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抗生物質は最後まで使い切らなくてもいい?
「処方された抗生物質はすべて使い切らなければならない」という説は、数十年間に渡って医学界の常識でした。医師は、「抗生物質の服用を途中でやめると細菌に耐性ができるリスクが増加する」、と患者に警告してきました。しかし、最近の研究で、この定説が根拠に乏しいこと、服用継続はメリットよりもデメリットの方が多いこと、感染症の治療にはより短期的な抗生物質の服用でも十分効果があることが結論付けられています。
ブライトン・アンド・サセックス・メディカルスクールの感染症学教授、マーティン・レウェリン(Martin Llewelyn)氏は、BMJ誌で発表した「 The antibiotic course has had its day(抗生剤による長期治療はもう古い)」という論文で、症状が良くなっても抗生物質の服用を続けなければならない従来の治療法は時代遅れであると指摘し、抗生物質への反応が患者によって異なることや、服用期間に個人差があることへの無配慮を問題視しています。また、抗生物質は、後々になって悪影響を及ぼすかもしれない危険な菌株が皮膚や腸に繁殖することを促し、服用期間が長いほど菌の耐性は高まると主張しています。イギリスでは、抗生物質耐性菌が原因で少なくとも年間1万2000人が命を落としています。このため、同研究チームは、さらなる研究の必要性と、患者一人一人に適した抗生剤の処方を医師が行うことの重要性を説いています。
現状、英国民保険サービスとWHO(世界保健機構)は、従来の治療法を順守し、処方された抗生物質は最後まで飲み切ることを推奨しています。レウェリン氏は、このアプローチは過少治療への恐怖に起因しており、過剰治療のリスクを軽視していると指摘しています。過少治療への恐怖は、ノーベル賞受賞者のアレクサンダー・フレミングが、ペニシリンの投与量が不十分だと細菌がペニシリンへの耐性を得ることを発見したことが発端となっています。
レウェリン氏は、抗生物質の使用を減らすことで抗生物質耐性の問題を解決できると主張していますが、これには懐疑的な見方も多く、専門家はこの研究を一般社会にどのように説明すべきか頭を悩ませています。抗生物質の服用期間についてはさらなる研究が必要ですが、少なくとも現時点では、症状が改善した段階で服用を中止しても問題ないと患者に伝えても、差し支えなさそうです。今後は、臨床試験による抗生物質の最適服用期間・服用量の特定が期待されます。
doi: https://doi.org/10.1136/bmj.j3418
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