韓国学術誌の国際化はどのように進行しているのか?

シリーズ:
パート
07
-
韓国学術誌の国際化はどのように進行しているのか?

堅調に増加する研究開発費

韓国の研究開発予算は、世界で5本の指に入っています。また、研究開発費が全予算に占める割合は、OECD諸国の中で最大です。韓国政府は2015年、研究開発に170億ドルを投じました。研究者のための研究開発費が増大した結果、科学・工学・医学研究(STM研究)は、質量ともに急速な成長を遂げました。2014年に韓国から出版された研究論文のうち、Web of Scienceに採録されたものは53,593本で、国別ランキングで11位でした。韓国で一年間に出版されるSTM分野の論文数は10万本ですが、その半分は国際学術誌から出版されてWeb of Scienceに採録され、もう半分はSCIE(Science Citation Index Expanded)に収録されていない地元の学術誌から出版されているとみられています。しかしながら、韓国のSCIE収録誌はわずか108誌であり、韓国研究者は、自国のSTM誌が過小評価されていると考えています。

 

オープンアクセスの受け入れ増加

韓国では、STM学術誌のほとんどが非営利の学会や研究機関から出版されています。Elsevier、Wiley-Blackwell、Springerなどの商業出版社から出版されるSTM誌はわずか8%です。学術誌の資金源は、学会資金、政府資金、著者から徴収する論文掲載料など様々で、オープンアクセス誌では広告収入も助けとなります。これらのジャーナルは全てフリーアクセスのため、クリエイティブ・コモンズの著作権契約(Creative Commons license)に基づき、編集者は自分たちのジャーナルを容易にオープンアクセス化することができます。

 

主要出版言語としての英語の優位性

オープンアクセスの方針に加えて、国際化推進のためのもう一つの戦略が、英語に特化した出版です。特に医学分野でこの傾向が顕著にみられます。2005年には、英語で出版された医学系学術誌は12誌しかありませんでした。しかし2008年にJATS XMLファイルが開発され、PubMed Central(PMC)への収録が可能になると、主要な医学系学術誌は、使用言語を英語のみに限定し始めました。2015年現在、100誌以上の医学系英文ジャーナルが存在します。言語が変更された主な理由は、PMC/PubMedに収録するためです。PMCに保存された学術誌のXMLファイルは、PubMedに送られることになっています。医学編集者なら皆、PubMedが医学分野における最重要プラットフォームであることを知っています。

 

政府によるジャーナル出版支援

驚くべきことに、2014年以降、全てのSTM誌にDOI(デジタルオブジェクト識別子)番号が付与されています。政府の方針では、DOIの付与されたSTM誌のみが支援の対象となっています。DOIがなければ、韓国科学技術団体総連合会(Korean Federation of Science and Technology Societies、KOFST)の資金による政府の援助を受けることはできません。学術誌市場において、DOIはSTM誌のネットワークツールとして、大変重要です。DOIがあることで、STM誌がインターネットを通して世界の研究者の目により留まりやすくなるからです。さらにKOFSTは、ScienceCentralと呼ばれる、STM分野と全言語に対応した、フルテキストのJATS XMLベースのフリーアクセスあるいはオープンアクセスのデータベースを構築しました。医学分野のPubMed Centralに当たるもので、国際的な水準のプラットフォームとなっています。

KOFSTは、フルテキストJATS XMLファイルの作成に十分な資金を提供しました。そのため、編集者はこれらのファイルをScienceCentralに採録することができるのです。ScienceCentralは各論文にGoogle翻訳機能を付けているので、現地語で書かれた学術誌のすべてが、より多くの研究者の目に触れやすくなっています。もちろん、Google翻訳の質は十分ではありませんが、双方の言語が近い系統にあるならば、十分に機能します。例えば、韓国語と日本語間の翻訳は、英語とフランス語間の翻訳と同程度の理解度を得られるものになっています。JATS XMLを用いれば、論文をPubReaderやepub3.0形式に容易に変換することができるため、スマートフォンやタブレットでも統一されたフォーマットの論文にアクセスできるようになっています。

 

非営利団体を通じた編集者の育成

STMの編集業務は、その大半が研究者や大学教員による非常勤のボランティアで成り立っており、専門の原稿編集者が不足しています。このため、韓国科学編集者会議(Korean Council of Science Editors)は、2011年に専門の原稿編集者講座を開き、2015年には資格認定制度を発足させました。これらの動きは、STM誌の文体・書式の統一を徹底する役割も果たしています。

1996年にはKAMJE(Korean Association of Medical Journal Editors;韓国医学雑誌編集者会議)が設立され、2011年にはKCSE(科学編集者の組織)が設立されました。これらの任意団体は、ヨーロッパ科学編集者協会(European Association of Science Editors)、科学編集者協会(Council of Science Editors)、CrossRef、学協会出版社協会(Association of Learned and Professional Society Publishers)、米国メディカルライター協会(American Medical Writers Association)などによる編集者のための国際会議を開催することにより、編集・出版に関する最新情報を編集者の間に広める支援を行なってきました。さらには、世界中から一流編集者や編集主幹、出版倫理専門家、CrossRefの社員が、編集者育成のために韓国を訪れました。学術誌の国際化のためには、編集者のトレーニングが必要不可欠です。編集者はみな任意で仕事をしているため、国際的な編集者の会合に参加して編集業を深く学ぶことは難しいのです。KAMJEとKCSEが実施したトレーニングは、編集者教育に極めて重要な役割を果たしました。

 

韓国のSTM学術誌と論文の国際化を支えているのは、研究開発予算の堅調な増加、オープンアクセス方針の採用、急速な英語化、編集・出版の最新情報を交換するための編集者会議の組織・運営、政府主導の学術出版支援、出版社の編集者及び原稿編集者へのトレーニングです。さらに、韓国STM学術誌興隆の背景には、編集者による学術誌への献身的な貢献があります。韓国型のSTM学術出版は独特で、世界の学術誌のお手本となるかもしれません。

 

【投稿: スン・ホ博士】

医学博士(MD)。ソウル国立大学で寄生虫学の理学修士、博士号(PhD)を取得。Korean Journal of Medical Educationの副編集長、Journal of Educational Evaluation for Health Professionsの編集者、韓国科学編集者協会(Korean Council of Science Editors)の計画・運営委員会(Committee on Planning and Administration)委員長(2014年3月から)。教育・トレーニング委員会(Committee on Education and Training)の委員長(2011年9月から2014年2月まで)を務めた経験も。韓国の国家医療関係者免許試験審査会(National Health Personnel Licensing Examination Board)の 医師免許試験委員会(Committee of Medical Licensing Examination)メンバーで、副委員長を務める。

韓国医学学術誌編集者協会(Korean Association of Medical Journal Editors)の運営委員を務めていた時期(1996-2011)には、KoreaMed、KoMCI、Synapseなどの韓国の医療系学術誌の医療データベース設立に尽力した。Hallym大学医学部では、医学教育システムの管理・運営に携わった。現在は同大学で寄生虫学の教授を務め、寄生虫のゲノム配列解析の研究に従事している。

学術界でキャリアを積み、出版の旅を歩もうとしている皆様をサポートします!

無制限にアクセスしましょう!登録を行なって、すべてのリソースと活気あふれる研究コミュニティに自由に参加しましょう。

ソーシャルアカウントを使ってワンクリックでサインイン

5万4300人の研究者がここから登録しました。

便利さを実感して頂けましたか?

あなたの周りの研究者にもぜひご紹介ください