PubMed内のハゲタカジャーナルに、学術界で懸念の声
米国立医学図書館(NLM)の国立生物工学情報センター(NCBI)が運営する、生物医学系論文のアブストラクトや参考文献のリポジトリであるPubMedは、研究者にとって信頼できる文献ソースです。しかし、デジタルリポジトリ内のハゲタカジャーナルの論文の存在に、研究コミュニティで懸念が芽生え始めています。
著者から論文掲載料を受け取る代わりに論文出版を保証するハゲタカジャーナルは、出版プロセスに不可欠な査読プロセスを無視し、質の低い論文を世に送り出しています。科学コミュニティが懸念を深めているのは、PubMed内で疑わしいジャーナルの論文が何度も発見されているからです。
ナイジェリアの大学で研究者として活動しているスサンタ・パハリ(Susanta Pahari)氏は、PubMedで、ハゲタカの疑いのある4誌のジャーナルの論文を見つけました。DOAJ(オープンアクセス学術誌要覧)と、ハゲタカの疑いがあるジャーナルをまとめた「ビオール氏のリスト」(現在非公開)でそれらのジャーナルを照合した結果、4誌中2誌がハゲタカジャーナルであることが分かりました。この事例は最近のものですが、サッサリ大学生理学教授のフランカ・デリウ(Franca Deriu)氏は、神経科学・神経学・リハビリテーションの分野におけるハゲタカジャーナルの存在を明らかにするために、2017年に2つの研究を実施。その結果、PubMedに複数のハゲタカジャーナルが存在していることが分かりました。
サッサリ大学生理学教授のアンドレア・マンカ(Andrea Manca)氏は、「PubMedは、多くの研究者や関係者が幅広く利用している、信頼度の高いデータベースなので、ハゲタカジャーナルの論文が含まれていることは問題」と指摘しています。マンカ氏は、「これらのジャーナルの論文が、自誌のウェブサイト内に留められていれば、患者や研究者の目に触れる可能性は低くなり、懸念がここまで深まることはなかった」と考えています。PubMed Central(PMC)は、ジャーナルや出版社の論文を収載するオンラインアーカイブで、PubMedに収載されている大多数の論文のソースとなっています。マンカ氏は、「PMCで複数のハゲタカジャーナルが見つかったということは、ハゲタカ出版社のコンテンツは、PMCを経由してPubMedのデータベースに流れ込んだ可能性がある」と指摘しています。
PubMedで公開されているコンテンツの質に関する懸念を精査するため、テキサス大学アーリントン校医学図書館員のピース・ウィリアムソン(Peace Williamson)氏らは、PubMedの論文構成とNLMの品質管理手順に関する調査を行いました。ウィリアムソン氏は、PubMedにおけるハゲタカ出版社の存在は「緊急を要する懸案事項ではない」としながらも、読者や著者に対し、文献を検索する場合は「適切な批評的評価法を実践」するよう求めると同時に、論文の投稿先を選ぶ際は細心の注意を払うよう呼びかけています。
ウィスコンシン大学マディソン校の情報科学教授、キャサリン・スミス(Catherine Smith)氏は、医学図書館協会の会議で、ScopusやGoogle Scholarなどのデジタルリソースにおけるハゲタカジャーナルの存在は、PubMedよりもはるかに大きなものであるという分析結果を発表しました。
以上のような研究者たちの懸念は、決して無視されているわけではありません。NLMのジェリー・シーハン(Jerry Sheehan)副理事長はThe Scientist誌で、「ハゲタカジャーナルの論文がPMC経由でPubMedに流入している問題は承知している」とし、「これらの論文がPMCに収載されなければならないという事実が、問題を難しくしている」と述べています。シーハン氏は、米国立衛生研究所(NIH)の資金提供を受けたすべての研究は、法的または政治的拘束力の下、PMCに収載される必要があり、PubMedの参考文献データベースに含まれなければならないという点を指摘した上で、「それらは、NIHの資金提供を受けた研究の論文です。したがって、資金を提供するかどうかを審査する段階で、厳選なる査読プロセスを経ているはずなのです」と述べています。
この問題を解決するために、NIHは2017年、信頼できるジャーナルを判別するための著者向けガイドラインを発表しました。この問題をきっかけに、一部の大学図書館のウェブサイトでも、信頼できるジャーナルの論文であるかどうかを判定するためのガイドラインが掲載されています。
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