「この論文が正しいなら、現在の経済学は成り立たない」
「If this is correct, economics would be different(この論文が正しいなら、現在の経済学は成り立たない)」。この言葉は、Journal of Political Economy(1970年頃)の編集者が、ジョージ・アカロフ(George Akerlof)氏に宛てたリジェクト通知の冒頭に書かれていました。マサチューセッツ工科大学で博士号を取得したばかりだったアカロフ氏は、学術出版の現実を早くも思い知らされることになったのです。「The Market for Lemons(レモン市場)」と題した同氏の論文は、それ以前にも、考察が「平凡」であるとして、経済学のトップジャーナル2誌(American Economic Review、Review of Economic Studies)にリジェクトされていました。
学術出版の最前線で戦っている人々にとって、このようなフィードバック(さらなる酷評も多い)は、日常茶飯事です。しかしアカロフ氏は、「中古車販売に関するありふれた議論をしているにすぎない」という査読者の判定は正しいものだと、潔く認めたのです。結局、論文はQuarterly Journal of Economicsで出版され、「売り手は買い手よりも多くの情報を持っている」というごくシンプルな問題(情報の非対称性)を論じたことで、2001年のノーベル経済学賞を受賞しました。
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