ジャーナル・出版社・学会がソーシャルメディアですべきこと、すべきでないこと
本記事の前半では、ジャーナル/出版社/学会がソーシャルメディアを活用することのメリットを紹介しました。今回は、オンラインのインフォグラフィック作成ツール「Visme」の創設者であるペイマン・タエイ(Payman Taei)氏に、学術コミュニケーションの場で影響力を発揮して評価を得るためのソーシャルメディアの正しい活用法について伺いました。
人々は、あらゆる情報をソーシャルメディアに投稿しています。ソーシャルメディアは、今の私たちにとってもっとも身近なコミュニケーションツールです。1対1の会話では口が裂けても言わないようなことが、Facebook、Twitter、Instagramでは日常的に拡散されています。
私たちのごく身近にあるソーシャルネットワーキングは、自分たちの行動に自覚的な学術誌や出版社にとって、ブランディングやビジネスの大きなチャンスとなっています。「ソーシャル」なアプローチを導入する学術団体は増える一方で、とくにTwitterやFacebook、LinkedInなどのプラットフォームで自らの存在感を高めています。
ソーシャルメディアでのアピールは、非常に強力で露出度の高い手段である分、慎重に進めないと簡単に罠にはまり、過ちを犯してしまう危険があります。ソーシャルメディアでの過ちはリアルタイムで起こり、わずか数秒で世界中の人に知れ渡ってしまうこともあります。だからこそ、ソーシャルメディア戦略を立てる際は、重要な指針を念頭に置いておく必要があります。
1. 宣伝するのではなく、語りかける:オンラインマーケティングのためのマーケティング戦略の一環に過ぎないという前提でソーシャルメディアを利用するのは、もっとも大きな間違いの1つです。ソーシャルメディアの本質は、関係性のマネジメントにあります。したがって、出版論文の宣伝をするためだけに利用することは、避けるべきでしょう。そのような露骨なマーケティングは、単調になりがちで、読者もうんざりしてしまうからです。さまざまなタイプの情報を発信し、読者が関心を持っている話題は丁寧に扱いましょう。たとえば、オープンアクセス(OA)を話題にする場合は、自社のOA出版ルートの宣伝をするだけでなく、OA出版に関するブログ記事の紹介や、OAに対する自分たちの考え方をシェアします。フォロワー(著者、査読者、一般の人々など)は、このような投稿により大きな関心を持ちます。
2. さまざまなフォーマットでのコンテンツ発信を試みる:好例は、インフォグラフィックです。Vismeは、インフォグラフィックがソーシャルメディアでいかに効果的かを主張しています。インフォグラフィックは、見映えの良いビジュアルフォーマットにさまざまな情報を分かりやすくまとめたものです。しかし、ただインフォグラフィックをソーシャルメディアで発信すれば良いというわけではありません。自社製品やサービスの宣伝として単にインフォグラフィックで飾るのではなく、フォロワーたちがどのような会話をしているかに注目し、求められている情報に沿って、どのようなインフォグラフィックを提供すべきかを検討しましょう。
重要:FacebookやTwitterなどのプラットフォームでは、マウスを数回クリックするだけで、読者に関するさまざまな情報をほぼ無制限に得られます。(私が創設した)Vismeのようなツールを駆使してインフォグラフィックを作成する場合は、このような背景情報を判断材料にしましょう。
ソーシャルメディア戦略を実行する際は、インフォグラフィックありきで読者にアプローチするのは避けましょう。これでは本末転倒だからです。まずは、読者に目を向けましょう。その上で、「自分ならどのような疑問に答えられるか? 作成したインフォグラフィックでどのような問題を解決できるか?」と自問してみましょう。
この、ささやかながらも重要な視点の違いが、ソーシャルメディアで支持されるインフォグラフィックになるかどうかを左右します。
3. さまざまなフォーマットでコンテンツをシェアする:インフォグラフィックだけにこだわることなく、さまざまなフォーマットを試しましょう。ソーシャルメディアでの研究関連の情報発信に効果的なその他のフォーマットには、レイ・サマリーと動画アブストラクトがあります。レイサマリー(lay summary)とは、一般的な言葉を使って研究を分かりやすく簡潔にまとめたものです。動画アブストラクトは研究を視覚化したもので、動画というフォーマットはオンライン上での関心を集めるのに効果的です。読者の関心を引きやすいという意味では、SlideShareによるプレゼンテーションも効果的な視覚情報です。どのようなフォーマットであれ、発信できるコンテンツは、すでに自分が発表しているものか、自作のものに限ります。あるいは、自分がおもしろいと感じた関連コンテンツをシェアすることもできます。大切なのは、情報を伝えながら引き込めるようなコンテンツマーケティング戦略を敷くことです。
4. 「流行」に便乗しない:学術誌や出版社がソーシャルメディアで犯しがちなもう1つの大きな間違いは、自分たちを流行りのイベントに無理やり結びつけようと必死になってしまうことです。
この種の過ちは小さなものかもしれません。しかし、Twitterで流行中のハッシュタグを利用して露骨な自己宣伝ツイートをするのに夢中になれば、「自分たちの売上のためにソーシャルメディアを利用しているだけ」という印象を読者に与えてしまいます。最悪の場合、最近では毎日のように見られる「炎上」状態を招き、自分たちのイメージに大きな傷を付けてしまうことになるでしょう。
自分たちの出版社/学会を流行のイベントに結びつけようとするなら、前もって検討すべき重要なポイントがあります。まずは、「自分の出版社/機関/助成団体は、利用しようとしているトレンドと関連があるか?」という点をじっくり検討しましょう。答えが確実に「いいえ」の場合、その話題からは距離を保つのが賢明です。次に、その話題に触れたとして、「その情報は読者にとって興味深く有用なものか?」を検討しましょう。たとえば、オープンアクセスウィークのように、すでに大勢の関心を集めている大規模なグローバルイベントに触れれば大きな反響が期待できますが、先述の問いの答えが「いいえ」なら、その労力は別のことに向けた方が良いでしょう。
5. 下調べをする:ソーシャルメディアで自分の存在感を確立・維持するには、時間と労力、前向きな姿勢、クリエイティブセンスが必要になります。ソーシャルメディア・プラットフォームでの情報発信を始める前に、プラットフォームやほかのジャーナル/研究者の投稿について調べ、自分たちの出版物や組織の特徴を知り、ターゲットとする読者層を把握しましょう。とは言え、下調べばかりしていても先へ進めません。ときには、実際に情報を発信してみて、必要に応じてアプローチを変えるというやり方も大事です。
6. タイミングが重要であることを知る:何をするにしても、タイミングはきわめて重要です。それは学術出版でも同じです。学会やグローバルイベント、主要学会などの大規模イベントの情報を、常にキャッチしておく必要があります。また、フォロワーたちがもっとも活動的な時間帯も把握しておきましょう。たとえば、アジアの研究者に向けた情報を発信する場合は、その人たちがリアルタイムで情報を見られるタイムゾーンを選択しましょう。最適な投稿頻度も見極める必要がありますが、それは投稿を繰り返すうちに見つかるでしょう。毎日4回ツイート/投稿する出版社もあれば、1回しか行わない出版社もあります。
7. 最適なプラットフォームを見つける:成功しているビジネス/マーケティングの専門家たちは、30~75%の時間をソーシャルメディアに費やしています。学術出版社や学会も、どれくらいの時間をソーシャルメディアに当てるかを決める必要があります。この時間を使って、各種ソーシャルメディア・プラットフォームへの理解を深め、それぞれがどのような機能を果たすのかを把握します。Facebookは小売業や飲食業などのBtoC業界に適したプラットフォームですが、Natureのような学術出版社もFacebookを巧みに活用しています。Twitterは幅広い情報発信が可能で、利用者は世界のほぼ全域にいます。実際、多くの学術誌/出版社/企業/サービスプロバイダー/研究者/学術出版に関心を持つその他大勢の人々が、Twitterを利用しています。視覚情報が豊富な場合は、TumblrやPinterestのようなプラットフォームが適しているでしょう。研究者や出版の専門家とつながりを持ちたい場合は、LinkedInを利用しましょう。LinkedInは、編集者や査読者などの募集にも利用できます。
ほかにも、特定の分野に特化したサイトは数多くあります。プラットフォーム選びで考慮すべき重要な点は、ターゲット層のプラットフォームへのアクセシビリティです。たとえば、中国の研究者はTwitterにアクセスできない可能性があります。つまり、中国の学術コミュニティに情報を発信したいなら、彼らがアクセスできる媒体を使わなければならないということです(例:WeChatなど)。また、2つ以上のプラットフォームを使って各サイトで自分たちの存在を示し、コネクションを築いている出版社も珍しくありません。
誰もが学びの途中
とは言え、ソーシャルメディアは比較的若いコミュニケーション・プラットフォームであり、現在も変化し続けています。
2007年にFacebookが登場したとき、このプラットフォームが後に米国の大統領選の結果に影響を及ぼすほどの存在になるとは、誰が予想したでしょうか。このように、ソーシャルネットワーキングは成長と進化を続けています。同様に、これらのネットワークにおける出版社と著者の関係も、変化し続けるべきなのです。つまり、間違いを許容すること、間違いは避けられないものだと認めることを含めて、半永久的な学習曲線を描いていく必要があるということでしょう。
とはいえ、ソーシャルネットワーキングを正しく理解し、ベストな利用法を知り、FacebookやTwitterで交流する際に適切なスタート地点に立てているかどうかを常に意識していれば、ソーシャル時代にしか起き得ない、キャリアを台無しにするような失敗は避けられはずです。皆さんのジャーナル/出版社/学会が、良好なソーシャルメディア戦略を構築できることを願っています。
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