなかった着眼点やアイデアをもたらしてくれました。

 

コラボレーション

 

博士論文で取り組んだ学際的プロジェクトでは、私の専門分野である微生物学のほかに、ナノマテリアルの分析が必要でした。ナノマテリアルの領域については、特定の課題を克服し、実験変数を分析し、分析結果を理解するために、他学部の研究者の専門知識に頼らなければなりませんでした。何かしらのヒントをもらえれば良いほうで、最悪の場合は、忙しくて時間を割いてもらえませんでした。このときになって痛感したのは、プロジェクトの開始時に学際的な要件を予測しておき、あらかじめ専門家の協力を求めておくべきだったということです。プロジェクトに正式に関与することで、ベストを尽くす動機とインセンティブが生まれるからです。

 

私のもう一つの弱点は、判断を下されることへの恐れでした。研究室の同僚や先輩と話し合うことなく、すべての問題を自分で解決しようとして多くの時間を無駄にしました。振り返ってみると、これらの問題は、そこまでの努力が必要なほど重要ではなかったと思います。問題を自分で解決したという満足感はありますが、他の人がすでにしたことをしただけです。研究の最先端に立ってそれをさらに広げていくためには、「巨人の肩の上に立つ」ことが必要なのだと、ようやく気がつきました。

 

私の経験談が、研究者としての道のりで直面するハードル(実はこれは自分で課していることも多い)を乗り越えるために、少しでも役に立てば幸いです。皆さまの探究心とキャリアが花開くことを、心から願っています。
 

 

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