現代の研究界が直面するもっとも厄介な問題とは?

現代の研究界が直面するもっとも厄介な問題とは?

学術出版界が抱える、科学の公正性を脅かすような問題は?と聞かれたら、詐欺や盗用などの非倫理的な出版行為と答える人が多いはずです。しかし、レクス・バウター(Lex Bouter)氏(アムステルダム自由大学医療センター疫学・生物統計学科)率いるオランダの研究チームが、国際研究公正会議に参加した1353名を対象にアンケート調査を行なったところ、予想外の回答が得られました。アンケートでは、60件に昇る不正行為について、その発生頻度、防止可能性、真理への影響および科学者同士の信頼への影響を基に評価を行いました。その結果、ほとんどの研究者が、今日の研究が直面する主な不正行為として、選択的報告、選択的引用、ずさんな方法論を挙げたのです。


学術界における不正行為は主要メディアでも取り上げられ、一般にも広く伝えられています。その最たる例が、STAP細胞に関する不祥事でしょう。それに引き換え、より頻度が高く有害な不正行為である選択的報告や方法論の問題は、報道価値がないために注目を集めにくく、論文の取り下げや制度・法的な動きに繋がりにくいのが現状です。言うまでもなく、これらは科学に対する有害行為であり、再現不可能な結果や、無用な再現実験、誤った科学文献に繋がるものです。


研究者がこのような行為に走ってしまう理由は何でしょうか?学術界の競争が熾烈であることは良く知られており、画期的な論文を出版してキャリアを開拓しようとする多くの研究者が、非凡な結果を急ピッチで次々に出そうと努めています。しかし、ネガティブな研究結果が出た場合、その発表を取りやめるか、一部だけを発表するかという選択を迫られます。選択的報告の問題をさらに増幅させている要因は、ネガティブな研究結果を含む論文は被引用回数が伸びにくいため、それらを積極的にアクセプトするジャーナルが少ないということです。そのため、ポジティブな結果に関する論文ばかりが増え、大多数のネガティブな結果は棚上げされてしまいます。出版競争に関連する別の問題として、研究者が、データや生物材料の取り扱い・管理、品質保証の基本的原則の確認など、研究の重要な側面を軽視しがちであるということがあります。こういったことは最終的に、信頼性に乏しい結果を招きます。


出版論文数を増やすという目先の目標に囚われてしまい、質の低い研究を発表し続けることによる長期的代償を顧みない研究者をときどき見かけます。出版至上主義が行き着く先は、科学の敗北です。調査を行なったバウター氏らは、現在の出版環境について次のように的確に総括しています。「今回の調査で浮かび上がってきたのは、大規模な不正行為についての問題ではなく、よりポジティブかつ華々しい結果を求める多くの科学者が、安易な方法でずさんな科学に手を染めているという深刻な問題です」。現代の科学が抱える問題に対処するには、研究者、編集者、助成団体が一丸となり、すべての科学論文をバイアス抜きで出版し、研究の質向上に努めること以外にないでしょう。


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