「研究のインパクトを測定するには、様々な指標を利用するのがベストです」
毎年、何百万本という論文が出版されていますが、実際に認識され、引用され、利用される論文はごくわずかです。論文の影響力を最大限に高めるため、研究者はオンラインなどのネットワークを活用し、自分の論文が発見され、読まれるように頭を働かせなければなりません。
今回は、研究者・研究機関・資金助成機関が出版論文の認知度とインパクトを最大限に高める手助けをするオンライン・サービス「Kudos」を共同で創設した、メリンダ・ケネウェイ(Melinda Kenneway)氏とチャーリー・ラップル(Charlie Rapple)氏にお話を伺いました。インタビュー前半の今回は、Kudosの概要と、Kudosがどのように出版論文を発見しやすくしているのかをお聞きしました。ユーザーは、Kudosを通じて自分の行動の効果をモニターすることで、より良い戦略を練ることができます。その目的は、出版論文の利用と引用を増加させ、研究のインパクトを増大させることにあります。
メリンダ・ケネウェイ(エグゼクティブディレクター)氏は学術出版への情熱を持っています。実験心理学で学位を取得した後、学術界に入り、その道をひたすら進んできました。ケネウェイ氏はオックスフォード大学出版局ジャーナル部門のマーケティング部長であり、出版社・研究機関・学会のための専門マーケティング代理店の共同創設者でもあります。
チャーリー・ラップル(営業・マーケティング部長)氏は、新しい出版形態やテクノロジーについて調べることが大好きです。UKSG(英国逐次刊行物グループ)でのボランティアや学術誌“Learned Publishing”の編集者(Associate Editor)としても熱心に活動しています。過去には、Publishing Technology社のグループマーケティング長、CatchWord社の電子出版・アカウント管理、Ingenta社のリンク付け・製品管理などの業務を経験しました。ラップル氏は、マーケティング分野での外交学修士号を取得しています。
Kudosに対する世間の反応はいかがですか?
ラップル氏: 2014年5月の開設以降、Kudosは急速な成長を遂げ、登録者数は7万5千人を超えました。また、ワイリー(Wiley)社、アメリカ科学振興協会(AAAS)、王立協会(Royal Society)など、世界の一流出版社60社以上の支援を受けるようになりました。最近開始した大学へのサービスでは、カーネギーメロン大学(米国)、チューリッヒ工科大学(スイス)、シドニー工科大学(オーストラリア)、ハダースフィールド大学(英国)などの有名大学と協力しています。Kudosユーザーは、世界のほぼすべての国にいて、中国、インド、オーストラリアのユーザーは、全ユーザーの約5%ずつを占めています。
これまでにもらったフィードバックは、おおむね非常に好意的なものです。Kudosは大きな溝を埋めてくれると、皆口をそろえて言います。その溝は今も拡大し続けています。研究者がネットワークを作り、(ときには出版社の著作権を侵害しつつ)自分の著作物を掲載し、研究活動の情報をシェアするための各種プラットフォームが登場していますが、それらのウェブサイトが自分の研究のインパクトにどう影響するのかを追跡できるサービスを提供しているのは、Kudosだけです。
新しいサービスの場合、存在を認識され、メリットがあることを理解してもらうまでに時間がかかるのは仕方のないことです。しかし我々は、著者を支援する出版社や研究機関と密接な関係を保ちながら働きかける方法をとっているので、これが受容と活用を促す方向に働いています。
インパクトファクターなどの引用指標は、研究の評価方法に絶大な影響力を持っています。それでもなお、Kudosも提供しているような、研究のインパクトを測定し評価する別の方法が現在も開発され、採用されています。今後もこのような状況が続くとお考えですか?
ケネウェイ氏:現在、研究インパクトを評価する指標は多数存在します。その中には、従来からの引用指標から、ソーシャルメディア上のシェアやマスコミ報道などについて評価するより新しい指標(「代替指標」とも呼ばれるもの)まであります。これらの指標は、多くの機関が別々に測定しているものなので、自分の研究インパクトがどのように評価されているのかを理解するためには、それぞれの指標の提供元を個別に探し出さなければなりません。この状態では、1つの出版物の総合的なインパクトを評価することは難しくなります。学術出版物の影響力とインパクトを十分に理解するには、1つの評価に依存するのではなく、様々な指標を利用するのが1番です。Kudosのダッシュボードに様々な指標が入っているのは、このためです。つまり、研究者や研究機関が、最重要の指標を自分で決めることができるのです。研究分野やキャリアの段階によって、「優れた成果」の要素は大きく異なります。Kudosではベンチマーキング(優れた事例と比較して改善点を探し出す手法)を積極的に取り入れ、直接的な競合者との比較ができるようにしています。
Kudosは、指標を提供しているわけではありません。インパクトファクターやその他の指標の代わりになるつもりはないのです。我々の目的は、様々な指標の専門家と協力しながら、データをKudosのダッシュボードに集約し、ユーザーが自分に重要な指標を追跡して、その改善に励めるよう後押しすることです。
ラップルさんはあるインタビューで、「研究者は研究を通じて専門家たちとよい関係を築くものの、そのネットワークを十分に活用していない」と語っています。研究者が自分のネットワークについて理解し、最大限に活用するためのアドバイスをお願いできますか?
ラップル氏:ほとんどの研究者は、執筆した出版物だけでなく、築いてきたネットワークも、自分のキャリアの基盤として同じように大事だと言います。このネットワークは、誰かからの紹介、学会、共同研究などを通じてオフラインで形成されたものがほとんどです。しかし、 ResearchGate、Academia.edu、ブログ用ツール、その他のインタラクティブなツールなど、キャリアの形成に役立つ関係の構築に利用できる、オンラインの新しいネットワーク・プラットフォームがどんどん登場しています。研究者がオンライン環境でネットワークを広げていけば、より広範囲で研究をシェアする機会が生まれることは確実です。
しかし、プラットフォームによっては、違法な場合があるにもかかわらずウェブサイトに論文をアップロードすることを奨励していることもあり、著者にとって、誰と何をシェアできるのか、あるいはできないのかを見極めることが難しい場合もあります。Kudosを使うことで、そのような疑問を解消できます。Kudosのページで自分の研究を説明すれば、どのウェブサイトも合法的にシェアすることができ、このページから、出版社のウェブサイトに掲載された自分の正規の論文にリンクを貼ることができます。シェアした論文はKudosですべて追跡できるので、シェアした結果、どのようなインパクトがあったのかが分かります。私たちはこのようにして、研究者が拡大するネットワークを利用して、合法的行為であるという確信を持ちながら論文を広めていけるようサポートしているのです。
研究者がオンライン・ネットワークを利用してフォロワーを増やす方法については、こちらのブログ記事でアドバイスを書いています。
今や、学術出版に関わる人々はますますソーシャルメディアを利用して研究について発信し、ネットワークを築くようになっています。しかし、ソーシャルメディア上で研究について語ることに疑問を持っている研究者もいます。このような研究者の疑念にはどう対応していきますか?
ケネウェイ氏:資金助成機関と話していると、「学術コミュニケーションの中心はアウトリーチである」とみなす流れがますます強まっていることが分かります。大量のコンテンツが、様々なプラットフォームにいろいろなフォーマットで存在するので、研究を読者に見つけてもらうのが困難になっています。そしてインパクトの評価はより複雑な方法で測定されるようになっていますので、研究者は自分の研究の露出と研究インパクトについて、もっと自分で管理しようという気になるでしょう。
ここには文化的な課題もあります。出身国によっては、自分の著作物を「宣伝」したり「売り込」んだりすることに抵抗がある研究者もいます。でも、Kudosの目的はそのような行為の奨励ではありません。研究者が自分の研究に対する知識と興味を活かして可能な限り幅広い読者を呼び込める機会を提供しようとしているに過ぎません。ソーシャルメディアを利用してリンクをシェアすることは、Kudosのサービスのほんの一部です。最初の一歩は、研究者が自分の著作物をシンプルな言葉で要約し、自分の研究に関連する情報とリンクさせることです。それだけで、より多くの読者を集めることにつながるのです。1度に1つずつやろう、というのが、我々のいつものアドバイスです。Kudosのウェブサイトでは、研究者がソーシャルメディアを始めるきっかけについてのヒントやアドバイスを読むこともできます。
研究者・出版社・資金助成機関が近い将来Kudosに期待できることは何でしょうか?
ラップル氏:我々がKudosで実現したいのは、研究がより大きなインパクトを持ち、研究者がもっと広く認識され、それによって利益を得ることができる世界です。今後数年の間に、研究者が研究の発表や宣伝を行なったりプロフィールを作成したりできるウェブサイトやオンラインツールが劇的に増加するでしょう。この環境がさらに複雑化するにつれ、どこでどのようなアウトリーチ活動を行えばもっとも効果的なのかを示してくれする、道案内のようなツールがますます必要となります。Kudosは、著者個人の活動データを集めることによって、その人の目標と環境にふさわしい「効果を上げる手順」の作成を支援し、出版社・資金助成機関・研究機関の取り組みを一本化して、さらにその取り組みの効果を高めたいと考えています。また我々は、研究者、出版社、研究機関、資金助成機関の横断的な匿名のデータセットを提供し、各組織がそれらと比較することでそれぞれの出版物の「効果(パフォーマンス)」を測定できるようサポートしたいと考えています。これによって、相対的な達成度を把握でき、どこにどのような改善点がありそうかを見極められるようになるでしょう。
ラップルさん、ケネウェイさん、ありがとうございました!
インタビュー前半では、Kudosの概要と、Kudosが研究者・研究機関・資金助成機関・出版社のために出版論文を発見されやすくしている方法についてお聞きしました。そちらもぜひお読みください。
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