透明性が査読不正を食い止める
(本記事はワイリー・エクスチェンジ(Wiley Exchanges)に掲載されたものを、許可を得てここに再掲載したものです。)
査読は、科学コミュニケーションにおける究極の判断基準ですが、研究者、ときには編集者までもが、このシステムの弱点を悪用するケースがあります。専門家の承認を受けた出版物は信頼性が高いものと見なされるため、研究者たちは、自分の業績のために査読済み論文の出版に励みます。論文を出版するためには、査読で良い評価を受ける必要があります。したがって、出版に必死になるあまり、研究者がそのプロセスを不正に操作してしまうケースが発生するのです。このような行為に走ってしまう主な要因は、学術界の熾烈な競争文化と、出版へのプレッシャーにあります。世界中の多くの研究機関が、インパクトファクターの高いジャーナルで論文を高頻度で出版することを研究者に求めています。このため、研究者たちは、職の確保、助成金の獲得、昇進・昇給のために、査読の不正操作という近道を選択してしまうのです。
査読プロセスで不正を働く研究者たちは、ジャーナル側のシステムの穴、すなわち透明性の欠如という欠陥を突いてきます。多くのジャーナルが、シングルブラインドやダブルブラインドといった閉鎖型査読システムを採用しています。査読者の氏名やコメント、それに対する著者の回答は一般の目に触れることがないため、著者はこれを利用します。たとえば、身分を偽って著者自らが査読を行うといった不正が可能になってしまうのです。査読の信頼性を確認できる唯一の立場にあるジャーナル編集者が気付かなければ、この不正が明らかになることはありません。これを防ぐため、F1000ResearchやBioMed Centralなどのジャーナルは、掲載後査読(post-publication peer review)や公開査読(open peer review)といった新たな査読モデルを導入し始めています。
編集者もまた、毎日投稿される大量の論文に迅速に対応しなければならないプレッシャーに晒されています。1本1本の論文それぞれに適切な査読者を見つけるのは、骨の折れる作業です。このため、著者が査読者候補を挙げられるようにしているジャーナルもありますが、透明性が欠如している中でのこのシステムは、自分に有利な審査をしてくれる査読者を推薦する機会を著者に与えていることになります。論文出版に伴う査読結果の公表は通常行われていないので、著者は、偽の身分(アカウント)を作り上げて自分の論文を査読するという「査読の輪」を、密かに作り上げることができてしまうのです。
では、透明性はどのような役割を果たせるでしょうか。査読プロセスは1世紀前からありますが、査読者が見ている点、査読者と著者のやり取り、編集者が判定を下すまでの過程といった舞台裏は、ほとんどが謎に包まれています。プロセスをよりオープンにするためには、著者と編集者と読者の協力が必要です。出版社とジャーナルは、査読プロセスの詳細を含めた査読報告書を、論文と併せて出版すべきでしょう。このようなオープン化の取り組みは、著者に不正行為を思い留まらせる抑止力にもなります。編集者は、信頼できる査読者を常時複数人確保しておくようにすれば、その都度査読者を探す労力を、査読のクオリティ審査に回すことができ、より適切な判断を下せるようになるでしょう。もちろん、査読者の選定に著者の力を借りる必要もなくなります。
査読不正は科学の進歩にきわめて有害な行為であるにも関わらず、十分な対策が立てられているとは言えません。著者は、不正行為に走った場合の末路についての教育を受けるべきです。編集者は、選んだ査読者が信頼に値することを確認する努力を怠ってはなりません。出版社は、査読プロセスをよりオープンにすることを考慮すべきです。査読は信頼を前提に成り立っている部分が大きいため、著者、編集者、出版社が協力して透明性を高める努力をしていく必要があると言えるでしょう。
※このブログ記事は、執筆者本人の論文「What causes peer review scams and how can they be prevented?(査読不正の発生要因とその防止策)」(Learned Publishing誌に掲載)をもとに書かれたものです(DOI: 10.1002/leap.1031)。
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