研究不正の責任を負うのは、第一著者か最終著者か
研究コミュニティは今、研究不正という差し迫った課題に直面しています。科学研究における不正行為は、科学界の評判を傷付けるだけでなく、その他の領域にも影響を及ぼす問題です。政策立案者は、科学研究を政策決定の判断材料としており、一般の人々も、科学研究に基づいて日々の生活における意思決定をすることがあるからです。研究不正を見破ることは容易ではありませんが、複数の著者が連名で論文を執筆する共同研究が当たり前になっている昨今、不正を働いた人物を特定することは、一層難しくなっています。学術界には、「共著論文の不正行為の責任は、誰が負うべきか?」という問題が突きつけられているのです。
一部の研究者たちは、研究不正に責任を負うのは、第一著者であると考えています。そうした考えは、Plos Oneに掲載された論文「 Scientific misconduct and accountability in teams(科学不正のチームとしての責任)」でも支持されており、この論文では、「第一著者が研究不正を行う可能性が高い」と結論付けられています。この研究では、米国研究公正局による80件の研究不正事例に関する報告書(1993~2014年)を分析。その結果、研究不正を行なった第一著者の割合は、ほかの著者より38%も高く、責任著者(コレスポンディングオーサー)が研究不正を行なった割合は、ほかの著者より14%高いことが分かりました。
しかし、学術界には、異なる意見を表明するグループも存在します。国際医学雑誌編集委員会(ICMJE)や国際科学編集者会議(Council of Science Editors、CSE)などの団体が提供するガイドラインでは、「研究者は自分が貢献した部分にのみ責任を負うべき」と述べられています。一方、出版規範委員会(COPE)やAll European Academies(ALLEA)などの機関は、「研究不正の証拠が明らかになった場合は、すべての研究者を調査対象とするべき」と主張しています。
この2つの考え方を踏まえ、Plos Oneで出版された論文の著者でルクセンブルク大学戦略・組織学教授のカトリン・ハッシンガー(Katrin Hussinger)氏と、アントレプレナーシップの専門家でゲント大学客員教授のマイケル・ペレンズ(Maikel Pellens)氏は、研究不正への責任について、「科学的正確性を保証する著者を一人、決めておく」という第3の考え方を提唱しています。論文では、「第一著者にあらかじめ研究不正の責任を負わせる保証人制度のようなモデルを導入することで、不正行為者を見過ごす可能性がおおいに低下し、第三者を無為に巻き込むこともなくなる」と述べられています。
この提案には、科学界からさまざまな反応がありました。テネシー大学の物理化学者で研究倫理学者のジェフリー・コヴァチ(Jeffrey Kovac)氏は、Chemistry World誌の記事で、保証人モデルは「最良の選択肢」と述べながらも、無実の共同研究者が、見破り難い不正行為を行なった共同研究者に保証人に仕立て上げられてしまう危険性に懸念を表明しており、「研究不正の疑いがある場合は、責任が誰にあるのかを特定するために、チーム全体を調べるのが重要」と述べています。ロンドン・スクール・オブ・エコノミクスの研究者、ダニエレ・ファネッリ(Daniele Fanelli)氏は、コヴァチ氏の指摘に賛同しつつ、「誰かの不正行為に対して、ほかの人に責任を負わせるということは、法的にも倫理的にも支持できない」と付け加えています。
エディンバラ大学の神経科学者、マルコム・マクラウド(Malcolm Macleod)氏は、この意見を踏まえ、「第一著者の不正行為に気付いているはずの最終著者(シニアオーサー)または責任著者は、不正行為を行なったも同然であり、責任を取るべき」と主張しています。
あなたは、研究不正があった場合、チーム全体の不正行為として第一著者が責任を取るべきだと思いますか?また、研究不正を行なった人に責任を負わせる最良の方法は何だと思いますか?皆さんからのコメントをお待ちしています。
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