数字のゲーム:インパクトファクターなどの引用指標における7つのグローバル・トレンド

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数字のゲーム:インパクトファクターなどの引用指標における7つのグローバル・トレンド

科学と知識が飛躍的に成長・拡大している昨今は、学術出版にとって胸躍る時代です。科学文献が増え続け、アクセスが容易になるにつれ、資金提供者や研究者にとっては、成長を続ける出版物の学術的影響を評価することの重要性が高まっています。そのため、主な利害関係者たちは、メタデータに基づいた研究指標や分析、すなわち、引用回数、代替指標(alternative metrics)、データ利用のパターンなどに注目しています。引用回数やインパクトファクター(IF)も、引き続き研究成果の検証の基盤をなすことに変わりはありませんが、資金提供者や研究者、図書館、研究機関は、従来の指標に取って代わる、あるいは補完する新しい指標を探し求めており、常に新しい研究指標が考案されています。

影響力を示す指標を利用する際には、学術出版のダイナミックな情勢に対する理解を深めるために、引用のパターンや傾向を知ることが非常に重要です。学術、科学、技術、医学および専門出版社の便益ために組織・運営される国際的な業界団体、国際STM出版協会(The International Association of Scientific, Technical and Medical Publishers)の最近の報告書によると、引用回数やインパクトファクターにおいて注目すべき傾向は、以下の7つとなっています。

 

1. 外国の論文からの引用の割合が増加

引用は、論文のテーマについてさらに掘り下げた議論へと読者を導くものであるため、学術的著述における主要な存在です。2015年のSTM報告書によると、2003年から2008年までの間には、出版された論文数よりも、引用数の方が増加していることが示されています。この間、論文出版点数の増加率は33%でしたが、引用数の増加率は55%でした。一論文あたりの平均被引用数は、1992年には1.7ですが、2012年には2.5となり、世界的に上昇しています。このような傾向の理由として、以下のことが考えられます。

  • 論文数の増加
  • 共著論文の増加
  • 参考文献の増加

引用のインフレ:一論文あたりの平均被引用数の増加(著者の国別)

 

Default Alt textSource: 2015 STM report

研究のグローバル化が引用パターンに影響を及ぼしていることは、注目に値します。つまり、国外(外国)の論文に引用される割合が増加しているのです。国際共著や国際研究に対する意識が高まり、科学分野における主要各国では、国際的な引用(著者の母国ではない外国の国際学術誌への引用)が、過去20年間で徐々に増加してきました。例外は中国で、国際的な引用は、1992年の69%から、2012年の49%へと低下しています。これは、中国で増加している論文数の大半が、中国国内で利用されていることを示唆するものです。

 

2. インパクトファクターの高い学術誌に掲載された論文は、質にバラつきのある可能性がある

学術誌のインパクトファクターとは、その学術誌の「平均的論文」が、一定期間にどれだけ引用されたかを表す指標です。このため、インパクトファクターの高い学術誌は、質の高い論文で構成されていると多くの人が信じています。しかし、STM報告書によると、わずか15%の論文が被引用数の50%を占めており、また被引用数の90%は50%の論文によるものだということです。つまり、ある学術誌の中で上位にある論文は、下位の論文と比べて引用される可能性が9倍高く、またその学術誌には、まったく引用されない論文も多く含まれている場合もあるということです。

 

3. 分野によって引用の仕方が異なる

引用のパターンは、学問分野によって大きく異なります。これは主に、共著論文の割合が異なるためです。基礎研究や純粋研究の分野は、専門研究あるいは応用研究の分野と比べて、インパクトファクターが高くなる傾向にあります。このため、数学のインパクトファクターは平均0.556ですが、分子・細胞生物学のインパクトファクターは平均4.763となっています。この違いによる歪みは大きく、ある分野で上位にある学術誌でも、他分野の下位の学術誌よりもインパクトファクターが低くなる可能性があります。著者は自身の論文を引用する傾向が強く、また共著の平均的人数は研究分野によって異なるため、引用の平均水準には、分野によって大きな差異が生じます。しかしながら、この差異は説明可能で、異分野間の研究を比較する際には、分野ごとに引用の比重を変えることで修正することができます。

 

4. 論文や著者ごとにインパクトを追跡する代替指標の人気が高まっている

学術誌のインパクトファクターは、多くの欠点があるにも関わらず、著者の研究の影響力を評価する基準として広く利用されています。しかし最近、論文の全体的な影響力をより適切に測定するために、引用やダウンロードの指標を補完する、別の指標が提案されています。よく使われる代替指標には、オルトメトリクス(Altmetric)、Source Normalised Impact per Paper (SNIP)SCImago Journal Rank (SJR)、h-indexなどがあります。また、論文あるいは著者レベルで影響度を測定することへの興味が高まっています。KudosImpactStoryは、そのような試みの一部です。論文レベルでの指標は、悪用することが容易であるため、全面的に信頼することができないという点が問題となっています。論文レベルでの指標の計算方法としては、他に、ソーシャルメディアにおける注目度があります。ソーシャルメディアが科学の普及に果たす役割に注目が集まっていますが、真の長期的影響力の測定方法としては、その信頼性は懐疑的だとする見方もあります。

 

5. 古い論文の引用頻度が高まっている

Google Scholarの研究者グループから、引用行為に変化が見られることが報告されています。例えば、古い論文が引用される割合が以前に比べて増えており、また被引用頻度の高い論文が非エリート学術誌に見られる傾向が高まっているということです。この調査を行なった研究者グループは、インターネットによって科学文献へのアクセスやその発見が容易となったため、より古い論文や、非エリート誌の論文が発掘されやすくなったのではないかと考えています。

 

6. 特許への引用で、より広範な影響力を測定する

特許引用とは、特許に科学文献が引用されることです。ある論文がその技術革新において何らかの役割を果たしたという強い関連性を示すため、学術界を超えたより広範な影響力を示す指標と考えられています。特許の付与には時間がかかるため、特許引用は一般的に、文献引用よりも年代が古くなります。例えば全米科学財団(NSF:National Science Foundation)は、5年の期間を空けて、それ以前の11年間を対象として分析を行なっています。米国では2003年から2012年の間に、学術文献を引用する特許の割合が12%から15%に増加しました。引用された論文は、生物科学(48%)、医科学(23%)、化学(11%)の3分野が大半を占めています。

 

7. Journal Usage Factor(利用ファクター):新たな指標の登場

専門家の中には、論文の幅広い影響力を測定するには、論文の引用回数よりも、ダウンロード回数の方が適切な指標になると考える人もいます。これは、読者に実務者が多い医学やその他の学術誌の場合、特に当てはまります。そこで始動したのが、Journal Usage Factor(JUF、利用ファクター)を計算するCOUNTERCounting Online Usage of Networked Electronic Resources)プロジェクトです。JUFとは「フルテキスト論文要求データ全体の中央値」で、ある論文の総ダウンロード数を、一定の期間内にある学術誌に掲載された総論文数で割るという計算方法で求められます。

 

国別の論文ダウンロード数(2010年)

論文のダウンロード数(百万)

世界全体に占める割合(%)

世界全体

1065

100.0

米国

327

30.7

中国

105

9.9

英国

100

9.4

ドイツ

70

6.6

日本

62

5.8

出典: 2014 STM 報告書

 

ダウンロード数は、引用データを補完する上で役に立つ指標かもしれませんが、この2つはそれぞれ読者と著者の選択という別のものを表しているため、従来の指標に取って代わるものにはなり得ません。また、引用とダウンロードには時間的な差もあります。ダウンロードの大部分は、出版直後の数ヶ月がピークとなりますが、引用はそれよりも長い2~3年という期間に積み重ねられていくものです。JUFは、図書館が入手図書を設定する場合や、著者が投稿誌を選ぶ際などの利用にほぼ限られていますが、科学論文の利用パターンを見る上では便利な指標となっています。

 

学問の世界が対象範囲を広げ、領域を拡張しつつある今、従来の指標システムの枠を超え、研究の影響力を測定するためのより良い新たな方法が模索されています。これらの新しい指標は、研究のインパクトのある一面を測定することはできても、従来の指標に置き換わることはなさそうです。

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