科学論文における単語選びのミス6タイプ
この文にはどちらの単語を使うべきか?この文で意図が伝わるだろうか?誰もが、このように悩みながら論文を執筆しています。非英語ネイティブの研究者が書いた研究論文では、単語選びのミスが言語的誤りの大きな割合を占めています。各分野にそれぞれの慣例があるのと同様に、分野ごとに研究者が犯しがちなミスがあります。この記事では、物理科学分野の論文でよく見られるミスを取り上げます。
研究論文において、言語は研究結果を伝えるための道具です。したがって、言葉を効果的に使うことがきわめて重要であり、論文の分かりやすさを損ないかねない誤った言葉遣いを避ける方法を知っておくに越したことはありません。この記事では、例文を交えながら単語の用法によく見られるミスを紹介し、そうしたミスを避ける方法を説明します。
単語選びでもっともよくあるミスは、意図する単語と発音が似ていても、意味が異なっている言葉を選んでしまうことです。英語ネイティブにとってはこのようなミスは単なる言い間違いに過ぎませんが、非英語ネイティブの場合は、単語を混同した結果かもしれません。
発音が似ている単語は、意味も似ている(同じではなく、あくまで「似ている」)場合がよくあるため、混同につながってしまうと考えられます。以下の例を見てみましょう:
例1:「attained(到達した)」と「obtained(得た)」
誤:The sensors attained steady state readings at high temperatures.
正:The sensors obtained steady state readings at high temperatures.(センサーは高温で定常状態の測定値を得た。)
「attain」は「到達」を意味する言葉で、状態や段階について述べるときに使います(例:the larva attains maturity [幼虫が成長を遂げる])。一方、「obtain」は、単純に「得る」という意味です(例:he obtained data from hospital records [病院の記録からデータを得た])。
例2:「principal(主な)」と「principle(原理)」
誤:The principle components of the thermochemical state were used to derive the transport equations.
正:The principal components of the thermochemical state were used to derive the transport equations.(熱化学状態の主な成分から輸送方程式を導き出した。)
「principle」は、「法則」や「原理」を意味する名詞です(例:principle of conservation of mass [質量保存の法則])。一方、「principal 」は、「主な」、「重要な」、「基本の」などの意味を持つ形容詞です(例:principal findings of the study [主な研究結果])。この2つの単語は、発音が似ているために、混同して使われることがよくあります。
2. 発音の違いによるスペルミス
文化の違いがスペルミスにつながることがあります。たとえば、私たちの編集チームは、日本人著者が共通して犯すミスがあることに気付きました(皆さんのほとんどは、すでにこのミスを認識していると思います)。それは、「l」と「r」の混同です。周知の通り、これは英語と日本語の音素の違いによるものです。
ほとんどの場合、このようなミスはスペルチェックプログラムで検出されます。しかし、文脈上は間違っている単語が、それ自体では別の意味を持つ正しい単語である場合があります。たとえば、スペルチェックでは、「collect」を「correct」、「allow」を「arrow」、「lock」を「rock」と書いてあっても、誤りを検出することができません。このようなミスを防ぐには、細心の注意を払うしかありません。少なくとも、「r」と「l」が含まれる単語のうち、論文で頻繁に登場するものは、綴りを確認し、論文を書き終えた後に徹底的に校正を行いましょう。
例
誤:The poles were displaced in the direction of the applied pressure.
正:The pores were displaced in the direction of the applied pressure.(細孔は圧力が加えられた方向に変位した。)
3. 意味は似ていても含意が異なる単語
次は、発音は違っていても、意味が似ていたり重複していたりする単語の誤用について見ていきましょう。
例1:「devised(考案した)」と「developed(開発した)」
誤:We have devised a method to calculate the exergy efficiency.(
正:We have developed a new method to calculate the exergy efficiency. (我々はエクセルギー効率を計算する新たな方法を開発した。)
「devise」と「develop」は、「新しいものを用意する」という意味では同じですが、前者はアイデアや計画に留まるのに対し、後者は実際に発明した製品やシステムに使うのが一般的です。
例2:「alternate(交代する)」と「alternative(代わりの)」
誤:Alternate measures were developed to reliably calculate the losses.
正:Alternative measures were developed to reliably calculate the losses.(損失を確実に計算するための代替手段が開発された。)
「alternate」と「alternative」は、どちらも「代替」や「何かの異なる選択」を意味する言葉ですが、前者は「変化の状態が一定であるもの」を示すときに使うことができます(例:「alternating current(交流電流)」)。
4. 標準的でない単語、存在しない単語
最小単位の言葉である「語根」に誤った接頭辞や接尾辞が付け足されて、標準的でない、または存在しない動詞・名詞・形容詞が形成されていることがあります。
例1
誤:The structural changes were determinated through microscopy studies.
正:The structural changes were determined through microscopy studies.(構造の変化は顕微鏡検査によって確認された。)
動詞・名詞・形容詞は、語根に適切な接尾辞(–ify、–er、–al、–ate、-ly、–able、–ish、–ion)を付け足すことで形成されます。ただし、これらは標準的に認められている綴りでなければならず、任意に作ることはできません。上の例文では、「determine」という語根に、接尾辞「–ated」が誤って付け足されていますが、正しくは「determined」です。また、時制と複数形も接尾辞で形成されていることにも留意しましょう。
例2
誤:The unbalance between the compositions of the combustion residues can cause changes in accuracy and efficiency.
正:The imbalance between the compositions of the combustion residues can cause changes in accuracy and efficiency.(燃料残留物の組成の不均衡は、精度や効率に変化を生じ得る。)
英語の反意語は、「in–」、「im–」、「un–」、「a–」、「an–」、「il–」、「ir–」、「non–」などの接頭辞を加えることで形成することができます。どの単語にどの接頭辞が使われるかは、基本的には言語学的/語源論的根拠があります。しかし、この規則はきわめて多様で、恣意的とも言えます。正しい用法を選ぶには、辞書や用語辞典を活用するのがベストでしょう。
上の誤用例では「unbalance」という単語が使われていますが、unbalanceは動詞として使うのが一般的です(「to unbalance someone(誰かを不安定にする)」)。名詞としては、「imbalance」を使うのが標準的です。
例3
誤:Because of the unstableness of this process, the steady-state condition may vary.
正:Because of the instability in this process, the steady-state condition may vary.(このプロセスにおける不安定性によって、定常状態の条件は変化し得る。)
この誤用例では、「unstable」という語根を名詞にするために「–ness」という接尾辞を加えていますが、動詞としては「instability」を使うのが一般的です。標準的でない形で使われる単語には、このほか「clean」(誤:cleanness、正:cleanliness)、「inaccurate」(誤:inaccurateness、正:inaccuracy)、「intelligent」(誤:intelligentness、正:intelligence)などがあります。間違いやすい単語はほかにもあるので、常に正しい用法を確認するようにしましょう。
5. 複数形の使用(可算名詞と不可算名詞)
英語の細かなニュアンスに慣れていない人がもっともよく直面する壁に、可算名詞と不可算名詞の区別があります。可算名詞とは数えることができるもので、単数形か複数形で表すことができます(例:「sample/samples」、「temperature/temperatures」、「atom/atoms」)。不可算名詞は、集合形式を表す場合に単数形か複数形のいずれかで使われることが多いですが、単数形と複数形の両方が使われることはありません。
不可算形式のみで使われる単語の例:
Information(例:this information is crucial to the subsequent modeling process, [この情報は、その後のモデリングプロセスにとって重要であり、])
Performance(例:the performance of the samples was evaluated [サンプルの性能が評価された])
可算形式を持つが、不可算形式での使用が好ましい単語の例:
Data(「datum」の複数形。この単語は、APAやシカゴ・マニュアル・オブ・スタイルでは単数形での使用が推奨されているが、IEEEスタイルでは常に複数形で使われている)
Research(この単語の複数形「researches」は、動詞として誤認識されることが多いため、単数形での使用が推奨されている)
また、量を示す言葉を使うときに混乱しやすい人もいるようです。離散値を明確に示す単語は、可算名詞として使用しなければなりません。この規則の唯一の例外は測定単位で、数値の後に使う場合は常に単数形で書かなければなりません(例:「3 second」、「4.2 meter」、「6 ampere」、「285 kelvin」、「685 joule」)。
「number 」や「series」といった単語は、それ自体は単数形ですが、文脈によっては複数を意味することがあります。「a number」は、修飾するパラメータによって単数にも複数にもなります(例:「A number of samples were examined(サンプルの数を調べた)」では、「samples」が複数形のため「A number」も複数になる。「A number X is chosen to represent the length of the vector(ベクトルの長さを表すために数Xを選ぶ)」では、変数「X」が単数のパラメータであるため「A number」は単数になる)。「series」は、冠詞「a」を伴うときは常に単数形と見なされます(例:「a series of measurements is obtained(一連の測定値が得られた)」、「these series of values were analyzed to obtain the means and distribution characteristics(平均と分布特性を得るために、これらの一連の値を分析した)」)。
6. コロケーション(連結語句、連語)の誤り
コロケーションとは、よく使われる単語の組み合わせで、自然な英語表現手法として進化してきました。たとえば、「heavy rain(大雨)」や「strong wind(強風)」は連語です。「rain」と「wind」にはさまざまな形容詞を付けることができますが、中でも「heavy」と「strong」はそれぞれの単語ともっともよく組み合わせて使われる形容詞の1つであり、「strong rain」や「heavy wind」という表現は不自然と言えます。
連語は、英語ネイティブには自然に身に付いているものですが、非英語ネイティブは、これらの正しい用法に苦労することが多いようです。以下の例文を、青字に注意しながら読んでみてください。訂正箇所(赤字)は、青で書かれた単語によりふさわしい単語を示しています。
例:
- Researchers should
maintainexercise extreme caution when performing this procedure.(この手順を実行するときは、細心の注意を払わなければならない。) - The device was
constructeddesigned to withstand extreme variations in temperature. (この装置は、極端な温度変化に耐えられるように設計されている。) - Only 40% of the samples showed
entirefull compliance for the required characteristics. (要求特性を完全に満たしていたのは、サンプルのたった40%だった。)
取り消し線で消された元の単語も、文法的・論理的には正しいように思えますが、青字で示された単語と組み合わせると、英語ネイティブには不自然に感じられます。
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単語選びのミスを避けるための7大ヒント
1. 発音や意味が似ている言葉を入れ替えて使えると考えない。
2. 重複表現を避けるためにむやみに類似語を使用しない。誤解を招く文章を書かないようにするためには、それぞれの単語の意味を確認する。
3. 理解のあやふやな単語を使う場合は、意味と用法を辞書で調べる。(標準的な辞書なら、単語の用法を説明するための例文が記載されているはずです。)
4. Oxford Collocations Dictionaryを参照する。(この辞書には膨大な数のコロケーションが掲載されていて、それぞれの用法が例文とともに説明されています。)
5. 論文で使おうとしている文脈における科学・技術用語の用法については、Springer Exemplarを参照する。
6. 単語の用法に関する問題を理解するには、各分野の標準的なスタイルマニュアルを参照する。多くのマニュアルには、混同されやすい英単語や専門用語のほか、特定の単数形/複数形用語の用法に関するガイドラインがまとめられている。標準的なスタイルマニュアルには以下のものがある:
- The Chicago Manual of Style
- The American Medical Association Manual of Style
- The Council of Science Editors Manual of Style
- The American Chemical Society Manual of Style
- The American Psychological Association Manual of Style
- The Institute of Electrical and Electronics Engineers Editorial Style Manual
7. 論文を投稿する前に、スペルチェックと校正を徹底的に行う。
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