「再現性の危機」― 検証プロジェクトで浮き彫りに
Reproducibility Project: Cancer Biology(再現性検証プロジェクト: がん生物学)が、最初に再現を試みた5本の論文についての結果を発表し、生物学界に嵐を巻き起こしています。eLife誌に掲載された今回の結果は、再現に成功したのは5本中2本だけで、残りの1本は再現不可能、2本は「解釈不能な結果」というものでした。
出版論文の再現を試みたのは、同プロジェクトが初めてではありません。2012年には、バイオテクノロジー企業のアムジェンが、がん研究に関する画期的な研究論文53本のうち、47本の再現に失敗したことを報告しています。この取り組みに触発されたScience ExchangeとCenter for Open Science が主体となって、再現性検証プロジェクトが発足しました。同プロジェクトは、2010~2012年に出版された前臨床段階にある影響力の大きい論文29本の再現性の検証を目的としています。また、アムジェンのプロジェクトとは異なり、再現性検証プロジェクトによる結果は無料で公開されます。
今回のプロジェクトで検証された論文とその結果を、以下に紹介します:
- 再現に成功した論文:
「Discovery and preclinical validation of drug indications using compendia of public gene expression data」スタンフォード大学計算生物学者、アトゥル・ビュート(Atul Butte)氏ら
「BET Bromodomain inhibition as a therapeutic strategy to target c-Myc」ダナ・ファーバーがん研究所、コンスタンティン・ミトシアデス(Constantine Mitsiades)氏ら
- 解釈不能な結果に終わった論文:
「 Melanoma genome sequencing reveals frequent PREX2 mutations」ダナ・ファーバーがん研究所、ペタル・ストヤノフ(Petar Stojanov)氏ら
「The CD47-signal regulatory protein alpha (SIRPa) interaction is a therapeutic target for human solid tumors」スタンフォード大学幹細胞生物学者、アーヴィン・ワイズマン(Irving Weissman)氏ら
- 再現不可能と断定された論文:
「Coadministration of a tumor-penetrating peptide enhances the efficacy of cancer drugs」サンフォードバーナムプレビス医学研究所(カリフォリニア州)がん生物学者、エルキ・ルースラーティ(Erkki Ruoslahti)氏ら
同プロジェクトは、出版論文の方法論の詳細が不足していることを明らかにでき、また表面的な結果を鵜呑みにしないよう研究者を啓発できるとして、生物学者をはじめとする多くの研究者が支援を表明しています。一方、生物学研究は複層的に込み入っているため、再現が極めて難しいということを強調する研究者もいます。そうした研究者は、再現実験に失敗した研究が永久に再現不可能なものとして扱われることに懐疑的な見方を示しています。同プロジェクトのアドバイザーを務めるスタンフォード大学(カリフォリニア州パロアルト)の疫学者ジョン・イオアニーディス(John Ioannidis)氏は、今回の結果を次のように総括しています。「分かったのは、再現性の問題が確かに存在するという事実です」。
参考資料:
Rigorous replication effort succeeds for just two of five cancer papers
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