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質問: Dr.Eddyのお悩み相談:なぜネガティヴな結果はほとんど発表されないのか?
ジャーナルが論文を喜んで受け入れてくれないのは悲しいことです。ご存知の通り、 出版バイアスや報告バイアス は科学出版の世界では根強く残る問題です。ネガティヴだけど目を見張るような結果(既存の信念に強く異を唱えるもの)だけが発表され、それ以外は無視されてしまいます。どんな分野でもこうした傾向が見られます。その理由はいくつか挙げられます。
たいていの研究者は、あなたとは違い、ネガティヴな発見を発表することにそれほど乗り気ではありません。というのも、ネガティヴな結果は自分たちのスキルのまずさを反映しており、そのことが逆に仕事に悪影響を与えたり、助成金獲得の機会を減らす恐れがあります。そのため、研究者たちは、ネガティヴな結果だけを発表するよりはむしろ、いくつかポジティヴな結果と一緒に発表する可能性があります。さらに、多くの研究者は、時間を費やして仮説が誤っているとなぜわかったか説明する論文を練り上げるよりは、別の方法で事を進めて仮説を実証するほうを選ぶかもしれません。
もう一つ、ネガティヴな結果が発表されにくい要因は、お気づきのように、ジャーナルがネガティヴな結果の掲載を受け入れていないことにあります。これは、効果が生じないしくみと理由を説明するよりも、成果を挙げる結果を掲載したがる傾向 に端を発しています。また、ジャーナルがネガティヴな結果を掲載した論文を不採択にするのは、ジャーナルのインパクト・ファクターを維持・増加させるために必要な引用数を、そうした論文では集められないからかもしれません。
読者がネガティヴな発見に関心を持つかどうか、ジャーナルにははっきりとはわからないのでしょう。それもそのはずで、ネガティヴな結果が、単なる実験上の不備というよりは、実際は仮説に欠陥があるせいで得られたのだと確信するために、エディターはかなりの時間とリソースをつぎ込まなければならないということにもなります。
確証されていない結果を掲載しないと、科学コミュニティは釈然としないままになってしまうかもしれない、というマイナス面があります。やはり、ネガティヴな結果は、有意義な洞察を与えてくれる可能性があるのです。したがって、以下の理由から、そうした結果を掲載するべきだと思います:
- もしネガティヴな結果が掲載されたら、不必要な反復研究が避けられます。研究者は何が見当違いなことかわかりますし、誰かがすでに研究し、誤っていることがわかった仮説に対して時間、労力、リソースを費やさずにすむでしょう。
- ネガティヴな結果はポジティヴな結果に道を譲ることもできます。研究者はネガティヴな結果をもとにし、情報にもとづいた正しい判断をし、確証的な結果が得られそうな他の方法を試すことが可能になります。1つ意義深い例として、アインシュタインの相対性理論が挙げられます。相対性理論は、19世紀の物理学者アルバート・マイケルソンとエドワード・モーリーが行った一連の実験で得られたネガティヴな結果から生み出されました。実験は、安定した「発光エーテル」あるいは「エーテルの風」を通して物質の相対運動を発見するため、実験を行いました。実験結果は、当時一般に認められていたエーテル理論に異議を唱えるものでした。
出版業界の現在の状況を見ると、画期的な成果を収めたインパクトの高い論文を掲載するため、研究者の間でもジャーナルの間でも熾烈な競争が行われています。その結果、確認されていないデータが載っている論文より、確証されたデータが載っている論文が注目されることになります。ネガティヴな結果に対する科学コミュニティの見方に変化がもたらされる必要があります。大学、資金提供委員会、企業が、ネガティヴでも重要な結果の発表を支援してくれたら助かるでしょう。これにより、研究者も自分たちの研究のネガティヴな結果を伝え、科学の進歩に役立てることができるようになるでしょう。
肯定的な見方をすると、科学コミュニティにはあなたのように、成功を収めたすべての仮説の裏に、成功しなかった実験や仮説があることが多いとわかっている人もいます。
失敗に終わった実験を科学コミュニティに伝えるため、Journal of Negative Results in Biomedicine、PLOS ONE、The All Results Journals などのジャーナルではネガティヴな結果の掲載を研究者に勧めています。こうしたジャーナルの1つに論文を投稿してみてはどうでしょうか。
追試の掲載が稀である理由とは?も読まれたら、興味をもたれるかもしれません。