学術界の外でのキャリア: 起業家への道を開いた多様な実務経験と博士号
竹澤慎一郎博士のプロフィール: 東京大学大学院農学生命科学研究科で博士号を取得。科学技術振興機構、株式会社インスパイアを経て、2006年株式会社バイオインパクト、2007年株式会社ゼネラルヘルスケア(現GH株式会社)を設立。2017年2月、竹本龍也氏らと共にセツロテック株式会社を創業、同年5月より同社代表取締役社長。
これまでのキャリアと、典型的なアカデミックなキャリアパス以外でこれまでどのようなお仕事をされてきたかについて教えてください。
大学は生命理工学部、大学院修士課程は理学部、博士課程は農学生命科学研究科を卒業しました。就職先として、多くは大学などの教職、製薬会社や食品会社の研究職に就くのが一般的ではないかと思います。私の場合、博士課程卒業後はポスドクを2年間経験したあと、コンサルティング会社に就職し、その後起業しました。
その選択には紆余曲折がありました。修士課程のときの就職活動で、戦略系コンサルティングファームへの就職を検討し、面接を受けたことがありました。面接で役員面接ぐらいまで進みましたが、辞退することにしました。社会で働くことと、研究を極めることを比較検討した結果、もっと研究しようと考えたからです。
その後、修士課程を卒業し、博士課程1年目の学生のころ、インターンシップの機会を得て、投資銀行でのリサーチ業務を経験させてもらいました。バイオベンチャー企業のリサーチをして、博士がバイオベンチャーを起業している様子を身近で見させてもらい、経験させてもらえる機会を得ました。インターン先の企業には、気に入ったら、そのまま就職するという選択肢もありました。しかし、バイオベンチャーの様子を見て、博士を得てしっかりと技術に根差したバイオベンチャーを起業する道にも興味をもち、更に研究を深めていくことに決めました。
その後、博士課程が修了するころ、総合商社に就職する機会を得ました。事業を成功させるには、営業のスキルが必須であると考えたからです。内定し、新入社員研修も受けていましたが、入社する数日前に連絡がきて、配属が経理部になると告げられました。今であれば経理部のキャリアも悪くなかったと思いますが、当時は受け入れがたく、入社を辞退し、研究室の教授にお願いしてポスドクに採用してもらいました。研究は大好きだったので、そのまま大学のポジションに、というのも考えたこともありましたが、30歳になる節目のタイミングで、そろそろビジネスマンに転向しようかと決心し、コンサルティング会社に就職させてもらいました。入社して間もなく、友人が起業するということで、創業メンバーに加えてもらい、一緒に起業することになりました。バイオベンチャーに憧れた頃から起業するのは一つの目標になっていたので、その選択はスムーズでした。
今のキャリアを選ばれるにあたり、どんなことが役に立ちましたか?また、何か困難なことに直面しましたか?
最初に起業した会社と、2社目に起業した会社は、バイオや医療分野の専門メディア会社でした。バイオの専門家がメディアを手掛けることで、専門的な仕事をもらいやすい状況を作ることができました。その後、3社目に起業した現在代表を務めるセツロテックはゲノム編集技術というバイオテクノロジーを取り扱った会社で、大学院で学んだことがもっとも、直接的に役立っています。一般論として、博士課程まで進んだ方は、物事を整理して突き詰めていくことは得意だと思いますが、この能力はどこにいっても通用するものではないかと考えます。
博士課程の学生や研究者が、現在取り組んでいる非学術領域において、どのような種類の機会を探ることができると考えますか?
何にでもなれると思うので、いろいろチャレンジしてみることが大事です。高校・大学時代のアルバイト経験の経験も役に立つと思います。博士課程で経験した専門性と、様々な経験が化学反応したときに、新しいビジネスが生まれることが多いですし、経験を活用できる機会はたくさんあります。
ご経験を踏まえて、博士課程の学生や研究者が非学術的なキャリアパスを模索する際に考慮すべき最も重要な3~5つのポイントは何だと思いますか?
大学院博士課程の研究は、アスリートがオリンピックを目指すのと同様で、ある分野の世界トップを目指すことだと考えます。ごく小さい分野でもいいので、そのことについては世界で一番詳しくなった、と言えるぐらい一生懸命研究を突き詰めることが重要で、貴重な経験だと思います。
研究以外のことにも興味をもって、自分の幅を広げることは重要だと思います。私の場合、修士課程の1年の頃、朝8時から夜10時まで実験をし、夜中2時まで家事をしつつ経営学や経済学などの勉強をする時間を設けていました。そのインプットは今に活きています。インターンシップも然り。
とにかく、まずは研究者として一生懸命研究することが重要だと思います。それをしっかり戦略的に出来る人は、他の分野に行っても戦力になる人になっているはずなので、目の前の研究を如何に戦略的、効率的に、独創的にやっていくか、ラボの仲間や共同研究者との最適なコミュニケーションはどうあるべきか、突き詰めていけると良いと思います。これらのスキルはどこにいっても通用します。研究に飽きたら、他の分野に切り替えたらいいのです。
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