積極支援で留学者数をコロナ前の水準に
コロナ禍を経て、文部科学省が留学生の受け入れ支援に再び力を入れ始めています。少子高齢化が急速に進む中、日本の研究力を向上させて国際競争力を高めるには、世界中から優秀な人材を呼び込むことが欠かせません。
人の動きを大幅に制限した新型コロナウイルス感染症は、来日する外国人留学生と、海外へ渡る日本人留学生の人数にも大きな影響を与えました。日本政府はもともと2008年に、外国人留学生を2020年までに30万人に増やす計画を掲げていました。取り組みは順調に進み、2019年には過去最多の約31万人まで増えましたが、コロナ禍を受けて2020年2月から外国人の入国を制限した結果、2021年には約24万人にまで減少しました。
一方、海外に行く日本人学生は2018年度に約11万5000人と過去最多を記録した後、2019年度には約107,000人に微減、そしてコロナ禍の影響を受けた2020年度は約1,400人と激減しました。この状況を受け、文部科学省は、より多くの外国人学生を日本に呼び込み、より多くの日本人学生を海外に留学させる取り組みを強化し、国境を越えた学びの機会を2027年までにコロナ禍前の水準に戻すことを目指しています1。
来日する外国人留学生を増やすために
2022年3月に外国人留学生の入国制限がようやく緩和されました。留学生の新規入国は徐々に進んでいるとはいえ、コロナ禍前の水準には及んでいません。
そこで文部科学省は、外国人留学生の人数をコロナ禍前の水準に戻すために、日本への留学を促す施策を再開・拡充させることを決めました。具体的には次のような方法が打ち出されています2。
- 日本の大学の海外拠点と連携し、日本留学の魅力や、日本での就職事例に関する情報を積極的に発信する
- 留学後に日本での就職や起業がスムーズになるよう、自治体や企業の支援を後押しする
ただ、コロナ禍に際し、日本は欧米よりも厳しい水際対策を続けてきました。2年間待ったあげくに日本への留学を断念したある米国人男性(22)は、「日本は留学生に冷たい」と嘆いています2。外国人留学生の目を日本に向けさせ、留学先として日本を選んでもらうためには、支援の本気度を示せるかどうか、日本で学ぶことの魅力や強みをうまく伝えられるかどうかがカギとなるでしょう。
日本人留学生への支援策
一方、日本人学生の海外留学を増やすための施策では、授業料の補助など、奨学金制度の拡充が検討されています。官民協働の海外留学支援事業「トビタテ!留学JAPAN」3では、協力する企業や自治体を増やし、大学生だけでなく高校生の海外留学も後押しします。
ただ、6月22日に開かれた文科相の諮問機関・中央教育審議会の分科会では、円安が進む状況について、「留学への影響が大きい」、「留学のリスクが高まっている」との意見も出ました。文科省の担当者はこの状況に関し、「どこまで円安が進むかは読めないため、日本人学生の留学を増やせるよう工夫したい」と話しています4。
高度人材の獲得競争
米カリフォルニア大学デービス校のジョバンニ・ペリ教授によると、米国ではSTEM(科学・技術・工学・数学)分野の大学卒業生の約3割は外国人で、そのことが優れたアイデアの創出につながっているといいます5。また、奈良先端科学技術大学院大の塩崎一裕学長は、「多様な価値観を持つ留学生と共に学ぶ環境は、グローバル人材育成に必須だ」と話しています2。
経済協力開発機構(OECD)による高度人材の誘致指数で、日本は0.5と先進国の平均を0.04ポイント下回って、33か国中25位5。かねてから研究力の低下が指摘され、大学ランキングでも低迷する日本では、大学ファンドの創設によって世界と伍する研究大学の実現を目指す施策が始まったばかりです6。人口減少にも直面する中で、積極的に外国人留学生を受け入れ、外国人材の活用を進めなければ、成長の担い手を逃し、発展の機会を損なうことになるでしょう。そうならないためにも、積極的な国際交流や留学への支援策が望まれます。
参考資料
2. https://www.yomiuri.co.jp/national/20220621-OYT1T50118/
3. https://tobitate.mext.go.jp/
4. https://www.asahi.com/articles/ASQ6S43ZTQ6QUTIL01J.html
5. 「高度人材 国境越え争奪」日経新聞 、2022年7月5日付朝刊(1ページ)
6. 「低迷する日本の研究力 大学ファンドで回復なるか」Editage Insights, https://www.editage.jp/insights/slumping-japanese-research-power-will-it-recover-with-a-university-fund (2022)
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