育児は科学界でのキャリアにどのような影響を及ぼすか
ミシガン大学の社会学者、エリン・チェフ(Erin Cech)氏率いる研究によると、米国では科学界でフルタイムのキャリアを歩む女性の40%超が、出産を機にその職を離れています。
チェフ氏は、出産や育児が研究者のキャリアに及ぼす影響を把握するため、 2003~2006年に新たに親となった841名の科学者を対象にデータを集めて調査を行いました。その結果、STEM(科学・技術・工学・数学)分野でのフルタイム職を辞めるのは父親よりも母親が多く、パートタイムに切り替える、非STEM分野のフルタイム職に転職する、仕事を完全に辞めるなどのケースが多く見られました。この調査は、女性が依然としてSTEM分野で過小評価されていることを示すものだと言えるかもしれません。
チェフ氏は、カリフォルニア大学の社会学者であるマリー・ブレア=ロイ(Mary Blair-Loy)氏と共に、米国立科学財団が提供するデータベース:「科学者・技術者統計データシステム」の分析を行いました。2003年時点で子どものいなかったフルタイム科学者を対象に、2006年時点での家族状況を追跡したところ、この期間に841名の科学者に子どもが生まれ、そのうち男性の23%、女性の43%が出産後にフルタイムの職を辞めていました。子どものいる科学者は、子どものいない科学者に比べ、家族の事情によって科学者としてのキャリアを諦めるケースが多いことが分かりました。
チェフ氏は、「この研究は、新たに親となった科学者が仕事と家庭のバランスをとることに苦慮していることを明らかにした最初の研究であり、STEM分野の仕事は、その他の職業よりも育児などの責任に対する文化的許容度や支援体制などが不十分である場合が多い」と述べ、親になった研究者が自分のキャリアを諦めてほかの職に就かざるを得ない事例の多さを指摘しています。
育児は女性のキャリア選択に大きな影響を及ぼす場合が多いようですが、男性がフルタイムの研究職から離れているケースも見られます。ニューヨーク市立大学の心理学者であるバージニア・ヴァリアン(Virginia Valian)氏はこの状況について、「熱心な研究者が私的な生活を持つことを望めないという構造的な問題である」と指摘しています。
若い女性への数学教育に力を入れる数学者のアミ・ラドゥンスカヤ(Ami Radunskaya)氏は、「厳しい環境が当たり前で、最悪の場合は公然と性差別主義的」であるような環境で女性が能力を発揮するのは至難の業であると述べた上で、「とくに、家族を持つ女性がこのストレスと向き合うのは困難」と指摘しています。
ラドゥンスカヤ氏は、子を持つ人々を支援するいくつかの方策を提案しています。上席の研究者たちは、科学界で女性が直面している困難を理解しながら指導を行う必要があるでしょう。また、研究者たちが仕事と私生活のバランスをとれるように、育児休暇などのより良いシステムを構築する必要があるでしょう。
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参考資料:
Nearly half of US female scientists leave full-time science after first child
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