「いつかは乗り越えられる」―ある医師が見たパンデミック

「いつかは乗り越えられる」―ある医師が見たパンデミック

新型ウイルスの出現を報じるニュースを初めて聞いたときのことは、今でも覚えています。そのときは、すぐに収まるだろうと思って気にも留めず、まさか自分の国(バングラデシュ)まで影響を受けるとは想像もしませんでした。世界中の多くの人々と同じく、バングラデシュの人々も、大丈夫だという根拠のない安心感を持っていました。この国の政策決定に関わっている医師の一部も、当初は「パニックになる必要はない」と言っていましたが、私は新型コロナウイルスに関する情報をインターネットで集め始めることにしました。


医師である私にとって、後にこの情報収集が役立つことになります。2月に入ってもこの危険なウイルスに対応する準備は整っていませんでしたが、情報を集めておいたおかげで、ソーシャルディスタンスを保つことが感染拡大の抑制に必要であることは認識できていました。


3月になると、バングラデシュで初の感染者(海外渡航者)が確認されましたが、国内の準備はまだほとんど整っていませんでした。PCR検査施設は首都ダッカに1ヶ所あっただけで、私の住むチッタゴンには、接触者追跡やPCR検査はおろか、感染者を治療するための施設もありませんでした。そうこうしている間に、感染者が増え始めます。


イタリアでの爆発的な感染拡大が報じられる中、イタリアや中国に滞在していたバングラデシュ人たちが帰国し始めましたが、彼らは正式な隔離施設がないことを理由に、隔離を拒否しました。


チッタゴンでは医師グループが連携し、コロナウイルスに関する知識を深めるとともに意識を高めるための活動を始めました。私自身は、Chittagong Medical College Teachers Associationが主催する個人用防護具(PPE)の正しい使い方についてのトレーニングを3月下旬に受けました。WHOが新型コロナウイルスのパンデミックを宣言したのはその頃です。


バングラデシュの保健当局は、このパンデミックから逃れる術がないことを4月になってようやく悟り、全国での無期限のロックダウンを決めました。教育機関は閉鎖を要請されましたが、病院は外来患者の受け入れを制限する形で開き続けることになりました。


私が勤める病院は、当初はコロナウイルス感染者に対応していませんでしたが、政府からのすべての私立病院に対する新型コロナウイルス感染者の受け入れ要請を受け、新型コロナウイルス対応班を起ち上げました。


私はメディカルカレッジ病院の職員兼コンサルタントだったので、入院患者のケアのために病院に行く必要がありました。このウイルスが何ヶ月にもわたって中国、イタリア、米国、ブラジルなどで人々の命を奪い続けていることを考えると、病院に行くのは恐怖でした。新型コロナウイルスは未知のウイルスであるというだけでなく、感染力が非常に強いということも恐怖感を高めました。しかし、チッタゴンでも感染者が増え始めていた中で、怖がってばかりいるわけにはいきませんでした。私は夜間の空いた時間を使い、相談やサポートが必要な患者向けにオンライン診療を始めることにしました。


病院スタッフとの定例会議では、感染者への対応について話し合う機会を設けました。個人的には、知識をアップデートするためにさまざまなウェビナーに参加しました。


当院の感染患者は日に日に増え続け、ついには一般病棟でも感染患者を受け入れることを余儀なくされました。研修医や医療スタッフも何人か感染しました。一般病棟の入院患者は、PPEの配布や感染患者の隔離を求め始め、当院の患者管理は限界に達しようとしていました。


ついに医師の1人も感染し、重い症状が出ました。彼には特別な治療が必要でしたが、新型コロナウイルスに特化した治療環境や隔離病棟は、当院ではその時点でまだ完成していませんでした。個室に隔離してできる限りのケアをしましたが、症状は悪化するばかりだったので、本格的な治療ができる政府管轄の病院に転院させることにしました。しかしその数日後、努力もむなしく、彼はウイルスに屈してしまいました。彼の死は、私たち医師や医療スタッフに深い悲しみと大きな不安をもたらしました。


5月の終わりになって、ようやく新型コロナウイルス感染者のための隔離病棟の準備が整いました。私は数名のスタッフと共に、この病棟を担当するコンサルタントに任命されました。


6月の最初の週から隔離病棟で患者を受け入れ始めましたが、ベッドは初日に埋まりました。病院は、私を含むコンサルタント数名と医師3名と医療スタッフをこの病棟の担当に任命し、それぞれが月に10日ずつこの病棟で勤務する態勢を整えました。


早朝から病院に行き、PPEを着用してその日の勤務を始めるのですが、息苦しいN95マスクを着けながら、なんとか自分の担当日を務めました。6月の終わりになると、全国の感染者数に対するチッタゴンのベッド数はほぼ限界に達しました。7月上旬の新型コロナウイルス感染者数は、国内で15万人以上、チッタゴンで1万人以上に達していました。幸いだったのは、その頃にはほかの私立病院も感染者の受け入れを開始していたことです。そして、私たちにはその先陣を切ったという自負がありました。


感染者を診るたびに学ぶことがあり、今は自信を持って治療に当たることができています。当院では新型コロナウイルスによる致死率を低く抑えられており、患者は私たちが提供する治療やケアに満足しています。


新型コロナウイルスは、バングラデシュを含む全世界が初めて経験するものであり、学ぶべきことがたくさんあります。適切な治療法やワクチンの開発に向け、さまざまな研究や実験が進行中です。効果が定かでない治療薬に関する情報を目にすることもあるので、最新情報を注視しつつ、無益な情報は排除しなければなりません。私たち医師は、その責務を全うし、良質で不可欠なヘルスケアを提供するために、ウェビナーに参加するなどして最新情報を入手し続けなければなりません。


パンデミックによって私たちの世界は混乱に陥り、ロックダウンや恐怖感や不安感が人々の生活を脅かしています。しかし、中国やベトナムが事態を収拾しつつある状況を見ると、私の中に希望が生まれます。私たちの国も、いつかはこの困難を乗り越えられると信じています!

学術界でキャリアを積み、出版の旅を歩もうとしている皆様をサポートします!

無制限にアクセスしましょう!登録を行なって、すべてのリソースと活気あふれる研究コミュニティに自由に参加しましょう。

ソーシャルアカウントを使ってワンクリックでサインイン

5万4300人の研究者がここから登録しました。