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CRISPRの特許を巡り、2つの研究チームが法廷闘争
ゲノム編集技術であるCRISPR-Cas9の特許を巡り、2つの研究チームが激しい法廷闘争を繰り広げています。CRISPRは‘clustered regularly-interspaced short palindromic repeats’の略で、致命的病の治癒や研究室での臓器作成など、様々な応用の可能性があることから、2014年最大のブレイクスルーとの呼び声が高いものでした。
カリフォルニア大学バークレー校のジェニファー・ダウドナ(Jennifer Doudna)氏とヘルムホルツ感染研究センター(HZI)のエマニュエル・シャルパンティエ(Emmanuelle Charpentier)氏の両氏は、CRISPR技術を哺乳類の細胞に応用する特許を申請しました。しかし、米国特許商標庁(USPTO)は、これらの特許がマサチューセッツ工科大学(MIT)ブロード研究所の科学者、フェン・ザン(Feng Zhang)氏に与えられている特許権に抵触すると判断。ザン氏は、すでにCRISPRの利用に関して12件の特許を所有していたのです。
この法廷闘争の主な争点となっているのは、当時カリフォルニア大学に所属していたダウドナ氏とシャルパンティエ氏が特許を申請したのが2013年3月だったのに対し、ザン氏の申請は同年10月であったことです。ザン氏の所属するブロード研究所の要請によって特別緊急審査プログラムが実施されたことで、ダウドナ氏とシャルパンティエ氏の申請が検討される前の2014年4月、ザン氏に特許が付与されました。このためカリフォルニア大学は、特許を審査してインターフェアランス手続きを行うよう米国特許商標庁に依頼し、実際の発明者に正当な特許権を認めるよう求めたのです。
米国特許商標庁は、以前は最初の発明者に特許を付与していました。しかし、2013年から規則が変わり、最初の申請者に特許が付与されることになりました。ダウドナ氏とシャルパンティエ氏は法律の変更前に特許申請を行なっているため、以前の規則に基づいた判断が下される可能性もあります。研究機関同士が特許権を争うことは珍しくありませんが、今回ほど緊迫している例は稀です。デューク大学の法律学者アーティ・ライ(Arti Rai)氏は、「これほど激しい争いは見たことがない」と述べています。
この法廷争いの結果により、多方面に影響が出ることになります。誰が勝っても、特許は商業的利益をもたらします。この技術の商業利用を望む企業は、訴訟に勝った側から特許の使用許可を得なければなりません。実際、CRISPR技術の利用を望む企業は数多く、新治療開発にこの技術を商業利用できると見込んでいる投資家から投資を募っています。例えば、CRISPR技術の利用を望んでいるマサチューセッツ州ケンブリッジのEditas Medicine社は、新規株式公開で1億ドルを集める計画だと発表しています。
米国特許商標庁は、ダウドナ氏側を「先願者」、ザン氏を「後願者」と呼んでおり、一見ダウドナ氏がCRISPRの発明者であるとみなしているようにも受け取れます。しかし、公正な判断が下されるためには、どちらの側も、この技術を最初に発明したのが自分たちであるということを明確に示す証拠を提出しなければなりません。米国特許商標庁は、どちらに特許権があるかを正当に判断するため、特許審判インターフェアランス部のベテラン判事3名による小委員会を設置しました。
幸い、どちらの機関も、基礎研究におけるこの技術の利用を無料としており、今後も変更はない見通しです。誰の手に特許が渡ることになるのか、今後が注目されます。
参考文献:
Bitter fight over CRISPR patent heats up (accessed January 15)
Control of CRISPR, biotech’s most promising breakthrough, is in dispute (accessed January 15)
CRISPR Dispute to Be Decided by Patent Office (accessed January 15)
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