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研究の生態系(エコシステム)変革のビジョン
ローレル・L・ハーク博士はORCID(一つの永続的な個人識別子の登録を通じて、地域・分野をこえ研究と研究者を結ぶ活動をしている非営利団体)のエグゼクティヴ・ディレクターです。スタンフォード・メディカル・スクールを卒業し、生物学の学士号と修士号を取得した後、1997年神経科学の博士号を取得されました。アメリカ国立衛生研究所(NIH)での研究を経た後、Science's Next Wave(現在のScience Careers)でエディターを、Postdoc Networkではマネージャーを勤めました。全米アカデミーでは科学工学公共政策委員会科学工学公共政策委員会で担当者を継続して勤めています。その後、She then held the position of Chief Science Officer for ディスカバリー・ロジック社(後にトムソン・ロイター社によって買収)の研究開発チーフに就き、研究方針に関する助言をされたり、研究評価システムの開発の管理に従事されました。ORCIDに入られたのは2012年のことです。
高度な訓練を受けた神経科学者でいらっしゃいますね。公共政策、研究評価、システム開発の分野へと転身されたのは何がきっかけですか?
冒険したのです。振り返ってみると、これで良かったと思います。ただ、生物医学のポスドク研究員として机に向かうだけではない仕事をしようと決めたことは、期待される規範との重大な決別でした。書くことが本当に楽しく、難しい課題も好きです。考えたアイデアを現実にしたいと思っています。こういうこと全部(それと、長い時間一つの場所にとどまるということで苦労してきたということも含めて)が私を、新しいことへの挑戦に駆り立て、「進化」と言われるようなキャリアを切り開かせてきたのです。
挑戦と変化という生き方によってORCIDへ導かれたのですね。ORCIDが目的として掲げている「研究の生態系の変革」について教えてください。ORCIDのことをまだよく知らない人に、大まかな説明をしていただけませんでしょうか?
現時点では、研究者や学者は主に、査読付きジャーナルへの投稿によって認知されています。その場合でも、発表された文献の中での氏名の書かれ方が多様であるために、うまく認知されていない人が多くいらっしゃいます。他にも同じ名前の人が大勢いる場合、別の言語に書き直されたり綴りを間違えられたりした場合、研究歴の中で氏名が変わる場合などです。こうした多様性、もしくはあいまいさがあるので、一つの研究タイプ、つまりジャーナルの論文だけに焦点をあてている場合でも、一人の研究者の研究全体を正確に特定するのが難しくなるのです。その上、査読、特許、指導教育(メントーリング)など、実際のところ貢献者にリンクできないため引用どころかシェアもできない貢献を、研究者はたくさん行っています。ORCIDならこの状況を変えられます。研究者一人に一つの永続的な個人識別子を提供し、その研究者の氏名がどんな形であってもすべて互いに結びつけるだけでなく、その研究者と多様な仕事に強い結びつきを作っている、研究の流れ(助成金申請書、学会の会員であること、大会の演題応募など)の中に研究者の氏名を組み込みます。研究者、研究、学術的な貢献を結びつけ引用できるようにするため、研究者個人の仕事がよく理解できます。また、知識生産について私たちのものの見方を変えてくれますし、研究活動や学術的な活動を何のために、またどのように実施、認識し、報奨を得るかという動機も変える可能性もあります。
ORCIDの立ち上げと持続可能性が主として組織のサポートによっているのに、ORCIDを 「研究者駆動の取り組み」(“researcher-driven initiative”)と考えてらっしゃるのはなぜですか?
研究者や学者の指導的役割がなくては、学術的な記録のあいまいさは解消されないでしょう。ORCID設立の根底にはこうした根本的な事実があります。研究者が関与し、ORCIDのiDを登録しなければならないのです。自分の識別子に何を結びつけと、そしてそれをORCIDレジストリ(訳注:研究者情報を蓄積するデータベースのこと)でどのように表示し共有にするかは、研究者自身が管理するというのが、ORCIDの重要な原則です。
尺度と特性には相互に関わりあう性質があることを前提として、尺度に関するどのような懸念があなたのもとに届いていますか?
2つのテーマについて異なる考えを聞いたことがあります。つまり、データの質という問題により、測定は正確なものではないということと、研究の貢献の深さは尺度では測れないということです。組織、論文、データセット、その他の仕事に対する永続識別子を合わせて、ORCIDの識別子を組み入れることで、これら二つのポイントに対処できます。
尺度よりも研究の内容の方が常に重要ですが、にもかかわらず、尺度、永続識別子、特性の領域での最近の発展が、多くの面で関心を集めています。ORCID が学術的な尺度にどんな影響を与えているか、また与えたと思われるか、お話し下さい。
ORCIDの識別子は、出版に関する統計を導き出すプラットフォーム、つまりScopusやWeb of Scienceに取り入れられています。また、オルトメトリック、Impact Story、PLOSによる論文レベルの尺度といった、代替的尺度を高速で処理するツールにも取り入れられています。
大まかに言って一年で、50万人以上がORCIDの識別子に登録し、分野や部門を越え、世界中で120の団体がメンバーになっています。こうした発展をORCIDの目標と比べてどうご覧になりますか?
私たちの見積もりでは、現役の研究者と学者は世界に約1,100万人います。最初の1年間で登録者数50万人が目標でしたが、達成できました!登録者数上位5カ国はアメリカ、中国、ポルトガル、インド、イギリスです。 とはいえ、1万人のユーザーがいる国は40カ国以上ですし、200以上の国と地域にユーザーがいます。今後も研究者との直接契約を続け、ORCID識別子をより多くの出版社、資金提供者、大学の、研究プロセス・研究システムへ組み込む支援をすることで、2014年には登録者が3倍になるよう努めています。 ORCIDが持続できるかどうかについては会員数が決定的になります。今年は会員数と組込数を2倍に、2015年にはさらに2倍になるよう努力しています。
(写真のキャプション アメリカ物理学会(APS)でのORCID。APSの職員2名が配布を手伝っている。左端にいるAPSの編集主任がID登録をし、自分の論文とリンクづけをしているところである)
ORCIDは研究者を特定するツールとして、イギリスの高等教育ネットワークから承認されていますね。他の国も同じように、ORCIDをその国の制度にすることに関心を示しています。ORCIDの導入はどのように計画され、実現されるにはどんな作業がされるのでしょうか?
国レベルでの採用は、デンマーク、 ポルトガル、スェーデン、イギリス 団体が推奨しており、その他の国でも協議されています。イギリスでは、 JISC(訳注:英国情報システム合同委員会The Joint Information Systems Committee) とARMA(訳注:リサーチ・マネージャーおよびアドミニストレーター協会Association of Research Managers and Administrators)が、ORCID識別子を国家的に導入する実践モデルとしてパイロット・プロジェクトを行うことを発表したばかりです。私たちの方は、ORCID識別子をシステムで使用しシステムに組み込むために協力している団体のサポートを目的とした、ツールと手続きを開発しているところです。コミュニティでのORCID識別子使用をサポートするため、コンソーシアムメンバーに対し、契約や割引、アウトリーチの文書や技術文書、API、インテグレーションの例、検索サイト、サンプルとなるソフトウェア・コードを提供しています。会員に対しては、一対一の技術的サポートも提供しています。例えばORCID識別子と、その他の個人識別子、文書の識別子、団体の識別子とをリンクできるようにするなど、永続識別子の分野での様々な取り組みを調整することにも尽力しています。国際的な団体として、技術的レディネスが様々である広い範囲の団体と協力しています。現時点では、ORCID識別子の導入は、データベース、XML、APIについての専門知識を持つ技術スタッフがいるかどうかによって決まります。技術的サポートが限られている団体であってもORCIDに参加できるようなツールを作ろうと考えています。もし、皆さんの団体でツールが役に立つだろうと思われたら、お知らせください。国への導入は、一元管理されたインフラと技術サポートを提供することで、ORCID導入の合理化に役立つ可能性があります。使用事例の中には、大学やその他高等教育機関による導入があり、内部リポジトリ管理、卒業生の確認と追跡、資金提供者への研究結果報告をサポートし、一般的な、組織内外のリサーチシステムとの間での相互運用可能なデータのやりとりを可能にしています。「一度加入したら何度でも使える」ので、データ入力の時間を節約でき、データの質が向上します。それにより、研究知見が見つけ出されやすくなり、研究者は、研究や学術的活動に従事する時間をより多く残せるようになります。
欧米では気運が上がっていますが、その他の地域で意識を高めるためにどんな計画を立てていますか?
ORCIDは国際的に利用され、世界中に会員がいます。ORCIDレジストリを簡単にするため、ORCIDレジストリと内容をいくつかの言語で提供したり、ORCID 大使 やORCIDの会員であるエディテージのような団体と協力し、ORCIDについての情報を直接研究者に提供しています。 半年ごとのアウトリーチ会議 を様々な地域で開催し、研究者や団体と関わっています。今年はシカゴと東京で開催されます。今後の会議はスペイン、ブラジル、カナダで開催予定です。もし開催をご希望の場合はこちらまでご連絡ください!加えて、オンラインセミナーも行っていますし、学会の会議への参加や、地方での説明会も行い、ブログやショーシャルメディアの場を通じて新機能や新しいインテグレーションについて情報を発信しています。
コードフェスト(Codefests)と ハッカソン(hackathons)!シカゴで開催される次の アウトリーチ・コードフェスト・ミーティング (2014年5月21-24日) もその一つなのですね。ミーティングのコンセプトを、好奇心はあるけれどあまり詳しくない専門外の人にもわかる言葉で説明していただけませんか?
アウトリーチ・ミーティングとコードフェストは、ORCIDのスタッフと直接話ができ、リサーチコミュニティにとっては仲間の研究者と会ったり、インテグレーションのプランについて議論ができるよい機会です。5月のミーティングでは Sloan-funded Adoption and Integration program の受賞者にハイライトをあてるつもりです。ORCID識別子をリポジトリ、学部の情報システム、学位論文までのワークフロー、会員システム、統合されたアクセス管理のワークフローへとインテグレートしている大学や専門家の協会が、それです。私たちはコードフェストも開催しています。そこでの目的は、ORCIDインテグレーション・プロジェクトで働いているソフトの開発者を集め、ORCIDのテクニカルチームと直接話す機会を設け、高カロリーの食べ物を提供したり、(仲間の投票による)賞を授与したりすることです。緊密になり協力することで、トラブルの迅速な解決と発展が可能になり、プロジェクトも面白くなります。2013年のコードフェスト では、参加者がマップにORCIDレジストリの活動を付け加えるアプリを作ったり、コードライブラリを確立したり、ORCIDレコードデータをリンクトデータ表示にするためRDFサポートを実装したりしました。
何かユーザー向けの新機能がありましたら教えていただけませんか? ユーザーとしてORCIDの展開に遅れずついていくための最善の策は何でしょうか。
この3カ月で、私たちはORCIDのIDと所属組織や獲得助成金とをリンクさせるアビリティを発表しました。さらに、自分のアカウントを管理するため代理人を任命できたり、発表した研究の情報をジャーナルや基金から自分のORCIDレコードへと「往復」させるようなユーザーのメッセージング・システムを実行したりする、新しい機能を発表する予定になっています。また、ORCIDレコード内の情報を会員が認証できるアビリティもできる予定です。ORCIDレジストリのユーザーの要望に答え、実行できるようにした機能もいくつかありました。ぜひORCIDの iDeas フォーラムに入りアイデアを投稿してください。ツイッター@ORCID_Org をフォローしたり、ニュースレターを定期購読していただければ、ORCIDの活動の最新情報をお届けできます。
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