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数値と単位の表記によくあるミス5選
数値や物理単位は、工学・物理科学分野の論文では結果セクションのほぼすべての文章に登場するので、論文の内容を読み取って理解するには欠かせないものです。数値と物理単位の表記にミスがあると、データの誤解釈につながる可能性があります。この記事では、科学表記によく見られるミスと、それらを回避する方法を紹介します。
本題に入る前に、まずはいくつかの基本事項を明確にしておきましょう。
数値は、記述の形式やスタイルやそれぞれの役割に基づいて、「序数」、「名目数」、「基数」などと呼ばれます。序数は、出現の位置や順序を表す数値です(例:2nd、thirtieth、51st、hundredth)。名目数は、対象を識別するための名称または番号として使用されます(例:車体番号88、背番号20)。基数は一般的に数値形式で表わされ、”how many~?(いくつ?)”という問いに答えるものです(例:4、eight、13、fifty-seven)。
物理単位は、一定の基準を設けるために、また変換ミスによる誤解を避けるために、標準化されています。国際単位系(SI単位系。俗にメートル法と言う)は、もっとも広く使われている単位系です。CGS(センチメートル、グラム、秒)やFPS(フィート、ポンド、秒)などの単位系もいまだに使われていますが、ほとんどの学術誌ではSI系が採用されています。
物理や工学系の論文では、数字と物理単位の表記に特定のミスが見られます。この記事では、今後の論文執筆でより慎重を期すことができるように、それらのミスを紹介していきたいと思います。
1. 数字表記に関するミス
数字の表記については、ジャーナルやスタイルガイドによって規定が異なる場合があります。10未満の基数は、単位が付属しない限り、英字で表記するよう定められていることがあります(例:nine subjects、9 cm)。また、採用したスタイルに関わらない、標準的慣行もあります。それは、文やタイトルや見出しの先頭に来る数字は、英字で書くというものです。これを避けたい場合は、数字が文頭に来ないように文を組み替えましょう。
誤:14 locations were chosen for the stress measurements.
正:Fourteen locations were chosen for the stress measurements.
正:We chose 14 locations for the stress measurements.(応力測定のために14箇所を選択した。)
このルールの例外は、数字が化合物の名称の一部である場合です。このようなケースでは、化合物に登場する最初の英字を大文字にする必要があります。
誤:2-methyl-1-propanol is often used as a solvent in chemical reactions.
正:2-Methyl-1-propanol is often used as a solvent in chemical reactions.(2-メチル-1-プロパノールは、化学反応の溶媒としてよく使われる。)
2. 数値と単位の間にスペースがない
数値と物理単位の間には、半角スペースを入れる必要があります。このような些細なミスを指摘する査読者はほとんどいませんが、これは簡単に修正できるミスですし、スペースがあることで、論文の全体的な印象を良くすることができます。
誤:First, 10mL of the sample was added to the reaction mixture. A 10% change in temperature was observed.
正:First, 10 mL of the sample was added to the reaction mixture. A 10% change in temperature was observed.(まず、反応混合物に10 mLのサンプルを加えた。その結果、10%の温度変化が確認された。)
ただし、このルールにも例外があります。規定度(normality)を示す単位「N」の後には、スペースは不要です。これは、ニュートン(N)と区別するための措置です。また、もう1つの例外として扱われる可能性があるのは、摂氏温度(°C)です。数値との間にスペースを挿入する必要がある場合もあれば、不要な場合もありますが、これについてはターゲットジャーナルの規定を確認しましょう。
また、パーセンテージ(%)、度(°)、 プライム(′)は単位ではないので、数値との間のスペースは不要です(例:20% increase、an angle of 5°、5′-end)。
3. 非論理的な単位表記
不注意から、明らかなうっかりミスをしてしまうことがあります。このようなミスは、慎重にチェックを行うことで避けましょう。
誤:: The area of the sheet used was 9 × 6 mm2.
正:The dimensions of the sheet used were 9 × 6 mm.(使用したシートの寸法は9 × 6 mmだった。)
この書き方が認められるのは、各寸法の単位が同じ場合のみです。
正:The dimensions of the sheet used were 9 mm × 6 mm.(使用したシートの寸法は9 mm × 6 mmだった。)
正:The area of the sheet used was 54 mm2.(使用したシートの面積は54 mm2だった。)
最初の例文が間違っているのは、「mm2」が総面積の単位だからです。この文章で伝えたいのは、総面積ではなく各境界面の寸法(長さと幅)なので、「mm2」ではなく「mm」を使う必要があります。
もう1つ例を見てみましょう:
誤:: The flow rate was 10 mL-1·min-1.
正:The flow rate was 10 mL·min-1.(流動率は10 mL·min-1だった。)
負の指数は、除算で得られた単位を示す場合に使われます。したがって、「min」に使うのは問題ありません。上の例文の表記だと“10 per mL per minute”と読めてしまいますが、正しくは“10 mL per minute”で、「mL」に負の指数は付きません。このようなミスの大半は、単位表記の誤解から来るものではなく、不注意によるものです。
4. 単位をむやみに開いたり縮めたりする
単位を正式名称で書かなければならない唯一のケースは、文が数字とそれに付随する単位で始まるか、単位そのもので始まる場合です。以下の例文を参考に、このルールの理解を深めましょう。
誤:Nine N-m of torque was applied.
正:Nine newton-meter of torque was applied.
より望ましい:We applied 9 N-m of torque. (9 N-mのトルクを適用した。)
最初の例文は違和感があり、読者を混乱させます。2つ目の例文は正しく、より分かりやすい表記になっていますが、ベストな形は、最後の例文のように、数字と単位を文頭に置かず、文中に配置することです。
誤:The velocity was measured in m/s.
正:The velocity was measured in meters per second.(速度はメートル毎秒で測定された。)
この場合、値ではなく単位にのみ言及しているので、省略形を使うのは誤りです。
5. 単位には「主語と動詞の一致」ルールが適用されない
「主語と動詞の一致」というルールの例外は、たとえ複数で書かれていたとしても、単位は複数形ではなく単数形として扱われなければならないということです。ただし、学術文書以外では、単位にも主語と動詞の一致の基本ルールが適用されることがあります。
例:In order to produce 1 kg of aluminum, approximately 6.25 kg of recycled cans are needed.(1 kgのアルミニウムを生成するには、約6.25 kgのリサイクル缶が必要である。)
「主語と動詞の一致」ルールに従えば、可算名詞である「cans」に続くのは、複数形の動詞「are」になります。しかし、科学文書では物理単位は集合名詞として扱われるため、通常のルールは適用されません。したがって、省略形か正式名称かに関わらず(例:mg/milligrams)、単位に続く動詞は「are」や「were」ではなく、「is」や「was」になります。
したがって、科学文書における正しい表記は以下のようになります:
例:In order to produce 1 kg of aluminum, approximately 6.25 kg of recycled cans is needed.
別の例文も紹介します:
誤:In this experiment, 2 mg of the extract were dissolved in 20 mL of water.
正:In this experiment, 2 mg of the extract was dissolved in 20 mL of water.(この実験では、20 mLの水に2 mgの抽出物を溶解した。)
この例文の「2 mg」は「two milligrams」と読みますが、続く動詞は、単数形の「was」になります。
ここまで、研究者がよくするミスを紹介してきました。これらのミスを避けられるように、細心の注意を払いましょう。ここからは、文体に関するガイドラインを紹介します:
- 数値範囲の示し方:数値の範囲を示すには、通常、エンダッシュ記号(–)を用います。数値とダッシュの間のスペースは不要です(例:5–8 days、10–15 mL、40%–45%)。
- 数値表記に使える句読点:明確なルールがあるわけではありませんが、一部のジャーナルやスタイルマニュアルは、数値表記に小数点以外の句読点を使うことを認めていません。つまり、大きな数値については、3桁ごとにカンマで区切るのではなく、スペースで区切ることが推奨されている場合があります(例:1,200,345.67ではなく、1 200 345.67)。これは、大きな数値を、カンマで区切られた複数の数字と読み違えるのを避けるためです。
- 大文字と小文字の区別:単位を使う場合は、非論理的で誤った表記を避けるために、必ず正確な表記を確認しましょう。たとえば、小文字の「k」は「kilo」の接頭辞ですが、大文字の「K」は「kelvin」という単位を表す文字です。
- 人名由来の単位のスペリング:人名が由来の単位をスペルアウトする場合は、必ず小文字で書きます。ただし、記号の場合は大文字で表し、常に単数形で使います(例:ampere/A、kelvin/K、weber/Wb、newton/N)。
- 複合単位の表記:多くのジャーナルが、単位の表記について特定の形式を定めています。複合単位は、分数形式(斜線記号「/」、例:mL/min, kg/s)か、指数形式(例:mL‧min-1, kg‧s-1)で表します。複数の単位を使う場合は、ミスを避けるために、正確な表記を調べるかカッコを使うようにしましょう(例:”watt per meter per second”は、”W/m/s”ではなく”W/(m/s”)または”W‧m-1‧s-1”)。
この記事で紹介したよくあるミスを参考にして、できる限り明瞭なデータを示せるようにしましょう。また、数値や物理単位の表記については、分野の慣例やターゲットジャーナルのガイドラインに従うようにしましょう。
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