共同研究に豊かさと課題をもたらす「違い」へのアプローチ

共同研究に豊かさと課題をもたらす「違い」へのアプローチ

今日、世界の科学者たちは広範な規模での共同研究にかつてなく依存しています。その相手は同じ分野の研究者にとどまらず、まったく異なる分野の研究者であることも珍しくありません。進化を続けるソーシャルメディアなどのコミュニケーションプラットフォームによって、学術コミュニティのオンラインネットワーキングと情報共有が促された結果、共同研究はより身近になるとともに、その有効性を高めています。
 

共著論文や国際共同研究による論文数は、とくに学際研究分野において、過去20年間で著しく増加しました。年間200万本以上出版されている論文の4分の1 以上が、2か国以上の研究者によるものです1。急速にグローバル化が進む研究分野では、1996年以降2万1,000本の論文が発表されており、西側諸国を中心とした研究の焦点や発信に変化が見られます2


研究成果を上げるためには、さまざまな組織、研究所、業界と協力する必要があります。たとえば、政府からの助成金が限られている大学では、財源が尽きてしまうことがあります。そのため大学の教員や研究者は、国際研究機関、非政府組織、助成機関などからの助成金を求めることによって財政難に対処しようとします。また、研究対象が一致すれば、これらの組織から資金提供を受けた研究者と協力する道もあります。


共同研究では、さまざまな分野、国、組織に属する研究者、そしてさまざまな助成機関から支援を受けている研究者と共同作業を行います。以下は、一般的な共同研究の5つの形態です。

 

  • 同一組織内でのラボ間のコラボレーション

共同研究のもっとも一般的なタイプで、同じ組織内の2つ以上の研究グループまたは研究室が、同じ目標に向かって作業します。

 

  • 組織間のコラボレーション

: Break Through Cancer財団の資金提供によって最近開始されたプロジェクトには、テキサス大学 MD アンダーソンがんセンター、ダナ・ファーバー癌研究所、ジョンズ・ホプキンス・シドニー・キンメル総合がんセンター、メモリアル・スローン・ケタリングがんセンター、マサチューセッツ工科大学コッホ統合がん研究所の5つのがん研究センターが関与しています。本プロジェクトには、さまざまなタイプのがん患者を治療するための新しい戦略への取り組みに対し、1,000 万ドルが授与されました3,4

 

  • 学際的な研究協力

: サウサンプトン大学(英)、中国科学院、カーティン大学(豪)、香港大学、テュービンゲン大学(独)の研究者たちが、スノーボールアースと呼ばれる極端な気候変動事象の時代に地球上の生命がどのように生き残ったかの解明に取り組みました。さまざまな分野に属している研究者たちの共同作業により、この時代の複雑な生命体の生存が地球の軌道からどのような影響を受けていたかを明らかにすることができました5

 

  • 学術界と産業界の共同研究

: インドの航空会社IndiGo(インディゴ)は、持続可能な航空燃料をインドや世界で製造・配備するために、科学産業研究委員会(CSIR)のインド石油研究所(IIP)と提携しました6,7

 

  • 国際研究協力

: ジェミニ天文台は、ハワイのジェミニ北望遠鏡とチリのジェミニ南望遠鏡で構成される天文台です。1999 年に開始されたこのプロジェクトには、米国、英国、カナダ、チリ、ブラジル、アルゼンチン、オーストラリアの7か国が参加しています。ジェミニ望遠鏡は、北と南の空全体を探索するために設計された光学/赤外線望遠鏡です。


共同研究の課題


異なる組織がチームを組んで国際的なパートナーシップを構築することには、大きな利点があります。さまざまな分野、セクター、文化に属する人々が協力することで、新鮮で多様な視点が生み出されるためです。しかし、研究に豊かさをもたらす「違い」が、次のような課題を生むケースもあります。


文化的課題

  • 言語の壁: 異なる地域の共同研究ではよく見られる課題です。
  • 作業スタイルや慣行のずれ: 勤務形態の違いなどで摩擦が生まれるケースがあります。
  • コミュニケーションの習慣や好みの違い: コミュニケーションの頻度、タイミング、トーン、モードのずれから、誤解につながる可能性があります。
  • 社会構造や慣行の違い: たとえば、特定の国での性差別的慣行が、効果的なコミュニケーションやコラボレーションを阻害する可能性があります。


法的課題

共同研究者が活動している各国の法律の違いを考慮することは大変重要です。国によって、資料やデータの取得/取り扱い、研究対象の扱い、研究の実施に必要な文書や許可の種類/レベルなどに関する法律が異なる場合があります。


セクター間の連携に伴う課題

異なるセクターに属する組織(たとえば営利企業と大学など、とくに民間組織と公的組織)の間では、政治またはイデオロギーに違いが見られる場合があります。そのため、それぞれが主張する優先事項と目的が、研究の実施期間や実施方法についての意見の相違につながるケースがあります。

 


共同研究における課題解決へのアプローチ

 

  • 国際共同研究を行うときは、相手方とよく話し、そのワークスタイルを決定している社会文化的規範を理解した上で、自分たちのワークスタイルをどの程度適応させる必要があるかを理解しましょう。
     
  • 誤解を回避して共同作業をスムーズに進めるために、従うべきコミュニケーションアプローチを一緒に決定しましょう。チームを代表する窓口担当者を決めておくと、言語の違いによる問題を軽減できます。
     
  • プロジェクトのあらゆる側面について、前もって体系的に計画しておきましょう。対立や混乱の芽を摘んでおくためにも、研究方法や個人の役割/責任などの重要な側面については、早い段階で議論して概要を明らかにしておく必要があります。
  • 共同研究に携わるすべての研究者が、関連する国内法や方針、ならびにプロジェクトを支援する関連組織および助成機関のルールや規制を十分に認識していることを確認しましょう。
     
  • プロジェクト中に思いついたアイデア/製品については、著者資格や知的財産権を得るべき立場にあるすべての利害関係者と話し合う必要があります。


共同研究には課題も多いように思えますが、その利点は困難を上回ります。共同研究には、関心があれば誰でもすぐに参加することができます。このことは、新型コロナウイルス感染症のパンデミックに際して機能した、迅速な共同研究が証明しています。


参考資料

  1. Fu, Y.C., Marques, M., Tseng, YH. et al. An evolving international research collaboration network: spatial and thematic developments in co-authored higher education research, 1998–2018. Scientometrics 127, 1403–1429 (2022). https://doi.org/10.1007/s11192-021-04200-w
  2. Kwiek M. The prestige economy of higher education journals: a quantitative approach. High Educ 81, 493–519 (2021). https://doi.org/10.1007/s10734-020-00553-y
  3. MD Anderson receives more than $10 million in grants for cancer research, FOX 26 Digital, April 24 2022, FOX 26 Houstan. Available at: https://www.fox26houston.com/news/md-anderson-recieves-more-than-10-million-in-grants-for-cancer-research
  4. MD Anderson receives over $10 million from Break Through Cancer to support collaborative research with leading cancer centers, MD Anderson News Release April 19 2022, Available at: https://www.mdanderson.org/newsroom/md-anderson-receives-over-10-million-from-break-through-cancer.h00-159538956.html
  5. Mitchell, R.N., Gernon, T.M., Cox, G.M. et al. Orbital forcing of ice sheets during snowball Earth. Nat Commun 12, 4187 (2021). https://doi.org/10.1038/s41467-021-24439-4
  6. Manju V. IndiGo partners with CSIR for sustainable fuel, 2021, Times of India. Available at: https://timesofindia.indiatimes.com/business/india-business/indigo-partners-with-csir-for-sustainable-fuel/articleshow/88168710.cms
  7. IndiGo signs agreement with CSIR-IIP to make sustainable aviation fuel. Press Release, 2021, Council of Scientific and Industrial Research, Available at: https://www.csir.res.in/slider/indigo-signs-agreement-csir-iip-make-sustainable-aviation-fuel
  8. Franktaky. Participating Country Shares, 2021, Gemini Obsevatory, Noir Lab, Available at: https://www.gemini.edu/about/participant-shares

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