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ESL著者からの助言:優れた論文とは?
ベルギーの天文学者クリスチャン・ステルケン(Christiaan Sterken)氏は、数学の修士号(ヘント大学)、天文学の博士号(ブリュッセル大学)、リハビリテーション学位(リエージュ大学)を持ち、ブリュッセル大学物理学科の客員教授で、現在、自然科学史を教えています。2006年から2007年までブリュッセル大学で歴史科学のサートン講座を担当し、2014年にはニュージーランドのクライストチャーチにあるカンタベリー大学でアースキンフェローをしていました。ベルギー科学研究基金の名誉研究部長でもあります。
200以上の科学論文を執筆し、それらは非常によく引用されています(Scopusによる)。モノグラフ2点も執筆し、編集・共編書は約2ダースあり、編集の豊富な経験がおありです。また、Information Bulletin for Variable Stars の編集委員会の創設者で1991年から1997年まで会長を務めました。 the Scientific Writing for Young Astronomers School (2008)を創刊したのも博士です。また、Astronomy and Astrophysics の理事会の副理事長もされていました。博士は、オープンアクセスでオンラインの天文学ジャーナルであるThe Journal of Astronomical Dataの共同設立者であるとともにエディターをされています。現在は、the European Association of Science Editors (EASE) Councilの会員です。母語はオランダ語ですが、英語、フランス語、ドイツ語、スペイン語に長けてらっしゃいます。
どのような経緯でthe Scientific Writing for Young Astronomers Schoolの編成に至ったのですか?こうした課程の必要性を感じたのか教えてください。
2005年に博士課程の学生向けワークショップの予稿集の共編者になったとき、出来のよくない投稿論文がいくつかあったことに愕然とし、Advice on Writing a Scientific Paperというショートペーパー(short paper)を出しました。このショートペーパーは学生たちから、学会で「一番役に立つ論文」に選ばれました。このことをきっかけに、scientific writing schoolsのシリーズ1と2の編成にいたったわけです。
20年を超えるエディターとしての経験と、常に質の高い論文をお書きになる著者としての経験(38年前の博士論文(Light variations of extreme galactic B- and A supergiants)は今でも引用されていますね)を踏まえ、優れた論文とはどんな論文だと思われるか教えてください。つまり、論文に価値をもたせるのは何ですか?
優れた論文とは第一に、新しい(だからそれまで発表されてないのですが)結果を示すものなければなりませんし、うまく書かれていなければなりません。つまり、流暢な語り口で、簡潔であると同時に完全であり、図やグラフの出来が良く、他の研究者の研究を正確に引用している論文です。誤字脱字があったのではよい論文と言えないのは言うまでもありません。
ご存じの通り、科学の世界では研究者は、論文を発表するというプレッシャーを常に受けています。博士はいくつか国際的なジャーナルの編集委員会に在籍しています。日々直面されているプレッシャーや懸念事項に関し、エディターとしての見解を聞かせてください。
一番のプレッシャーは時間に関するものです。著者は受諾されると一刻も早く論文を掲載されるのを望みます。しかし、掲載に至るプロセスのそれぞれの段階で、時間がかかります。査読者の決定、審査者からの報告書のチェック、修正論文の確認、必要に応じ2回目の審査の設定をするなど。
査読プロセスは学術出版の要の一つです。私たちの多くは、このシステムがどう機能しているか知っていますが、エディターとして、博士が扱わなければならない査読システムの中に複雑な要因があるとすれば、それは何ですか?
査読プロセスとは、一人以上の外部の専門家(たいていは匿名の)による投稿論文の評価にもとづく、論文の質を統制するための方法です。最終決定はエディターが行い、審査者の役割が原則としてアドバイスをすることだけであると、よく理解しなければなりません。審査者はあらゆるタイプの誤りを発見する手助けをし、価値ある示唆をして論文が改善されることも非常に多いです。時々生じる問題で典型的なのは、よい査読者を見つけ出すということです。というのも、科学者はみな時間にせかされているため、期限通りに査読報告書をかけないことも時々あるからです。もう一つは「利益相反(“conflict of interest”)」の問題で、査読者が著者の直接のライバルになることもあります。いずれにせよ、 査読を受けた論文は査読を受けない論文よりも、質が高いことが一般的です。
一般的に言って、エディターはいかにして、査読者と著者の間に「利益相反」の可能性があることに気づき、どのように把握しますか?
利益相反を見つけるのは簡単なことではありません。査読者の報告書の言葉が辛らつなことがその手がかりになることもあるでしょう。他にも、査読時間があまりに長い時も利益相反の兆候が見えることがあります。一番良いのは、計量書誌学的データベースを調べることです。査読者と著者が共著の論文が多かったら、エディターは気をつけなければなりません。査読者に対し、利益相反がないという申告書に署名させるジャーナルは多いです。私自身も、問題を避けるという理由だけで、査読の誘いをかなりの数辞退してきました。
エディターとして、出版倫理 に熱心なのだと思います。けれども、意図的な倫理違反と悪意のない誤りの違いは紙一重だ、ということには同意されるでしょう。著者が不正行為を行ったかどうかを、どうやって判断するのですか?
著者による不正行為にはさまざまな形があります。例えば、剽窃、同じ論文を同時にいくつかのジャーナルに投稿することなど。幸運にも、剽窃検知ソフトが非常に有能なので、剽窃による倫理違反はすぐに見つけることができます。また、審査者も剽窃を見つけることがよくあります。
科学コミュニティにおいて英語が優先的な言語であることについて、どう思われますか?
科学コミュニティにおいて、英語は今や共通語ですし、複数の言語を使うデメリットよりも、グローバルな一つの言語を使うメリットの方が大きいです。英語で発表しなければならない二つの理由があります。
1.自分の母語で発表する場合より、はるかに多くの人が論文を読むことができます。
2.査読者の層が、より厚くなります。
もちろんデメリットもあります。英語のネイティブ話者ではない人は、外国語で論文を書くことを学ばねばならず、それには時間がかかります。もう一つの点は、科学コミュニティで使われている英語が標準化されたものでないということです。英語にはたくさんの変形(バリエーション)があり(イギリス英語とアメリカ英語の違いもあります) 、それに加え、特定の科学分野にしかないローカルな専門用語もあるからです。
天文愛好家や、あなたの研究分野に関心を持つ人に対し、ご専門の分野で博士が一番エキサイティングだと思われる出来事を教えてください。変光星や彗星の測光法ですか?
現代のイメージング検出器は非常に効率が良く、ハッブル望遠鏡のように、特に宇宙観測から莫大な新しいデータを生み出します。こうした新たなデータの魅力的な点の一つは、新たなデータの多くを何十年も前に集めたデータと組み合わせることができることにあります。つまり、以前のデータで良質なものは、観測したものが思いもよらなかったようなやり方で、現在の分析に役立つということです。先ほどの紹介したファン・ハウテン・フルーネフェルト博士の例がわかりやすいです。亡くなった夫キース・ファン・ハウテン氏の後を引き継いだ博士は、キース氏が1965年から1978年の間に南アフリカで集めた観測データを整理し、将来の調査に非常に役立つデータ論文として発表したのです。論文はこちらですV BLUW Photometry of 13 Eclipsing Binary Stars。
論文の著者へ一言アドバイスを!
- 母語で論文を書かない、またそれを(英語に)訳さないこと。英語で直接執筆し、構文は後で直すのが、正しい方法です。
- スペル・チェッカーを使いましょう。
- 投稿前に論文を校正し、同僚の研究者に読んでもらいましょう。反対に、その人の論文も読んであげましょう。
小惑星帯 10968 Sterken (4393 T-1)はあなたにちなんで命名されたと思われます。 どんな経緯でそうなったのか、教えてください!
火星の軌道と木星の軌道の間には、何十万もの小さな惑星があります。天文学者の間では、小惑星の発見をした者が命名の権利を得るというのが伝統です。そのため、何千もの惑星に発見した人、時にはその仲間の名前がつけられていますが、画家、作家、音楽家、作曲家、あるいは都市の名前がつくのもよくあることです。数年前、オランダ人の同僚イングリッド・ファン・ハウテン・フルーネフェルト(Ingrid van Houten-Groeneveld;私は会ったことがないのですが)が、私の名前を10968につけてくれたのです。軌道情報やJAVAによる軌道図(orbit diagram)については、Jet Propulsion Laboratory's siteが詳しいです。
天文愛好家や、あなたの研究分野に関心を持つ人に対し、専門の分野で博士が一番エキサイティングだと思う出来事を教えてください。変光星や彗星の測光法ですか?
現代のイメージング検出器は非常に効率が良く、ハッブル望遠鏡のように、特に宇宙観測から莫大な新しいデータを生み出します。こうした新たなデータの魅力的な点の一つは、新たなデータの多くを何十年も前に集めたデータと組み合わせることができることにあります。つまり、以前のデータで良質なものは、観測したものが思いもよらなかったようなやり方で、現在の分析に役立つということです。先ほどの紹介したファン・ハウテン・フルーネフェルト博士の例がわかりやすいです。亡くなった夫キース・ファン・ハウテン氏の後を引き継いだ博士は、キース氏が1965年から1978年の間に南アフリカで集めた観測データを整理し、将来の調査に非常に役立つデータ論文として発表したのです。論文はこちらですV BLUW Photometry of 13 Eclipsing Binary Stars。
論文の著者へ一言アドバイスを…!!
- 母語で論文を書かない、またそれを(英語に)訳さないこと。英語で直接執筆し、構文は後で直すのが、正しい方法です。
- スペル・チェッカーを使いましょう。
- 投稿前に論文を校正し、同僚の研究者に読んでもらいましょう。反対に、その人の論文も読んであげましょう。
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