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マスコミかジャーナルか―科学を歪曲しているのは誰?
一般市民が描く科学のイメージを作っているのは誰でしょうか?それは、言うまでもなくマスコミでしょう。マスコミは、科学のイメージを歪曲しているとしてたびたび非難されてきました。スコット・アダムス(Scott Adams)氏が昨年書いたブログ記事、「科学の最大の失敗(“Science’s Biggest Fail”)」は、科学コミュニティから大きな注目を集めました。その内容は、科学を信頼しがたい理由について詳しく説明したものです。とくに議論の的になった主張は、科学が「マスコミ界でサルを放し飼いにしている」ために、マスコミが科学への不信拡大に大きな影響を与えている、というものでした。科学が歪曲される原因は唯一マスコミにあるというのが一般に受け入れられている見方であり、これはある程度まで真実だと言えるでしょう。一般市民による科学の理解は大手メディアに依存しており、人目を引くようなヘッドライン(見出し)を探しているジャーナリストは、研究結果を単純化してセンセーショナルに書き立てることもあります。しかし、悪質なジャーナリズムだけが科学の歪曲や不信の原因なのでしょうか?
最近発表された研究「高インパクトの医学誌における無作為の観察的研究に関するマスコミ報道、ジャーナル・プレスリリース、および論説:コホート研究(Media Coverage, Journal Press Releases and Editorials Associated with Randomized and Observational Studies in High-Impact Medical Journals: A Cohort Study)」は、ジャーナルもマスコミと同様に、あるいはそれ以上に、科学の情報伝達の偏りに責任を負っているという興味深い事実を明らかにしています。論文著者は、インパクトファクターの高い医学ジャーナル7誌のプレスリリースを分析し、ランダム化比較試験(RCT)よりも観察研究が好まれる傾向が見られたと報告しています。プレスリリースに取り上げられる割合は、観察研究が50%であるのに対し、RCTはたった17%でした。RCTは治験のゴールドスタンダードとされ、最も信頼性が高いとされている一方、観察研究の結果は再現性が低いため、これは気がかりな結果です。観察研究は興味をひきやすい前向きな研究結果であることが多いため、注目を集めやすく、ジャーナル編集者もマスコミに報道してもらいたがります。その上、これらのプレスリリースでは、読者に対して研究の限界に関する注意を促していないのです。
このような傾向は、一般市民の科学の見方だけでなく、科学そのものにも悪影響を及ぼします。上記論文の著者らが指摘するように、ジャーナルのプレスリリースは「その後のニュースの内容にも影響を与える」からです。マスコミは、プレスリリースを正しい情報の源と考えるのが普通です。研究の限界に関する知識がなければ、一般社会に誤った情報が伝わってしまい、人々の信念や行動に影響を及ぼします。この傾向のより深刻な側面として、著者らは、「観察研究の報道が優先されることで、人々が健康習慣を形成する上で不適切な影響を与え、臨床で重大な影響が出る可能性がある」という事実についても指摘しています。ジャーナル編集者は、主に医療分野において、科学の進歩によって社会が正しい方向に向かうように、研究結果を正確に伝達することの重要性を認識する必要があります。一般市民の信頼を得るための第一歩は、透明性を維持することです。
マスコミやジャーナルだけでなく、研究者自身も、一般市民や同僚に誤った情報を伝えるという過ちを犯すことがあります。研究資金や終身在職権(テニュア)のある仕事、激しい昇進競争などにあおられ、時期尚早にもかかわらず、マスコミに研究結果を公表することもあります。その結果、怪しげな知識が拡散することになります。科学に対する一般の見方は、医療政策や科学技術への投資にも影響を及ぼします。科学コミュニティは、知識が上から下に伝達される構造の中で、科学知識を適切に広めるための自分たちの役割について再考する必要があるでしょう。マスコミは、科学コミュニティと一般市民の媒介者でしかありません。責任ある科学コミュニケーションこそ、良識ある科学ジャーナリズム発展の第一歩と言えます。
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