査読者からの「もっと実験をしなさい」という要求は正当か?

査読者からの「もっと実験をしなさい」という要求は正当か?

テクノロジーは科学の速度を大幅に速めています。けれども、過去何十年にもわたり、論文が掲載される速さは遅くなっています。論文が掲載されるまで、数ヶ月から1年はかかります。この遅さの原因の1つとしてよく引き合いに出されるのが、査読者から追加実験が求められることです。著者の主張を証拠によって確実に裏づけることを査読者は意図しているので、こうした要求は理にかなったものですが、多くの場合、すぐれた科学論文がより早く掲載されるのを妨げています。

 

たいていの科学分野において、査読者から追加実験を行うよう求められるのはよくあることです。著名な神経薬理学者のソロモン・スナイダー(Solomon Snyder)氏はジャーナルの査読プロセスが長引くのは、徹底的な実験と文献作成がこのように求められるからであると指摘しています。追加データの収集にはコストと時間がかかるため、こうした要求は研究者が最高のアイデアを発表しようとする気持ちを削いでしまいます。スナイダー博士によると、査読者の示唆を予想し、研究者があらかじめ実験を行うことも時にはあり、それが論文の掲載をさらに遅らせかねない、とのことです。研究者は論文発表という大きなプレッシャーを受けており、査読者が示唆した実験を行うことは、すぐれた研究を世間の目から遠ざけるのと同様に、研究者の経歴に不利な影響を与得る可能性があります。



MITホワイトヘッド研究所の生物学教授であるヒド・プロー博士(Dr. Hidde Ploegh)は彼の論文「査読者実験という破滅的な暴挙を終える("End the wasteful tyranny of reviewer experiments")」の中で、査読者は、実験データをレビューするよりむしろ、結論に対し劇的な影響は与えない実験を計画し、そうした実験を要求することが多いとコメントし、こうした実験を「査読者実験(“reviewer experiments”)」と呼んでいます。また、インパクトが高いジャーナルほど、多くの実験を要求するようだと述べています; ことによると、査読者は、ジャーナルの水準を上げるため追加実験を要求する必要があるのだと思っているのかもしれません。時には、査読者が、投稿された論文の研究の範囲を超えた研究を示唆することもあります。その結果、研究者は、フォローアップ論文でもっとうまく研究されたかもしれない実験を結局行うことになるかもしれません。プロー博士は、追加実験の要求は、何ら科学に重要な利益をもたらすことなく、コストを増やすとも言っています。



科学者にとって、論文掲載は出世の手段です。論文が何回もの査読のやり取りにはまって抜け出せない場合、特に若手研究者が最も大きな被害を受けます。 追加研究が求められると、論文が掲載されるまでの時間や、それぞれの分野で認められるまでの時間が増えるからです。この問題に対する実行可能な解決策は、ジャーナルが査読者に、実験の欠陥や不備を強調するだけにするよう頼むことです。実験がさらに必要ならば、査読者はそう示唆する論理的理由を示さなければなりません。結局のところ、査読者自身も研究者ですから、著者の利益には敏感であるべきです。ジャーナルエディターはまた、実験に対する査読者の示唆をふるいにかけ、それらが正当であるようにすることにより、重要な役割を果たすことができます。



科学はダイナミックな研究の場です;科学的知識を向上させる最善の方法は、新しい概念・理論をできるだけ早く仲間の研究者と分かち合うことです。したがって、ジャーナルは、査読が責任を持って行われるようにするとともに、科学コミュニティにかけるコストが最小限であっても、すぐれた研究が迅速に掲載されるようにしなければなりません。 


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