フリーランス科学者の台頭

フリーランス科学者の台頭

これまでフリーランスと言えば、ソフトウェア開発者、ライター、イラストレーター、デザイナーなどの特殊な職種における働き方であるという認識が一般的でした。しかし近年では、これら以外の高度なスキルや知識を持つ人もフリーランスとして働き始めており、科学者もオンデマンドで雇うことができるようになってきています。


経済環境におけるこの「ウーバライゼーション(従来の常識を覆すようなビジネスモデルを導入して既存のビジネスを破壊し、業界に革新をもたらすこと)」は、博士号取得者にとって喜ばしい変化です。

Atlantic誌は2014年に、博士号取得者の約40%が無職であると報告しています。その人数を正確に把握することは困難ですが、英米の博士号取得者のうち、アカデミックなキャリアを歩めるのは半数以下であるとされており、大半の人は別の道を歩まざるを得ません。さらに、アカデミック職であっても、雇用保障や給与の面で条件が悪く、終身雇用の職に就ける可能性もきわめて低いのが現状です。


そんな中、ギグエコノミー(インターネット経由での単発または短期の請負労働で成り立つ経済形態)は、研究者、とくに若手研究者に職の機会を提供しています。博士号取得者は、フリーランサーやコンサルタントとして、自分たちのスキルを必要とする企業にサービスを提供する術を得たのです。より良いワークライフバランスが確保できる、興味のあるプロジェクトを自分で選べる、独立研究者としてのフレキシビリティを確保できる、などの理由でフリーランスに転身する研究者は、増加の一途をたどっています。簡単に言えば、研究者は「学術界を去っても研究を続けられる」ようになったということです。また、フリーランスやリモートワーキングには、居住地という、従来ならばキャリアを切り開く上で重要だった要素を考慮する必要がないというメリットもあります。


科学者向けのフリーランサー向けプラットフォーム「Kolabtree」のデータによると、バイオテクノロジーから天体物理学まで、幅広い分野の博士号取得者たちが、フリーランスに転身したり、副業としてフリーランスの仕事を受ける意思を持っているようです。Kolabtreeの登録者は、2018年時点では4000人でしたが、現在は9000人以上にまで増え、フリーランス革命の影響が科学者の間にも広がっていることが分かります。多くの研究者が、サイエンティフィック・ライティングや統計分析など、研究の過程で身に付けたスキルを売り込むことができるようになっているのです。9000人超の専門家を擁するKolabtreeでは、専門家によるサービスを手軽に単発で提供することができ、さまざまなクライアント(大半は中小企業)の要望を満たしています。


フリーランスの専門家は、新興企業や中小企業に計り知れない価値を与えることができます。企業は、変化し続ける消費者ニーズやデータサイエンス革命に遅れを取らないよう、変革を続けなければなりません。そして、変革のためには、各分野の専門家の知識やスキルが必要になります。これまでは、たとえば製品の認証や導入に必要な科学コミュニケーションを進めるために、メディカルライターを雇う必要がありました。あるいは、臨床試験を実施するために、小規模な研究機関に委託する必要がありました。今は、フリーランスの生物統計学者を1人雇って、研究のデザインや結果の解釈を任せることができるのです。


博士号は、企業内の仕事においては過剰な資格であるという考え方が一般的ですが、それは一面的な見方に過ぎません。企業は、博士号取得者のスキルから多大な利益を得ることができます。そのためには、博士号取得者に気軽にアクセスできることが必要です。また、研究者は実社会に貢献できる機会を求めています。したがって、研究者と企業を結び付けることで、両者にとってウィンウィンな状況が生まれるのです。


Science誌の報告によると、科学および工学分野の博士号取得者の民間企業への就職件数(42%)が、史上初めて、教育機関への就職件数(43%)と並びました。これまで、博士号取得者は大学で研究職や教職に就くのが一般的でしたが、現在はその傾向に変化が見られ、非アカデミックな職に就いてより良いキャリアを構築する科学者も生まれているのです。Nature誌の記事では、フォーチュン誌が選定した全米上位500社にリストされている企業を相手に、コンサルタントとして成功した博士号取得者の体験談が紹介されています。


フォーブス誌は、「より多くの研究機関が、ビジネスという枠を超えて、重要プロジェクトを完遂するためにフリーランサーを活用することのメリットに目を向けるようになっている」と報告しています。フリーランスという働き方は、今や研究者にとって、個人で仕事をしたり、本業の傍ら単発のプロジェクトに参加したりするための新たな機会となっています。また、世界中の研究者の専門性に容易にアクセスできるまたとない機会を、個人や組織に提供しています。

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