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「情報開示を進めることが、研究と出版の倫理的問題に対処する最善の方法です」
独立系ジャーナリスト/ブロガーで、学術コミュニケーションとオープンアクセス(OA)に対する熱い思いを抱いているリチャード・ポインダー氏へのインタビュー・シリーズです。シリーズ第1回でポインダー氏は、「研究論文のOA化と平行して、うまく機能するビジネスモデルを開発することが重要だが、このために、予期しなかった一連の問題が生み出されることもある」と述べていました。今回はこれに関連して、論文掲載料(Article Processing Charge、APC)と有料制度についてさらに詳しくお聞きします。同氏は、出版社は本来あるべき状態よりも透明性に欠けていると指摘し、透明性を増大させることで、「ハゲタカ出版社」に付随する諸問題に対処できるのではないかとの考えを示しています。また、著者が出版や昇進のプレッシャーに屈して非倫理的な出版行為を働くことも同罪であると述べています。
ポインダー氏の文章は有名で、そのほとんどが自身のブログOpen and Shut?で公開されています。最も人気のある読み物は、3回連続のインタビュー記事です。ブログに基づいたOA書籍The Basement Interviewsには、様々なオープン・フリー・ムーブメントの先端を行く提唱者たちとポインダー氏とのインタビューが掲載されています。The Open Access InterviewsとThe State of Open Accessの連載には、OA提唱者・実践者との対話が記録されています。ポインダー氏はまた、Global Open Access List (GOAL)のモデレーターでもあります。その活動は長年にわたって多くの注目を集めてきました。著名なOA活動家であるステヴァン・ハーナード(Stevan Harnard)氏はポインダー氏について、OAムーブメントにおける「歴史的記録者であり、良心であり、”最もやかましいで賞”を受けるに値する」と評しています。
先のインタビューで、OAによる一連の問題が生じているとおっしゃっていました。情報に無料・無制限にアクセスできることが、どのような問題をもたらしていると思いますか?
コンテンツへの無料アクセスというサービスは素晴らしいものですが、その経費をどう賄うかということから、予期せぬ問題が起きることがあります。例えばAPCモデルの場合は、ハゲタカ出版社の出現を招いてしまいました。論文を出版するために著者に課金しておきながら、きちんとした査読をしない(あるいは査読を全くしない)出版社があります。このような出版社は、論文の品質管理をほとんどあるいは全くせず、独自の審査もしないで、論文をただウェブサイトに垂れ流しているのです。これは深刻な問題です!
出版する側が料金を支払う方法は、読者にはいい方法かもしれませんが、著者にとっては状況が改善されず、むしろ改悪されていないかと考える必要があります。特に、途上国に拠点を置く、APCを支払う余裕がない著者のことを考えなくてはなりません。
私たちは、情報が無料で手に入る世界を作り出すとどのような結果になるのかということを、より広い文脈の中で考える必要があります。その結果の一例が、商用の既得権益となるようなオンライン・コンテンツの増加です。このようなコンテンツには、目新しい話題を作りたい、あるいは労力をかけずにウェブサイトの内容を充実させたいと考える発信者やウェブサイトがプレスリリースを複製したものや、自社のビジネスや製品を宣伝するために企業や代理店が記事全体を書いているものなどがあります。こういった方法をとれば、コストをかけずにウェブサイトにコンテンツを追加できるのです。しかし、このような寄稿コンテンツに「利益相反」宣言がまったく添えられていないことが多いのは、驚くべきことです。
このことは科学にも影響を及ぼします。例えば、コスト削減のために新聞等のメディアで科学レポーターの解雇が進む中、プレスリリースによる報告報道(ここでは「churnalism(粗製濫造ジャーナリズム)」と説明されています)は増加しています。加えて、研究者やその所属機関は、公的資金を有効に活用していることを示すために論文出版を増加させており、我々の目の前にはプレスリリースや記者会見、更にはこれらの論文の宣伝のための派手なビデオまでもが洪水のように押し寄せてきています。こういったものは、PRの道具として研究結果を誇張する傾向があります。それだけでなく、科学の知識を持たないジャーナリストによる報道が増え、レポーターはプレスリリースで述べられていることを判断するだけの力量を持っていない、という状況がますます進みます。そのため、誇張は更に加速します。このような状況がますます顕著になっていくにつれ、大衆が科学に対する信頼を失い始めるという危険があります。
コンテンツ生産における既得権の侵害には、医薬品や手術手順などが含まれることもあります。
例えばウィキペデイアは最近、既得権を持つ人から支払いを受けている、何百人にも上る「悪玉」編集者を取り締まりました。一方、エルゼビア(Elsevier)などの大手学術出版社は、自社のコンテンツを裏口から宣伝しています。彼らは、ウィキペディアン(ウィキペディア参加者/貢献者)に有料論文へのアクセスを許可し、エルゼビアから出版された論文を出典として利用することを奨励しています。一般大衆である多くの読者はこのような論文へのアクセス権がないので、信頼するしかありません。これは、ウィキペディアの設立基盤となっている民主主義的原則から大きく乖離した状態であり、無料コンテンツにも別の解釈を加える必要が出てきます。
これらの事態は全て、政府による研究支援が低下し、民間の支援がその間隙を埋めつつある時に出現しています。企業による助成金は「科学最大の敵」といみじくも表現されるように、既得権益によって科学の世界が覆される危険性がここにもあるといえます。
つまり、研究、出版、報道には、全て財政面その他の既得権が浸透しているのです。OAも、このような大きな文脈の中でとらえられなければなりません。OAこそが、そのような動きを緩和するどころか奨励することになるかもしれないのです。製薬会社や医療機器企業は、自社の薬品や医療機器を宣伝するために、OAジャーナルの代筆論文のための資金を用意して虚偽の正当性を簡単に買える立場にあります。とくに、査読の実施は口先だけというハゲタカ出版社を利用することもできる状況です。
無料コンテンツには代償があるのです。好ましいことではありますが、メリットと共にデメリットも意識する必要があります。
出版の透明性に関するブログ記事で、学術出版社も研究者も「今より大幅に透明性を増す努力をすべきである」と述べておられます。これについてもう少し詳しく教えて頂けますか?
あの記事は、ジェフリー・ビオール(Jeffrey Beall)氏のリスト「潜在的ハゲタカOA出版社」に掲載されている出版社、MDPIにインタビューを行なった時の導入部分から抜粋したものです。ビオール氏は正当な理由なしに出版社をリストに入れていると非難されることもあるので、ビオール氏の批判が正当なものかどうかを確認するため、時々、リストに掲載されている出版社と徹底したインタビューを行うことにしています。
過去8年ほどこのようなインタビューを数多く行なってきましたが、ハゲタカ出版社は確かに存在するものの、ハゲタカであるとの判断を下すには、学術出版界に透明性がなさすぎると結論せざるを得ません。
多くの学術出版社と同様、MDPIは現在、盲査読(ブラインド・レビュー)を行なっています。MDPIは倫理的に問題のない出版社かもしれません。しかしここで問題なのは、査読プロセスが不透明であれば、投稿された論文が適切な査読を受けているかどうか、我々も判断できないということです。これはハゲタカ出版社に対する批判の中でもっとも多いものです。査読が秘密裏に行われるなら、出版される前に論文が辿ったプロセスを、どうやって知り得るでしょうか?
出版社の多くは、OAモデルにせよ購読者モデルにせよ、料金が高すぎる、搾取している、とよく非難されます。ここで問題なのは、学術出版社が真の市場であるとは言えず(そのため価格統制を受けない)、自分たちの意のままに価格を決定することができるという点です。出版社の財務状況が不透明であれば、提示される価格が適正なのかどうなのか判断がつきません。
このため私は、出版社はその出版プロセスだけでなく、財政状況についても、もっと透明性を高めなければいけないと考えています。そうすれば、出版社だけでなく研究コミュニティをも助けることになるでしょう。
しかし、近いうちに変化が見られるかもしれません!今までこの件に関しては沈黙が守られてきましたが、最近、Frontiersなどが財政状況の詳細を公表しました。これは歓迎すべき動きです。ただし、公表されたものは自社による説明ではなく、監査報告の一部を抜粋したものではありましたが。
財務情報の透明性の問題は、OA出版社だけに限られたものではありません。OA提唱者は、老舗出版社の価格が不当に高いと非難することがよくあります。また、購読者モデルのジャーナル購読料にまつわる秘密主義、特にビッグ・ディール(Big Deal)と呼ばれる一括取引とそれに関する秘密保持契約(NDA)について不満が申し立てられています。出版社は、株式会社でさえ(つまり収支報告書の提出義務がある場合さえ)、数字を曖昧にしているとも言われています。
透明性が重要なのは、以下の3つの理由によります。第一に、ビジネスの実情と財務状況の透明性を高めることが、ハゲタカ的であるという非難に対応し、それを回避するための1つの方法になるからです。第二に、学術出版社の収入の多くは公金から入るので、より透明性を高める道徳的義務を負っていると言えます。
第三に、近年、学術出版に対する信頼が失われてきていることが挙げられます。これは、いわゆる科学的再現性の問題に関する懸念が増大したこと、また、データのねつ造、画像の不正加工、偽査読の横行といった科学界での不祥事が増加したことの結果です。出版バイアスに関する不安もあります。
これらの問題に対処していく最善の方法は、OA化だけでなく、査読やデータもオープンにし、出版プロセスの透明性を高めることで、より情報開示を進めていくことです。
また、これは出版社だけの問題ではなく、研究者の問題でもあるということを強調することも重要です。私は、研究者の透明性も、本来あるべき状態より低いと思います。論文をたくさん出版しなければならないという厳しいプレッシャーにあっさり負け、手軽な出版を約束する疑わしいジャーナルを選んで昇進していく研究者もいるからです。
端的に言って、我々が目にしている現在の研究や学術出版の問題の多くは、欲深い出版社だけでなく、研究コミュニティ全体の責任だと考えるべきです。そして、これらの問題に取り組む上で最善の方法は、透明性を増していくことだと思っています。
ポインダーさん、奥深いお話をありがとうございました。
1 2015年10月27日、ジェフリー・ビオール氏はMDPIを自身のリスト「潜在的ハゲタカOA出版社」から削除しました。
リチャード・ポインダー氏との素晴らしいインタビュー・シリーズ第3回では、学者や出版社との交流、オープンリサーチへのアクセスを試みた経験についてお聞きします。また、2015年国際オープンアクセス週間(International Open Access Week)のテーマ「Open for Collaboration(オープンが生む協同)」についても伺っています。
本インタビュー・シリーズ記事へのリンク:
- Part 1: 歓迎される無料コンテンツ、一方で費用負担に関する新たな問題が浮上
- Part 3: The research deposited in repositories is not always freely or easily available
- Part 4: We should persuade scientists to reimagine their relationship with the public
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