トランプ大統領にとって科学補佐官の任命は急務
過去20年、歴代の米大統領は、科学補佐官の助言を頼りに、科学政策や科学的専門性を必要とする問題に決定を下してきました。しかし、就任から半年以上が経過した時点で、ドナルド・トランプ第45代大統領は科学補佐官を任命していませんでした。何より懸念されるのは、ホワイトハウスの科学技術政策局(OSTP)に、現在35人の職員しか在籍していないということです。複数の要職が空位のままになっており、科学的専門性を要するいくつもの決定が宙ぶらりんの状態にあります。トランプ氏は、これらの要職を埋めるための明確なアクションを見せていないため、国内の学術関係者は気をもんでいます。科学的専門性を有した補佐官がいなければ、米国は科学的危機に対応することができず、世界における科学技術でのリーダーシップを失ってしまうかもしれません。
ドナルド・トランプ氏の反科学的スタンスは、世界の科学技術をリードする米国の大統領に就任する前から知られていたことです。選挙期間中は、地球温暖化を「エセ科学と捏造データに基づくもの」と発言し、「自閉症は人為的なもの」と主張するなど、学術関係者に衝撃を与えてきました。パリ協定からの離脱や移民の入国禁止の意思を表明したのもこの時期です。これらの発言から、トランプ氏が米国史上もっとも反科学的な大統領になることを多くの人々が予想していました。かくして、大統領就任後の言動は、科学関係者や一般の人々の予想通りとなりました。トランプ政権の入国規制により、多くの外国人研究者が、米国でキャリアを積むことに戸惑いを見せています。就任後初めて提出した連邦予算案では、環境保護庁(EPA)や国立衛生研究所(NIH)などの主要科学機関を対象に、大幅な科学予算の削減を提案しました。また、選挙中の公約通り、パリ協定からの離脱も宣言しました。これらの政策は、科学技術先進国としての立場を大きく揺るがすことになりかねません。
オバマ政権時、OSTPには135人の職員が在籍していました。当時の科学補佐官であったジョン・ホルドレン(John Holdren)氏はこの数について、「オバマ前大統領の科学技術への関心の高さを物語っている」と述べています。35人に縮小された現在のOSTP職員は、科学関連の政策決定時に意見を求められることもありません。重役が不在の今のOSTPは、大統領補佐官の言葉を借りれば、「よりコンパクトで協調的な職員」が、科学、テクノロジー、軍事関連の分野を担っています。しかしながら、この人数では大統領に十分な情報を提供することができないばかりか、政策決定プロセスにおける発言力も弱まっているようです。この状態は、国家に重大な害を与える危険性があると言えるでしょう。
ホルドレン氏はある記事の中で、大統領に直接意見ができる経験豊富な科学者を科学補佐官として大統領に付けることの重要性を説き、政策決定における科学技術の重要性を強調しながら、大統領に対する科学補佐官の主要責務として、以下の3点を挙げています:
1] 妥当な科学的事実を提供する
2] 科学技術に関する政策決定への助言を行う
3] 政府関係者、科学コミュニティ、一般社会に向けて大統領の科学技術政策を示す
大統領は、科学の発展を促す産・官・学の相互関係や、医療関連の政策決定、テロリストが利用しているテクノロジーの把握など、さまざまな課題を検討する必要があります。したがって、優秀な科学技術の専門家のバックアップは不可欠です。
まだ手遅れでなければ、トランプ氏は、経験豊富で、科学について公平な意見を述べられ、OSTPを科学技術のシンクタンクとして復興させる能力を持つ科学補佐官を任命するべきでしょう。米国は、科学への投資、論文出版数、イノベーションにおいて世界をリードしてきた国ですが、確かな情報に基づかない政策決定を行なっていれば、科学の発展は止まってしまいます。このままでは、米国を虎視眈々と追い越そうと狙う中国が科学技術において世界をリードする時代が訪れても、不思議ではありません。
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