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若手研究者たちの困難とニーズ:SSPによる調査結果の概要
学術界は競争の激しい世界であり、若手研究者はキャリアを切り開く過程でさまざまな困難に直面します。学術界の未来を背負って立つ彼らに対して、同じ業界の人々はそのニーズや困難を理解し、解決を支援していくことが重要です。
そのような中で、学術出版界のあらゆる領域でコミュニケーションの推進と発展を図る非営利組織、Society for Scholarly Publishing(SSP)が、キャリア10年未満の若手研究者を対象としたアンケート調査を実施しました。この調査の主眼は、若手研究者たちの不安の声を拾い上げ、彼らが専門家として成長していくためには何が必要かを学術界で共有できる基盤を構築することです。
SSPのProfessional Development Committee(専門能力開発委員会)の分科であるEarly Career Subcommitteeが実施した34項目のアンケートに対し、507名から回答が得られました。回答者の平均年齢は30歳で、実務経験の年数は40%が2~5年でした。アンケートでは、学術界での経験、能力開発、所属先での待遇に関する質問が行われました。調査の結果は、2016年6月にバンクーバーで開催されたSSPの第38回年次大会で、「Sharing the Future Voices…(未来の声を分かち合う)」と題して発表されました。重要な結果をいくつか見ていきましょう:
1. 若手研究者の46%が、もっとも手強い問題は「自分の適切な役割をみつけること」だと回答しています。続いて多かった回答が、「適切なキャリアパスをみつけること」(42%)、「適切な所属先をみつけること」(33%)
2. 若手研究者は、自分が就きたいポストについて明確な考えを持っているのでしょうか?調査では、40%が「たまたま希望のポストに就けた」、または「求人検索で自分のスキルに合う求人が表示されたので希望のポストに就けた」と回答しています。また、出版に関わる仕事に就くことにこだわっている若手研究者はわずか26.2%でした。
3. ソーシャルメディアやオンライン上には学術界に関する情報が大量に見られますが、驚くことに、これらは若手研究者にとっての主な情報源ではないことが分かりました。78%が、同僚や仲間に解決策や情報を求めると答えています。一方で、もっとも多く利用されているソーシャルメディアは、LinkedIn、Twitter、Facebookという結果でした。
4. 学術界の動向を知ったり学んだりするためのもっとも有効な手段として挙げられたのは、ウェビナー(Webinar)でした。69%が「一度は学術関連のウェビナーに参加した経験がある」と答えており、72%が「所属先が会合などの交流イベントへの参加を支援してくれた」と回答しています。これは心強い結果です。とは言え、キャリアの初期段階にある若手の育成支援は、今後さらに充実させていくべきでしょう。
5. マネジメントや人脈作りの訓練は、キャリアの形成に欠かせないものですが、「業界トレンドに関する継続的な教育」を行なっている雇用者はわずか32%でした。調査結果によると、マネジメント教育を行なっている雇用者は20%、人脈作りの教育訓練を行なっている雇用者はわずか6%でした。
若手研究者は、対処すべきことがたくさんある中で、雇用者や指導者から十分な支援を受けられていないのが現状です。SSPのEarly Career Task Forceで共同座長を務めるマット・クーパー(Matt Cooper)氏は、「若手研究者たちが日々を過ごす職場では、個別のより広範な能力開発や教育は見過ごされがちです」と述べています。学術出版と学術コミュニケーションの明るい未来のためにも、次世代の研究者たちが最低限の負担でキャリアを積んでいける環境作りにより力を入れるべきでしょう。
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