論文出版で不利な立場に置かれ続けるアフリカの研究者

論文出版で不利な立場に置かれ続けるアフリカの研究者

2022年5月から6月にかけて、南アフリカのケープタウンで「第7回研究公正に関する世界会議」が開催されました。会議では、北の先進国と南の発展途上国の共同研究における倫理的問題に焦点が当てられ、研究者グループ間の公平性の問題の解決に向けた「ケープタウン声明(Cape Town Statement)」を取りまとめる方向で一致しました1,2

 

私自身は実のところ、これまでに共同研究で倫理的な問題に出くわしたことはありません。そこで今回、アフリカの研究者が直面している、論文出版における公平性の問題を調べてみることにしました。この記事では、これまでに分かったことをご紹介したいと思います。

 

危ぶまれるアフリカの研究者の著者資格

 

アフリカでは21世紀に産業が発展し、生活の質も向上しましたが3、10億人を超える人口を擁するにもかかわらず、現地から発信される研究は世界の学術的成果のごく一部を占めるにすぎません4

 

情報へのアクセスは改善しましたが、情報の普及も同様に改善されるべきでした。しかし、状況はそう単純ではありません。個人がウェブ上で自由に情報発信できるようになったとはいえ、査読済み論文が信頼のおける最新情報の条件であることに変わりはありません。しかし、アフリカでは、査読付きジャーナルでの出版論文数に大きな増加は見られていません。PLOS Global Public Health5誌に最近掲載されたある論文は、低所得国における1998~2018年の感染症関連の論文著者数の傾向を調べていましたが、それによると、低所得国に属する筆頭著者または最終著者の数は増加していたものの、著者全体の数は減少していました。

 

この傾向は、いわゆる「ヘリコプター研究」あるいは「新植民地科学」が続いていることを示しています。ヘリコプター研究とは、南北問題の研究者が裕福でない地域に「ヘリコプター」で行き、地元の協力者から情報を受け取って、その協力について考慮しないまま出発してしまうことです6。このような研究は、協力者から科学的名声を吸い上げ、現地の研究現場へのリソースの割り当てを妨げ、不平等を定着させ続けます。

 

デジタル革命は平等には達成されていない

 

出版物がデジタル形式に大きく移行したことにより、最新研究へのアクセスは大幅に改善されました。研究者は、国内で出版物が印刷されるのを待つ必要がなくなったのです。オープンアクセスなどの新しい出版形態により、インターネット以前の時代には入手できなかったような情報にも、多くの人がアクセスできるようになりました。ジャーナル購読料に関する論争は続いていますが、情報アクセスへの障壁は、かつてないほど低くなっています。自宅やオフィスからオンラインで必要な情報を瞬時に手に入れることは、図書館で在庫を検索するよりもずっと楽です。

 

出版のデジタル化と画期的なオープンモデルへの移行は、出版プロセスの改善にもつながるはずですが、発展途上国の研究者は、依然としてこの出版プロセスから締め出されています。オープンアクセス出版には高額な費用がかかり、1論文あたり1万ドルを超えることもあります7。こうした課題があるにもかかわらず、アフリカの研究者はオープンアクセス論文の出版に相対的に大きな負担を負っており、しかもその貢献は十分に評価されないままです8

 

ハゲタカ出版—都合のいいスケープゴート?

 

商業出版社は、いわゆるハゲタカ出版社に対する警戒を強めています8。ハゲタカ出版社とは、十分な査読プロセス、発行部数、永続的な管理基準のないままオープンアクセス出版を行なっている出版社です9。ハゲタカ出版は、低所得国の研究者を食い物にする脅威となる可能性がある一方、そうした国々の未成熟な論文出版を脅かし、大手出版社が学術出版に対して持っている強固な統制を維持する要因にもなっています10

 

ハゲタカ出版社の「ブラックリスト」と「ホワイトリスト」には重複が見られることから、その概念には厳密さが欠けていることも指摘されています11。一方、ハゲタカジャーナルに論文を投稿する研究者の動機を誤解することは、未熟さと理解不足からそのようなジャーナルに投稿しているという見方を定着させます10。つまり、代替的な出版ルートがないまま一流誌以外のジャーナルに近づかないよう研究者に警告することは、研究における不平等をさらに深めることにつながるのです。

 

問題解決への取り組み

 

21世紀には、植民地性という概念が書誌学の分野で注目されるようになりました。旧植民地では、当時から続く社会の支配構造が、ヨーロッパ中心主義という現代的な考え方を維持させています12。今のような不公平な出版状況について何らかの対処をしなければ、先進国の企業や研究機関が学術出版に対して持つ優越性を永らえさせることになるでしょう。

 

前述の「研究公正に関する世界会議」での「香港原則」13に関するセッションでSabine Kleinert博士が述べたところによると、著名医学誌The Lancet は、アフリカで収集された情報を使用している論文のうち、現地の協力者への正当な評価のないものは拒否しています。同誌はまた、地域に合わせて調整した論文掲載料を適用することで、経済的に未発展の国での出版環境を改善することにも取り組んでいます14

 

同じ会議の場で、ケープタウン大学のNtobeko Ntusi教授は、研究グループ間の競争は「個人にとってだけでなく、研究エコシステム全体にとって非常に不健康である」と述べました15。肯定的な研究結果を発表したいという気持ちと資金不足も、研究倫理の低下につながる可能性があります。Ntusi教授は、「研究活動のあらゆる段階で公正性を実証するよう関係者を促す」ための、研究機関の重要な役割を指摘しています。

 

一方、アフリカの学術関係者たちは、最近の改善傾向に一定の安堵感を覚えています。たとえばナイジェリアでは、多くの大学が独自のオープンアクセスジャーナルを管理しています。その一例が、1970年代に刊行され、オンライン・オープンアクセス出版への移行を成功させたNigerian Journal of Technology (NIJOTECH)誌です16。同誌は、実際的な問題はあるものの、のしかかる「信頼性の経済」に対して持ちこたえているアフリカ学術界の模範となっています。さらに、アフリカ独自の論文索引は、アフリカから発信された研究の普及に不可欠なリソースとして機能しています。その一つであるAfrican Journals Online17は現在610誌を管理しており、そのおよそ半数がオープンアクセスです。

 

参考資料

  1. ‘Helicopter research’ comes under fire at Cape Town conference. https://www.science.org/content/article/helicopter-research-comes-under-fire-cape-town-conference.
  2. Else, H. African researchers lead campaign for equity in global collaborations. Nature 606, 636–636 (2022).
  3. Overview. World Bank https://www.worldbank.org/en/region/afr/overview.
  4. Elsevier. Africa generates less than 1% of the world’s research; data analytics can change that. Elsevier Connect https://www.elsevier.com/connect/africa-generates-less-than-1-of-the-worlds-research-data-analytics-can-change-that.
  5. Modlin, C. E. et al. Authorship trends in infectious diseases society of America affiliated journal articles conducted in low-income countries, 1998–2018. PLOS Glob. Public Health 2, e0000275 (2022).
  6. Nature addresses helicopter research and ethics dumping. Nature 606, 7–7 (2022).
  7. Opinion: Is Open Access Worth the Cost? The Scientist Magazine https://www.the-scientist.com/critic-at-large/opinion-is-open-access-worth-the-cost-70049.
  8. Africa is a leader in open access—but gets little credit for it. Research Professional News https://www.researchprofessionalnews.com/rr-news-africa-pan-african-2020-10-africa-is-a-leader-in-open-access-but-gets-little-credit-for-it/ (2020).
  9. Cohen, A. J. et al. Perspectives From Authors and Editors in the Biomedical Disciplines on Predatory Journals: Survey Study. J. Med. Internet Res. 21, e13769 (2019).
  10. Mills, D. & Inouye, K. Problematizing ‘predatory publishing’: A systematic review of factors shaping publishing motives, decisions, and experiences. Learn. Publ. 34, 89–104 (2021).
  11. Strinzel, M., Severin, A., Milzow, K. & Egger, M. ‘Blacklists’ and ‘whitelists’ to tackle predatory publishing : A cross-sectional comparison and thematic analysis. https://peerj.com/preprints/27532 (2019) doi:10.7287/peerj.preprints.27532v1.
  12. Some thoughts on how to confront bibliometric coloniality. University World News https://www.universityworldnews.com/post.php?story=20220629101934650.
  13. Moher, D. et al. The Hong Kong Principles for assessing researchers: Fostering research integrity. PLoS Biol. 18, e3000737 (2020).
  14. Renowned journal rejects papers that exclude African researchers. University World News https://www.universityworldnews.com/post.php?story=20220603115640789.
  15. Transparency, collaboration underpin clinical and biomedical research integrity. http://www.news.uct.ac.za/article/-2022-06-01-transparency-collaboration-underpin-clinical-and-biomedical-research-integrity.
  16. Nijotech, E. EDITOR’S NOTE: NIJOTECH is 40. Niger. J. Technol. 34, i–i (2015).
  17. African Journals Online. https://www.ajol.info/index.php/ajol.

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