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非倫理的行為の事例―査読中の論文を取り下げ、別の学術誌に投稿する際の注意点
<事例> 論文の編集・校正をエディテージに依頼した著者から、適切な投稿先を選ぶ手助けをしてほしいという連絡がありました。こちらで二誌を提案したところ、著者は両誌に問い合わせをしました。一誌(A誌)からは、2、3日のうちに、論文に興味を示す返信がありました。インパクトファクターが高いもう一誌(B誌)からの返事はありませんでした。1、2週間待った後、著者はA誌に論文を投稿しました。
約二か月後、著者はB誌から、「研究論文に興味がある」との返信を受け取りました。著者はとても喜び、B誌の方がインパクトファクターが高いので、A誌に投稿した論文を取り下げてB誌に投稿したいと考えました。このとき、A誌に投稿した原稿は、投稿論文追跡システムによると、一ヶ月以上「査読中」が続いている状態でした。エディテージは著者に対し、この段階で論文を取り下げることは出版方針規定に反すると伝えました。しかしこの警告を無視し、著者はエディテージには黙ってA誌に論文取り下げの手紙を送付し、B誌に原稿を投稿しました。
一方、A誌の編集者は、査読がほぼ終了しているため、査読者の努力が無駄になってしまうので、論文取り下げ要請は受け入れられないとの返事を著者に送りました。編集判断として、取り下げ要請は受け入れられないと記されていました。その後まもなくA誌から、論文が掲載拒否されたとの通知がありました。著者は、これで論文がB誌に受理されても事態がこじれることはないと考えて、安心しました。
しかし、それからしばらくして、B誌の編集者から著者に、論文が掲載拒否された旨の通知がありました。「二重投稿」(duplicate submission)あるいは「並行投稿」(concurrent submission)が、掲載拒否の理由です。著者は、「B誌への投稿前に、A誌に論文の取り下げ要請を送付している」と返信しました。しかし、A誌が取り下げを承認することを示すものがなかったため、その説明は受け入れられませんでした。
この時点で著者はエディテージに再び連絡して全ての状況を説明し、論文を修正してA誌に再投稿するための支援を依頼してきました。
<対応> エディテージは、著者の行為が以下の二点において非倫理的であったことを説明しました。
1. 査読がほぼ終了した編集プロセスの最終段階に近い時点では、A誌からの論文取り下げは受け入れられない。
2. A誌から取り下げの承認が得られる前にB誌に原稿を投稿することは、倫理的に容認されない行為であり、二重投稿または並行投稿にあたる。
我々は、同じ学術誌に投稿することに懸念があることを伝え、別の学術誌に投稿することを勧めました。しかし、著者は時間の節約になると信じ、A誌に再投稿したいと主張しました。そこでエディテージは、論文を修正して新たな論文として再投稿してもよいかを尋ねる、A誌への謝罪の手紙を書くことを手伝いました。
しかし、A誌の編集者からの返信は、この著者のいかなる原稿も、今後3年間は同誌に投稿することを禁じるとするものでした。我々として著者に言えるのは、査読者の時間を無駄にしたのだから、編集者に制裁措置をとられても仕方がないということでした。
<まとめ> 査読開始後に著者が論文を取り下げることは、止むを得ない理由がない限り、許されない行為です。査読者は忙しい中、科学の進歩のためだけにこの無償サービスを行なっているのです。査読者の時間を無駄にすることは倫理上認められず、編集判断プロセスの悪用にあたります。
著者は、インパクトファクターの高い学術誌から出版したいがために、許されない行為をしてしまうことがあります。このような問題を避けるため、著者は、論文取り下げの手続きに関する次のような注意点を忘れないようにしましょう。
1. 取り下げは、原稿上の間違いや欠陥に気づいたときのみに限ることが理想的である。
2. 取り下げが必要な確固たる理由がある場合、取り下げの理由を記した申請レターを、著者全員の署名入りで編集部宛てに送る。
3. 取り下げプロセスは、学術誌の編集部からの取り下げ承認をもって、完了したとみなされる。
4. 取り下げが承認されたら、その原稿IDを学術誌の原稿投稿システムで利用しない。
5. 別の学術誌に受理されたという理由で論文を取り下げることは許されない。
6. 取り下げ理由に強力な根拠がある場合を除き、査読開始後の原稿取り下げは容認されない行為である。
7. 容認できない取り下げ行為が行われた場合、学術誌は、取り下げ方針に従って罰金あるいは投稿禁止などの制裁措置を加えることができる。
8. 取り下げ方針は通常、学術誌のウェブサイトに掲載されている。著者は、取り下げ要請を送る前にこれらの方針をよく読む必要がある。
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