査読者になること自体が1つの功績なのか?

査読者になること自体が1つの功績なのか?

査読は学術出版の要です。査読は、取って代わるもののない、研究評価のゴールドスタンダードだというのが大方の研究者の見方です。優れた科学論文の陰には、査読によるフィードバックがあることも珍しくありません。査読業務は、研究者が普段の仕事とは別に任意で行うものです。それにもかかわらず、所属先の研究所長や機関が、この科学への貢献を認め、奨励することはまずありません。査読者は査読によって金銭的報酬を得ることもなく、完全に無償の奉仕活動として行なっています。査読に関する最近の議論は主に、査読業務への動機づけ、査読者への感謝、査読という貢献を認めることなどを前提に行われています。ここで、ある疑問が浮かびます。査読者になること自体が、1つの功績なのでしょうか?査読者の貢献を、より具体的な形で認めるべきなのでしょうか?


ジャーナル編集者は、分野の専門知識を考慮して査読者を選びます。ですから、査読者は専門家であり、著名ジャーナルに査読者として関わることは、研究者にとって名誉なことです。つまり、査読を依頼されるということは、専門家として認められることと同義であり、研究の専門家として前進していくために重要なことなのです。このような信望のために査読者になりたいと考えている研究者も大勢います。査読に対するグローバルな視点を考察するために、テイラー&フランシス社は、7438人(論文著者、査読者、編集者を含む)を対象に調査を実施しました。調査結果によると、著者の3分の2以上は査読を依頼された経験がないものの、依頼があればぜひ受けたいと回答しています。


でも、なぜ研究者は学術誌の査読をしなければならないのでしょうか。査読を行う動機として、研究コミュニティの一員になれること、最新の研究をいち早く知ることができること、スキルを高めて知識を拡張できることなどが挙げられます。調査結果からは、20~29才の年齢層の著者は、査読者になれば自分の評価が上がってキャリアアップにつながると考えていることも分かりました。これは、ほとんどの研究者、とくに若い研究者が、査読はやりがいがあり、世界で認知されるための方法の1つだと考えているということです。

論文執筆や論文出版に関するご質問はありませんか?

質問する

多くの若手研究者が査読者になる機会を待っているにも関わらず、ジャーナル編集者は、期限内に進んで仕事を果たしてくれる査読者を見つけるのに苦労しているとよくこぼしています。ジャーナル編集者はたいてい、信頼できる査読者をすでに確保しているので、新たな査読候補者となる研究者を探したがらないのかもしれません。あるいは、新しい査読者を探す時間がないのかもしれません。しかし、査読プロセスをより円滑にするためには、編集者は査読者グループを広げる努力をしなければなりません。ジャーナル編集者が若手研究者(学術界というシステム内にいる、年を取りすぎていない優秀な研究者)を査読者として考慮するかどうかは分かりませんが、経験豊富な研究者(査読依頼を拒否したがるような)が査読を依頼されている一方、貢献したいと思っている若手研究者が無視されているのが現状のようです。査読・出版サービスを提供するPeerage of Scienceの共同創設者/マネージングディレクターのヤンネ-ツオマス・セッパネン(Janne-Tuomas Seppänen)氏は、「ジャーナル編集者の中には、ベテラン研究者よりもポスドク研究者に査読を依頼したいと(非公式に)言っている人もいる」と述べています。査読者になることは研究者として認知されることと同義だという見方を支持しているセッパネン氏は、査読者になるということはCV(履歴書)の価値を高め、将来的に研究資金や仕事を獲得する上で助けとなることを若手研究者も分かっていると述べています。そのためか、若手研究者は査読依頼を断らず、期限内に査読を行い、仕事もきっちり行う傾向があります。


査読は、自分に知識と洞察が備わっていることを示す、研究者としての中心的任務の1つです。専門分野ですでに地位を築き上げた研究者と知り合いになれることもあり、自分の存在感をグローバルに高めることにもつながります。したがって、ジャーナルや出版社は、若く才能ある人物に査読を依頼することを考慮すべきでしょう。査読業務への動機づけが必要だという考え方から、Multidisciplinary Digital Publishing Institute(MDPI)やネイチャー・パブリッシング・グループなどの出版社では、さまざまな方法で査読者を勧誘しています。例えば、感謝状の発行、出版費用の割引、ジャーナル上で公に謝辞を述べるなどの方法です。また、Publonsなどのオンライン・プラットフォームと協力して、査読を公に記録することも行われています。研究者は、査読という仕事に対して感謝以上のものを求めているのかもしれませんが、感謝の意を示されることは、査読依頼を引き受けるためのよい動機となっています。学術界で成功の階段を上っていくのは容易なことではありません。査読者になることは、自分の存在感、信頼、評価を高めていく方法の1つなのです。 


おすすめの記事:

 査読初心者へのアドバイス(シリーズ記事)

The peer review process: challenges and progress

査読:報われない仕事か、学術界の義務か?

学術界でキャリアを積み、出版の旅を歩もうとしている皆様をサポートします!

無制限にアクセスしましょう!登録を行なって、すべてのリソースと活気あふれる研究コミュニティに自由に参加しましょう。

ソーシャルアカウントを使ってワンクリックでサインイン

5万4300人の研究者がここから登録しました。