ピアレビュー・ウィーク2021を振り返って
「査読」は、議論に値する魅力的なトピックであり、査読について話し合うピアレビュー・ウィークは、参加者側も主催者側も自分たちの考えを発信しながら多様な意見に触れられる貴重な機会です。
ピアレビュー・ウィーク2021では、「査読におけるアイデンティティ」というユニークなテーマで議論が繰り広げられました。つかみどころがなく多面的なこのテーマを前に、準備段階ではずいぶん頭を悩ませました。
先入観を持たずにこのテーマに向き合い、さらに共感を得るためにはどうすべきかを何度も話し合った結果、なんとか満足の行く計画が練り上げられ、最終的には世界中から4,500人もの学術関係者の皆様にご参加頂きました。この機会にイベントを振り返り、学んだことや気づいたことをあらためて振り返ってみたいと思います。
・ さまざまな角度から
イベント期間中の5日間、ピアレビューにおけるアイデンティティについて毎日異なる角度からトピックを立てて探求しました。【トピック:査読における多様性、査読における共感、査読における専門性、査読における包摂性、査読におけるアイデンティティの影響】
・ 多様な視点を
今年のテーマをふまえ、多様な視点をバランス良く維持したいと考えました。今回のイベントでは、10人のゲストスピーカーと15人を超えるゲスト寄稿者にご参加頂き、さまざまな地域、領域、セグメントを代表する声に耳を傾けました。
・ 多彩なフォーマットで
オリジナル記事や専門家へのインタビュー記事を公開したほか、日替わりのウェビナー、特典としてのハンドブックの配布などを行いました。
以下は、実施したウェビナーと公開記事の概要です。
ウェビナー
1. 「査読におけるアイデンティティ」―著者、査読者、ジャーナルそれぞれの視点
DAY 1: 2021年9月20日
パネリスト:
Dr. Michael Willis氏(Wiley/研究者の代弁者: Researcher Advocate)
Dr. Rajyashree Sundaram氏(産業技術総合研究所/研究員(Staff Research Scientist)
Dr. Yufita Chinta氏(北海道大学/研究者)
査読にまつわる個人的な経験談と、査読をより包括的で公平なものにするために著者、査読者、出版社に期待することについて語って頂きました。
DAY 2: 2021年9月21日
スピーカー: Dr. Erin Owens氏(サム・ヒューストン州立大学(米国)ニュートン・グレシャム図書館、教授/アクセスサービス・コーディネーター/学術コミュニケーション図書館員)
大変好評のウェビナーでした。査読コメントは著者にどのような影響を与えるか、また、査読者と著者が互いに共感することで査読体験の効果をどう高められるかについてお話頂きました。
DAY 3: 2021年9月22日
パネリスト:
Dr. Stefano Colafrances: イースタン・メノナイト大学助教
Dr. Jo Røislien: スタヴァンゲル大学教授(健康科学部 医療統計科)
若手研究者や査読経験の少ない査読者は、実際の査読がどのように行われているのかに興味を持っています。査読依頼を引き受けてから実際に査読を行うまでの流れ、査読者としての自覚を養う方法、その自覚が査読の仕方に与える影響などについてお話し頂きました。
DAY 4: 2021年9月23日
パネリスト:
Dr. Thomas Agbaedeng: アデレード大学(オーストラリア)保健医療科学部ポスドク研究員
Dr. Asli Telli: ジーゲン大学 (ドイツ)研究員
若手研究者は将来の査読者候補ですが、必ずしも査読の機会や適切なトレーニングが得られるとは限りません。若手研究者が査読にどのように貢献し、科学の発展に寄与できるかについて、意見が交わされました。
5. 「あなた」であることは、査読の仕方にどのような影響を及ぼしているか?
DAY 5: 2021年9月24日
パネリスト:
Lou Peck: 著述家、CILIP Cymru Wales Committee会長、ALPSP会員(マーケティング部門代表)、The International Bunch社CEO
Dr. Aileen Fyfe: セント・アンドルーズ大学(英国)教授(近代史)
大変刺激的なウェビナーでした。査読におけるアイデンティティについて、その影響を認識し、受け入れ、査読をより共感的・包括的・公平なものにするためにアイデンティティを前面に出す必要性について議論が交わされました。
公開記事
エディテージ・インサイトの記事でも、査読におけるアイデンティティについてさまざまな角度から検討しました。査読における多様性が科学にとって重要である理由について研究者に意見を求め、査読者の地域的な多様性に焦点を当て、辛口な査読に対処するための実践的なヒントもご紹介しました。また、個人のアイデンティティは査読に影響するか?という問いについて3名の研究者に見解を伺いました。この問いは、査読における客観性の維持を考える際の重要なポイントです。
また、Learned Publishing誌編集長のPippa Smart氏と、Hindawi社リサーチ・エンゲージメント・マネージャーのCharlie Kelner氏にそれぞれインタビューを行い、出版社とジャーナルが学術出版をより多様で包括的で公平にする方法について意見を求めました。
これらの議論から見えてきたもの
Sneha Kulkarni(エディテージ・インサイト編集長/Peer Review Week 2021運営委員)は、Scholarly Kitchenの記事で次のようにコメントしています。「一人一人が学術界にもたらす独自性を受け入れることで、同じ概念を異なる視点から見られるようになります。同意できる意見も、同意し難い意見もあるかもしれませんが、少なくとも、他の誰かが指し示している方向に目を向けることはできます。査読におけるアイデンティティとは、多様な声、視点、思考プロセスを勇気を持って迎え入れ、最終的に私たち自身のアイデンティティを豊かにするものなのです」。
これこそが、ピアレビュー・ウィーク2021の目標だったと言えます。イベントの準備を行う中でのチームメンバーや専門家たちとの相互作用もまた有意義な経験であり、豊かな時間でしたが、何よりも嬉しかったのは、イベント終了後に参加者の皆様からさまざまなコメントや感想をお寄せ頂いたことです。その中からいくつかをご紹介しましょう。
「スピーカーの皆さんのお話は、大変ためになる内容でした。査読プロセスや、不受理判定をもらったときの感情のコントロールの仕方など、多くのことを学びました」
– Yeluma Mary Ntali
「参加者と主催者が生き生きと交流する様は、まるで実際の会場で行われているイベントのようでした」
– Hamza Benthami
「卒業後、COVID-19のせいで活動が止まってしまい、自分のスキルや知識の不足にうんざりしていました。このウェビナーは、何があっても学び続けて自分の力を伸ばすよう私を励まし、やる気にさせてくれました。パネリストたちが互いに尊重し合っている様子が素晴らしいと感じました」
– Nuzhat Faizah
「多くのシニア研究者にとって、これらの議論はハッとさせられる内容だったと思います。査読を行うためのスキルを後輩たちに伝えなければ、と思った人もいるでしょう。一方で、先輩研究者から学び、多くの論文を読むことによって、査読を担う側になれるよう若手研究者を鼓舞する内容でもあると感じました」
– Paulina A. Bawingan
「トピックの立て方が絶妙で、パネリストやモデレーターから幅広い考え方が示されていました。異なる価値観を持つ利害関係者たちが共に参加することで、査読のプロセスとその結果が強靭なものになっていけば、前途には真の包括性が待っているでしょう」
–Farida Bello
ピアレビュー・ウィーク2021に参加できなかった方も、イベントをあらためて振り返りたい方も、この記事に掲載したリンクから、ウェビナー動画や公開記事をぜひご覧ください。これらの貴重な議論が、自分のアイデンティティについて考え、他者への共感を深め、対話を始めるきっかけになり、さらには学術出版全体に前向きな変化を起こす一助になれば幸いです。
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